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アイデア力生きるアイリスオーヤマの節電提案

2023年6月8日 (木)

話題物価高騰の流れは落ち着く様子がない。特に電気料金の値上がりは深刻だ。石炭、LNG(液化天然ガス)の輸入価格が上昇し、電力市況自体の悪化や電力需給ひっ迫、ウクライナ情勢の膠着(こうちゃく)などで高止まりする状況など、今後も明るくなる見通しは見えない。

(イメージ)

特に倉庫事業においての電気料金値上がりは深刻だ。天井高の広い空間を、安定した温度・空調で管理する業界の特性から、多大な電力が必要となることは説明するまでもない。

エネルギー消費量の内訳において、定温倉庫では「空調・換気」が占める割合が26%程度、「冷凍冷蔵」が占める割合も20%以上とされ、冷凍冷蔵倉庫に至っては「冷凍冷蔵」に費やす割合が全エネルギー消費量70%以上だという。

加えて、帝国データバンクの「電気料金値上げに関する企業の実態アンケート」では、あらゆる業種で光熱費が増加し、「運輸・通信業」のジャンルでは80%以上の企業が光熱費増加したとの調査結果も公開されている。

電気料金の値上げが死活問題につながる倉庫業において、今回注目したいのがアイリスオーヤマ(宮城県仙台市)がBtoB事業として提案する節電空調ソリューション「エナジーセーバー」である。電気料金に真剣に悩む倉庫事業者に、数々のアイデア商品の提供で知られる、同社の新しい節電提案を紹介する。

電力不足から拡大したBtoB事業

身の回りのアイデアがあふれる家電や、日用品などでなじみが深いアイリスオーヤマだが、近年、その事業領域を大きく広げているのがBtoB事業への展開である。エナジーセーバーも、BtoBソリューションとして4月に発売された。

▲アイリスオーヤマ 執行役員 BtoB事業グループ メーカー本部 本部長 本所翔平氏

「BtoB事業への展開は、東日本大震災がきっかけでした。日本全国で電力が足りなくなる状況で、節電の必要性が高まる中、弊社が手掛けたのがLED照明への切り替えによる照明の節電提案でした」(アイリスオーヤマ BtoB事業グループ メーカー本部 執行役員 本部長 本所翔平氏)

当時の状況下でユーザーのニーズに沿った節電・省エネ提案をできることは、未曽有の危機の下、社会的な要請に応える意味でも大きな意義があったのではないだろうか。今ではLED照明がすっかりスタンダードとなり、その功績は大きい。東日本大震災は「電気が足りない」という状況を生み出したが、今は「電気が高い」という、ある意味、新しい「未曽有の危機」にあるといってもよいだろう。倉庫事業者にとっては節電対策は待ったなしの状況だ。

「LED照明での節電については、明るさの調整や人感センサーの活用によるプラスαの削減提案を行っていますが、ほぼ成熟してしまった部分もあります。そこで、新たにインパクトの強い節電策として提案させていただくのが、空調での節電提案です。空調にまつわる電気代も、やはり経営の中で大きな比重を占めているのが現状です。空調にかかる電気使用量の削減、あるいは照明と空調を合わせたトータルでのご提案で、コスト削減に貢献できればと考えています」(本所氏)。

エナジーセーバーによる電力削減の仕組み

▲エナジーセーバー

同社が4月に発売したエナジーセーバーは、室内温度を検知して空調の運転を制御することで電気使用量を大幅に削減できる、今までにないタイプの法人向け省エネソリューションである。既存の空調機器に「後付け」するだけで節電効果が得られるといい、導入ターゲットとしては、冷蔵倉庫、冷房施設など、長期間かつ継続的に冷房・空調が稼動する施設での使用が特に効果的とされている。

ー既存の空調機に後付けするだけで節電対策ができるとのことですが、その仕組みについて教えてください。

「まず、空調の消費電力がかかるのは、希望する設定温度に対して室内温度が上下に大きくバラつくこと、また、それを調整しようと室外機のコンプレッサーがムダに稼働してしまうのが原因です。設定温度に対して冷やしすぎたりすることなく、室内温度の上下幅を減らし、コンプレッサーの不要な稼働を調整することで、消費電力を削減します。」(本所氏)。

現状、空調での節電対策としてデマンドコントローラーを使った温度調整が取り入れられていたりもするが、これはあらかじめ設定した、最大ピーク電力に近づいた際に、空調を運転プログラムとは逆らうように止めてしまうものであり、強制停止による室内温度の上昇や空調室外機への負荷がかかることでのダメージなどの懸念がある。

▲室内温度の変化とコンプレッサー稼働状況のイメージ図

エナジーセーバーでは空調を止めることなく、設定温度に近い温度帯での室内温調整ができる。また、既存の空調機メーカー各社の製品に後付けできるので、大きな設備改修も必要としない。

「まず、既存の室内空調機の吸い込み口・吹き出し口に温度センサー(サーミスタ)を設置します。この温度センサーがリアルタイムで温度状況を感知し、インプットした温度情報をもとに空調機に制御指示することで、温度の上下変動を小さくします。空調機を止めるのではなく、あくまで空調機自体のプログラムで最適な動きをすることになるので、空調装置への負荷も少ないシステムです」(本所氏)。

 

運用テストで証明された節電効果

(クリックして拡大)

その消費電力削減効果については、各現場での実証テストを重ね、具体例も挙がっている。東北の429平方メートル(130坪)のスーパーでは、22度の温度設定で1日12時間の空調機稼働を昨年の7月に検証し、消費電力を85%削減。その月の削減電力料金は、33万円以上となった。

また、関東の991平方メートル(300坪)のスーパーでは、昨年9月に23度の温度設定で、12時間稼働で、月50%の削減を果たしている。空調が常時稼働する5950平方メートル(1800坪)の東北冷蔵倉庫では、13度の設定で79%削減、昨年9月の電気料金削減額は、685万円以上になったという、インパクトある数字が報告されている。

▲2022年の技術実証一覧(クリックして拡大)

もちろん、資材の倉庫への出し入れ頻度など、諸条件によっても削減効果は変わってくる。庫内に熱源があったり、外気が入りやすかったりする環境などでは削減率も低下するとしているが、それでも「想定していた最低でも25%以上、平均で30%以上の削減効果は確認しており、節電効果は保証できる」と、その省エネ効果に本所氏も自信を深める。省エネ機種への総入れ替えという選択肢が、コスト面で現実的ではないのであれば、エナジーセーバーは、説得力ある選択肢といえる。

「夏に間に合う」が重要

では、具体的に導入を検討する場合はどういう手順を経るのか。

「導入に関しては、当社の専門スタッフが、現場での具体的な状況やご希望を確認することからスタートします。元来、空調機自体というのは施設の大きさや建築構造に合わせたオーダーメイドのものではありません。なので、その現場、現場に合わせて空調機の稼働を最適化をする作業が最も重要になります。これがエナジーセーバーが行っている本質になります。導入現場ごとにスタッフが立ち会って、その現場に応じた設定の対応をします。また、それらに伴うサービス提供エリアの限定もありません。日本全国、どこでもすぐに対応が可能です」(本所氏)。

ー導入までのリードタイムは?

「当社スタッフによる事前確認を、今のタイミング(6月中)で始めることができれば、この夏からの運用が可能です。デマンド値を下げる意味でも、一番効果が発揮される夏までに運用可能にすることが重要なことだと考えています」(本所氏)。

スタッフによる現場確認と最適化設定のシミュレーションからスタートして、導入コスト(初期コスト、トータルコスト)、従来の電力量に対してどの程度の削減が可能か試算表をもとに検討することで対費用効果を検証。また、買い取りだけではなく、レンタルにも5年、7年という期間設定で対応できるので、当面の予算枠に合わせた導入も可能だという。

また、パッケージ型空調機(室内機と室外機がセットで稼働するもの)ならば、1台のエナジーセーバーで同時に最大8基の空調を、冷凍機ならば、1台のエナジーセーバーで3基までの制御が可能で、大きなメンテナンス費用を計上する必要もない。

5月から早くも夏日を記録するなど、本格化する夏に向けて、気候の動向にはますます敏感にならざるを得ない。この夏へ向けて、どのような具体的な対策を取れるかで事業の明暗が分かれるとなれば、様々な選択肢を真剣に検討して最終決断を下す、今こそ最後のチャンスなのかもしれない。

業界へのもう1つの提案、プラズマガードプロアイリスエディション

ー御社のアイデアには、物流業界関係者にも「なるほど」と思わせるものがたくさんあります。物流業界のマーケット攻略をどのように展望されていますか?

「まだまだこれから、というのが正直なところです。とはいえ、カメラ技術、顔認証技術を生かしたセキュリティーシステムや、測定から記録までクラウド管理できるアルコールチェッカーなど、すでに、いくつか具体的な連携も実施しています」(本所氏)。

▲PlasmaGuard PRO (設置型)

そんな多様なアイデアの中でも、特にエナジーセーバーと並んで倉庫業との親和性の高そうな商品が、イオンの生成で空気清浄するプラズマ除菌ソリューション「プラズマガードプロ」である。

「いわゆる家庭用としても見かけるイオン発生機の大型仕様か?」と思わせるのだが、「プラズマガードプロの特長は、なんといってもイオンの寿命が長いということです。プラズマガードプロで発生したイオン寿命は約1時間におよび、より広い空間に行き渡り、ウイルス抑制、防菌防カビ、脱臭に効果を発揮します」(本所氏)という。

他社のイオン寿命は10分程度ともいわれており、確かに1時間にわたってのイオン除菌効果は、けた違いの能力といえる。

オフィスや公共施設での導入はもちろんだが、特に食品を扱う物流施設などの諸問題の改善が期待できることを考えると、商品管理の面からもスタッフのウェルネスの面からも興味深い。「特に倉庫でのカビ対策などでも有効だと思います。ぜひ、物流現場の皆様のご意見を参考にさせて下さい」(本所氏)。

アイデア力で物流業界に存在感

▲PlasmaGuard PRO(置き型)

アイリスオーヤマのBtoB事業は、ピンチの状況にこそ、その真価を発揮するともいえる。特にエナジーセーバーでは、電力費高騰時代の節電コンサルタント的な意味合いが、プラズマガードプロでは、見えない汚染に敏感な時代ならではの問題解決策としての意義もある。

同社の手掛けるロボティクス事業など、今後も同社と物流業界の接点は無限に広がる可能性があるが、業界が抱える数々の問題も、この会社ならば全く違う視点による斬新なアイデアで解決してくれるのではないか、そんな期待が膨らむ。