ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「ピンチをチャンスに」新潮流生まれる冷凍冷蔵物流

2023年6月8日 (木)

話題物流ビジネスは今、未曾有の危機に直面している。トラックドライバーや倉庫作業員の人手不足。赤字から脱却できない中小物流企業。高騰する物流コスト。EC(電子商取引)を筆頭に、物流への期待とニーズは高まっているのに、その担い手たる運送会社や倉庫会社は、長年にわたって放置されてきた構造的な課題に苦しんでいる。

そして、このタイミングで物流ビジネスを襲ったのが、新型コロナウイルスと「物流の2024年問題」である。泣きっ面に蜂とは、まさにこのことであろう。だが、へこたれてばかりいられない。このピンチをチャンスと捉え、ビジネスをドライブさせていこうという流れが、さまざまなビジネスシーンで生まれている。冷凍冷蔵物流もしかりである。

新型コロナウイルスや「物流の2024年問題」が業界に痛打を与えている今だからこそ、ビジネスチャンスを見出す冷凍冷蔵物流の新たな潮流について、解説しよう。

拡大する冷食ブーム

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って発令された緊急事態宣言は、旅行産業、アミューズメント・レジャー産業、そして外食産業などに、大きな打撃を与えた。

こういった、コロナ禍で大打撃を被った産業もあれば、逆に新型コロナウイルスが追い風となった産業もある。いわゆる、巣ごもり需要を支えた製品やサービスを擁する産業である。

例えば、任天堂は2021年3月期の決算において、営業利益、純利益とも過去最高益をマークした。これはコロナ禍で思うように外出できない人々が、家で過ごす無聊(ぶりょう)を慰めるためにゲーム機「ニンテンドースイッチ」や、ゲームソフトを購入した結果であろう。お恥ずかしながら、筆者も1994年に発売された「PlayStation」以来、30年ぶりにニンテンドースイッチを購入し、任天堂の最高益に貢献した1人である。

そして、巣ごもり需要を引き上げた要因の一つが、内食ブーム・中食ブームである。内食は、素材から自宅で調理し食べること。中食は、調理済み食材や惣菜を自宅で食べること。そして、内食・中食ブームを支えたのが、冷食(冷凍食品)である。実際、新型コロナウイルスを転機に、冷凍食品はどれくらい売れたのか。一般社団法人日本冷凍食品協会の統計データを読み解いてみよう。

・2020年における冷凍食品の国内生産は、数量ベースで前年比97.7%、金額ベースで同100.4%

これだけだと、冷食ブームの真の姿は見えてこない。

・2020年業務用冷凍食品の国内生産量は、数量ベースで87%、金額ベースで85.9%
・2020年家庭用冷凍食品の国内生産量は、数量ベースで111.4%、金額ベースで117.8%

業務用と家庭用を分けてみると、打撃を受けた外食と、巣ごもり需要で躍進した内食・中食という構図がはっきりと見えてくる。ちなみに、ここで言う冷凍食品とは、餃子などの調理食品だけを指すのではなく、冷凍野菜などの素材も指すことを付記しておく。



▲新型コロナウイルス感染症拡大により、家庭用の冷凍食品生産が数量ベース(上図)・金額ベース(下図)で業務用を上回った。

コロナ禍で火が着いた冷食ブームはその後も拡大し、22年の国民一人当たりの冷凍食品消費量は23.9キロ、国内生産と輸入を合算した金額も1兆2065億円(21年比110.5%)と、それぞれ過去最高値をマークした。

留意してほしいのは、ここで挙げた数値は、日本冷凍食品協会会員だけのデータであるという点である。例えば、商社や小売が独自に生産、あるいは輸入しているケースや、EC拡大に伴い、地方の生産農家、漁協、あるいはメーカーや卸などが生産・販売した実績は、ここに含まれていない。

冷食ブームの影で、顕在化する冷凍冷蔵倉庫の課題

冷食ブームは、一方でいくつか課題を生み出した。その一つが、冷凍冷蔵物流のインフラとなる、「倉」と「クルマ」の課題である。「倉」、すなわち冷凍冷蔵倉庫の課題から考えていこう。

冷凍冷蔵食品の製造や卸を専業として、大量に取り扱うメーカー、卸、小売など荷主の場合はともかく、そこまでの取扱物量が見込めない荷主にとって、冷凍冷蔵倉庫の調達はハードルが高い。あくまで一般論ではあるが、冷凍冷蔵倉庫は、一般的なドライ倉庫に比べ、2倍の建築費が掛かると言われている。自社倉庫を新設するハードルも高いし、そもそも冷凍冷蔵倉庫の賃借物件も限られているからだ。

賃借のドライ倉庫を借りて、冷凍冷蔵設備を造作するという手もあるが、これまた課題がある。近年、あちこちで見受けられるマルチテナント型物流施設の場合、天井高が5.5メートルに設計されていることが多い。これは、一般的なネステナーなどを用い、貨物を3段積みしたときの適正な高さであるからだ(天井高を上げ、貨物を4段積みすると、今度は一般的なフォークリフトでは対応できない)。

だが、天井高5.5メートルの倉庫に、冷凍冷蔵設備を造作すると、天井高が低くなってしまう。つまり貨物を収納した場合、2段積みプラス中途半端な空間が残ることになり、収納効率が悪くなるのだ。他にも、庫内に冷凍冷蔵設備を設置する適当なスペースがなく、駐車場に設置しなければならなかったり、退去時の原状復帰に、ともすれば億単位のコストが掛かるケースなど、ドライ倉庫を冷凍冷蔵倉庫に転用する際には、複数の課題がある。

では、冷食ブームにあやかり、冷凍冷蔵食品販売に新規参入する商社や小売、あるいはECメインで販売を考える地方の小規模生産者などが、新たに冷凍冷蔵倉庫を構えたいとすれば、どうすれば良いのか?

これまでのケースで言うと、大手冷凍倉庫会社の倉庫内を間借りすることが現実的な選択肢である。だが、この選択肢にも課題がある。そもそも絶対数が不足している上、ロケーションの選択肢が限られる、庫内オペレーションを大家となる大手冷凍倉庫に依存せざるを得ないといった不自由があるからだ。

冷凍冷蔵専用マルチテナント型物流施設の登場

そこで注目されつつあるのが、冷凍冷蔵専用に設計されたマルチテナント型物流施設である。こういった賃借施設であれば、比較的小さいスペース(例えば2000~3000坪くらい)から、冷凍冷蔵倉庫を利用することができる。

もう一つ、冷凍冷蔵専用マルチテナント型物流施設には別のメリットもある。ビジネスの自由度が上がり、経営の選択肢が増えるというメリットである。ビジネスが変化するスピードは年々加速している。もちろんこれは、物流も同様である。だが物流は、貨物という実体のあるモノを、倉庫、あるいはトラックなどの実態のあるモノで取り扱うビジネスである。この実体が邪魔をし、ビジネスの変化に対応しにくいケースが、物流では間々発生する。

一例を挙げよう。自社冷凍冷蔵倉庫を構える物流企業A社は、もともと大手スーパーの物流センター業務を受託していたが、取り引きを切られてしまった。理由は以下のとおりだ。

・店舗の統廃合が進んだ結果、物流センターのある場所が、デリバリーを行う上での最適地ではなくなってしまった。

・地球温暖化対策の一環として、冷凍冷蔵装置において冷媒として使用されるフロンガスを代替フロンなどに転換しなければならない(モントリオール議定書)のだが、そのための投資が高額(1億円以上)であり、物流コストの圧縮をもくろむ荷主から見限られた。

これがもし、自社倉庫(自社所有物件)ではなく、賃借物流施設であれば、A社は荷主である大手物流スーパーのサプライチェーンを鑑み、最適な立地へと移転し、荷主から見限られることもなくビジネスを継続できていたはずだ。現実は、A社は大幅なリストラを行い、かと言って冷凍冷蔵設備を更新することもできず、”元”冷凍冷蔵倉庫を、ドライ倉庫として転用し、細々とビジネスを続けている。

「昔は、『不動産=資産』と捉え、例えば20年で減価償却を行い、『後は賃料丸儲けだよね』なんて話していましたが。最近の経営の考え方だと、『不動産を持つと、バランスシートが重くなる』という考え方をする経営者や銀行も増えてきました。ビジネスやマーケットの対応力を考えると、今は自社倉庫ではなく、賃借かなと思いますね」これは、最近賃借で冷凍倉庫を新設した、ある物流企業の弁である。こういった背景もあり、冷凍冷蔵倉庫専用マルチテナント型物流施設が注目され始めているのだ。

冷凍冷蔵トラック輸送は、「運送会社が荷主を選ぶ時代」へ

「倉」に続いて、「クルマ」の話もしておこう。

「今までは、『荷主が運送会社を選ぶ時代』でしたが、これからは『運送会社が荷主を選ぶ時代』が来ると考えています」。このように語るのは、日東物流(千葉県四街道市)の菅原拓也社長である。

▲日東物流の菅原拓也社長

今まで、冷凍冷蔵食品に限らず、青果、ドライ品なども含めた食品トラック輸送は、総じて極めて安い運賃を強いられてきた。荷主サイドは、運賃が安い理由について、「食品輸送はなくならない安定ビジネスである」と主張し、運送会社の不満を抑えてきた。

だが、菅原氏いわく、今年に入ってから、これまででは考えられないような高水準の輸送案件が獲得できたことがあったというのだ。「コロナ禍で、私どもの仕事が変わったという感触はないのですが、『物流の2024年問題』が転機になっていることは感じます」(菅原氏)

「物流の2024年問題」では、2024年4月1日以降、トラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限される。現在のドライバーのうち、26.6%がこの上限規制を超えた働き方をしているという調査結果もある。

現実的には、2024年4月1日以降、年間時間外労働時間が960時間を超えているドライバーおよびそのドライバーを雇用する運送会社が、一斉に行政処分などを受け、営業に支障をきたすことは考えられない。国内には6万2000社強の運送会社があるし、それに対し、労務コンプライアンスを監視し、ブラック運送会社を摘発する労基署などの職員は、悲しいほどに少ない。実際、こういった現実を盾に、「『物流の2024年問題』なんて怖くないよ」とうそぶく運送従事者がいるのは事実だ。

だが、荷主側はこうはいかない。もし、輸送を任せている運送会社が行政から営業停止などの行政処分を受けた場合、サプライチェーンが断絶してしまう。そして、その危機をよりリアルなものにするのが「物流の2024年問題」なのである。

「最近、当社にご相談いただく荷主は、『物流の2024年問題』によってトラック輸送が滞ることを恐れています。結果、当社のようにホワイトな働き方や経営を実現している運送会社を、多少高値を出してでも、『今のうちに確保しておこう』と考えているようです」(菅原氏)

菅原氏の言う、「運送会社が荷主を選ぶ時代」とは、すべての運送会社を指すものではない。日東物流のような、荷主が求める強みを備えた運送会社だけが得られるものであることは、付記しておこう。

冷凍冷蔵トラック輸送における共同配送

「物流の2024年問題」がもたらす、トラック輸送リソースの不足を解消するための手段として、注目されているのが共同配送である。例えば、LOGISTICS TODAYでも、ダイセーエブリー二十四が仕掛ける、チルド輸送の共同配送を取り上げたことがある。この取り組みは、食品メーカー、あるいは卸などの物流センターと、小売店物流センターの間をつなぐ、センター前共同配送の取り組みである。

各店舗へのトラック輸送における共同配送について、菅原氏はこのように語っている。「あくまで私の知る範囲ではありますが、店舗への共同配送を行っている運送会社は、総じて苦しんでいるように感じています。荷物が集まらないからです」。この菅原氏の肌感覚は、とても興味深い。というのは、逆に言えばこれこそが、冷凍冷蔵食品を含む食品トラック輸送ビジネスにおける伸びしろであり、変革の余地だからだ。

食品の小売は、そもそも薄利多売のビジネスである。だからこそ、トラック輸送に関しても、運賃が低い水準で抑えられてきた。その食品輸送において、これまでよりも高い運賃を提示し、日東物流のような競争力のある運送会社を確保するとどうなるか?

もちろん、小売店は消費者への価格転嫁も行うだろうが、それは小売店自身の価値を損ない、競合他社の後塵を拝する結果にもなりかねない。だからこそ、食品輸送は、より一層の輸送効率化を図る必要に迫られる。

そのためには、共同配送はもちろん、荷役の効率化、待ち時間の削減、積載効率の向上など、全方位での輸送効率化が求められる。もともと利益率の低い輸送貨物だからこそ、かえって他産業の貨物に比べ、輸送変革が起こりやすい環境が整っているとも考えられる。

先般、サミット、マルエツ、ヤオコー、ライフコーポレーションの大手食品スーパー4社が、共同記者会見を開き、食品流通網のあり方を再構築すると宣言した。これも、冷凍冷蔵輸送が変わる兆しの一つなのだろう。ある冷凍食品関係者から、こんな言葉を聞いたことがある。「家庭用冷蔵庫の、冷凍庫スペースがもっと拡大すれば、冷食ブームはもっと拡大する」。

ある調査では、子供と同居する家庭の7割弱(68.1%)、共働き家庭では7割以上(70.7%)が、「冷凍庫がパンパン」だと回答しており、最近では従来の冷蔵庫とは別に、冷凍専用に利用する、セカンド冷凍庫の売れ行きが良いそうだ。

冷食ブームはますます加速する。だとすれば、冷凍冷蔵物流のビジネスチャンスもますます拡大するはずだ。この新潮流、今後の動向が見逃せない。