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価格転嫁の法順守、運送業の半数超が管理体制なし

2022年12月15日 (木)

調査・データ公正取引委員会と中小企業庁が14日発表した、中小企業のコスト上昇分の適切な価格転嫁を推進する「転嫁円滑化施策パッケージ」に基づく法順守状況の自主点検の結果によると、法順守に向けた社内管理体制について尋ねたところ、買いたたきや減額、支払い遅延に該当する行為をしないように「社内で管理体制を構築していない」と回答した道路貨物運送業は50.6%と過半数を超えた。

「独禁法や下請法違反の未然防止に関する社内規定・マニュアルを整備している」は23.5%、「両法違反を未然に防止する研修を実施している」は25.9%にとどまるなど、価格転嫁に対する運送業界の認識の低さが明らかになった。

(イメージ)

コストアップ分の取引価格への転嫁について「価格交渉の場で明示的に協議せず取引価格を据え置いた」のは、道路貨物運送業が32.8%でトップ。取引価格の引き上げを取引先から求められたにも関わらず「価格転嫁をしない理由を文書や電子メール等で回答せず取引価格を据え置いた」としたのも15.2%で、他業界と比べて優越的な地位による転嫁拒否行為が目立つ傾向が見られた。

一方で、価格転嫁を巡っては「発注者の立場」でみると、発注先に対する取引価格への労務費や原材料費、エネルギーコストといった各種コスト上昇分について「ほとんど転嫁を受け入れていない」と回答したのは17.3%。「一部転嫁を受け入れている」(34.3%)を含めると計51.6%に達し、全業種の中で最も割合が高かった。

「受注者の立場」としては「ほとんど転嫁できていない」が32.0%、「一部転嫁できている」が47.5%で計79.5%。映像・音声・文字情報制作業の82.1%、輸送用機械器具製造業の80.7%に続いて、ワースト3位だった。

適正な運賃収受、それは社会インフラとしての物流を健全化するために欠かせないポイントだ

同じサービスを受けるならば、できる限り安く済ませたい消費者。一方で、サービスの提供側は、きっちりと料金を確保したい本音とは裏腹に、顧客をライバルに奪われたくないから利益の出るギリギリの水準まで値下げする――。それが、荷物の輸配送事業者と顧客との間に存在する奇妙な「利害の一致」だ。つまり、事業者は本来の「適正」な運賃を収受できていないのが実情というわけだ。

サービスの提供者と受益者との間における商取引の原則からすれば、運賃は市場原理を前提としながらも、基本的には両者間の協議で定まるものだ。とはいえ、それが過当な安値競争を招き、結果としてサービスの低下につながってしまっては、まさに本末転倒というものだ。最悪のシナリオなのが、業界への信用の失墜だ。

これは想像の世界の出来事ではない。実際に運送業界で起きている事例なのだ。価格競争の加熱はドライバーの業務における倫理観さえ低下させ、不適切な荷扱いの事例も広く知られるようになった。もちろん一部の事業者に限った話であろうが、業界が陥っている構造的な問題の一端が浮き彫りになったことは間違いない。

物流という仕事が「社会に不可欠なインフラ」と認識されるようになり、生活を支える機能として持続的な発展を求める声も強まっている。とはいえ、消費者は「送料無料」の宅配サービスに慣れてしまっているだけでなく、店頭に並ぶ食材の価格が輸送費の高騰で値上がりすることにも拒否反応が強い。まだまだ「適正な運賃収受」に対する理解は深まっていないと実感する。

公正取引委員会が、下請法違反行為が多く認められる業種における法順守状況の自主点検結果として、一般貨物自動車運送業における取引適正化に向けた取り組みを継続するよう求めた。燃料費高騰などの社会情勢を踏まえて、適正な運賃収受について荷主企業などの理解を求めるものだ。

つまり、発注者と受注者の双方で、価格転嫁を受け入れていない、またはできていない事業者が一定数あったことを示している。物流を社会インフラと位置付けるのは、それが当たり前のように存在するからではない。適正な運賃に裏付けられた健全な形で機能していることが前提なのだ。

宅配サービスで商品を受け取る際に、いま手にしている商品は本当に適正な運賃で運ばれてきただろうか。消費者がふと頭を巡らせてみることだけでも、輸送現場の担い手は救われるのではないか。(編集部・清水直樹)

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