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マルチ型冷凍冷蔵倉庫に自信、三菱地所の試行錯誤

2023年6月8日 (木)

話題京都府の高速道路インターチェンジ(IC)直結型の「次世代基幹物流施設」開発プロジェクトが記憶に新しい三菱地所。総合不動産デベロッパーとしてだけでなく、物流施設デベロッパーとしても確固たる地位を築きつつある同社は、昨年11月、大阪市住之江区に冷凍冷蔵専用マルチテナント型物流施設を開発することを発表した。

2017年に入居企業専用に開発されたBTS型の冷凍冷蔵物流施設「ロジクロス神戸三田」を完成させてから、5年あまりでさらにBTS型施設1棟を開発したことに加え、マルチテナント型施設1棟の開発を計画している。冷凍冷蔵設備を備えた施設の供給は事例が少ないなか、マルチテナント型冷凍冷蔵物流施設の開発に至った背景とは何なのか。

▲「大阪市住之江区柴谷冷凍冷蔵物流施設計画」(仮称)の完成イメージ

BTS型の開発を進める一方、マルチ型を求める声も

新型コロナウイルス感染症拡大に端を発する生活様式の変化により、冷凍冷蔵食品の需要は急激に増加した。それに伴い冷凍冷蔵倉庫開発の機運も高まったが、マルチテナント型となると事情が異なる。事業者の規模、扱う食品や医薬品などの商材によって、必要となる温度帯や設備、倉庫レイアウトなどが異なることから、一つの倉庫のなかで事業者の多様なニーズに柔軟に応えるというのは難しい。ゆえに、冷凍冷蔵商品を扱う事業者は自社倉庫の運用か、専用のBTS型倉庫を借りるのが社会通念となっている。

三菱地所も例に漏れず、主に近畿圏でスーパーマーケットを運営するさとう(京都府福知山市)の専用施設として開発したロジクロス神戸三田を皮切りに、22年には冷凍冷蔵物流を手がける荒木運輸(大阪市西淀川区)に、これもBTS型の「ロジクロス大阪交野」を提供している。いずれも関西の大都市圏にアクセスの良い冷凍冷蔵倉庫需要を取り込んだ形だが、すでにこの時、着々とマルチテナント型の開発プロジェクトを同時並行で進めていた。


▲いずれもBTS型の(左から)ロジクロス神戸三田、ロジクロス大阪交野

「ドライ倉庫と比べて事業者のパイが少ないことから踏み切れなかったが、以前から確かな需要のストックがあった」と語るのは物流施設事業部の安達大二郎氏。BTS型施設の開発を経て得た手応えと知見を生かし、以前から構想していたマルチテナント型の冷凍冷蔵施設開発に踏み切った。「昨今の冷食技術の向上や、食品物流事業者以外の新規参入の話も聞こえてきつつある」(同氏)などの背景も背中を押した。

「駄目出し」を受け入れ、事業者とのずれを解消

とはいえ、賃貸型冷凍冷蔵倉庫の供給事例が少ない今、借りる側は一抹の不安は拭えない。もし事業者の需要と十分にマッチできない施設や設備であれば、昨今の光熱費が高止まりしている状況を考えても、冷凍冷蔵倉庫を運営すること自体がリスキーだと言っていい。一定のテナント確保には、市場にいる大勢の事業者の需要に沿う「汎用的な」ものでなければならない。

▲物流施設事業部の安達大二郎氏

同社はこの汎用性の見極めを、事業者に対する徹底したヒアリングを行ってクリアにしていった。プロジェクトの立ち上げが決まると、1年をかけて事業者が求める温度帯、重宝される設備、必要な区画など、あらゆる分野での共通項を導き出し、構想を詰めていった。ここで十分なニーズを取り込んだ設計図を仕立てるのだが、次のフェーズですぐさま開発…とはしなかった。

「たたき台の図面を一度書いてみて、事業者に一回見せて、意見をもらう。そこで事業者から『駄目出し』を受けることで、知見を集積していった」(安達氏)。自問自答を繰り返すだけでは本当のニーズを読み違える可能性がある。一度起こした案を事業者との対話によってすり合わせることで、時間をかけて慎重にニーズを見定める作業を重ねてきた。

今後は冷凍冷蔵分野での新規事業の立ち上げやEC(電子商取引)進出をもくろむ事業者も増えることで、賃貸型の冷凍冷蔵倉庫需要も高まるとみている。「初期コストを抑えたい」、「短期間で借りたい」などはいずれも賃貸型倉庫のメリットではあるが、専門性の高い冷凍冷蔵倉庫には一見合致しない。それでも「元々はドライ倉庫にしても自社倉庫が主流であった。冷凍冷蔵でも同様の需要が増えるのではないか」(安達氏)と語る。

▲物流施設事業部長の前野進吾氏

地価が高止まりしている現状から、自社で倉庫を持つことにもリスクが伴う。物流施設事業部長の前野進吾氏は「不動産における所有と経営の分離ではないが、アセットを持つことは不動産業などのプレーヤーに任せ、本業に注力するという理由で賃貸型を選ぶ事業者も多くなったのではないか」と話す。本流の物流機能の向上やM&Aなどへの資金の振り分け、加えて配送費用の高騰などに備えるといった面でも、施設保有を他者に任せることの恩恵は少なくない。

関西大都市圏の輸配送ニーズに応える仕様に

大阪市住之江区柴谷冷凍冷蔵物流施設計画(仮称)の物流倉庫としてのポテンシャルはいかほどか。施設は地上4階建てのRCS造。2万1300平方メートルの敷地に、4万3500平方メートルの延床面積を誇る。高床式で、床荷重は1平方メートル当たり1.5トン、有効天井高は一部を除き5.5メートルを確保した。

▲大阪の消費地に近く、関西の広域配送拠点としても優位性を持つ

立地面では阪神高速15号堺線・玉出インターチェンジ(IC)から2.2キロ、同4号湾岸線・南港中ICから3.4キロと、関西の大都市圏を押さえつつ、広域範囲への配送拠点として利便性が高い。アクセス面では大阪メトロ四つ橋線・北加賀谷駅から徒歩15分、最寄りのバス停からは徒歩6分と従業員確保の点でも優位性を持つ。施設タイプは縦割りのボックス型で、3テナントまで分割可能とした。25年1月に完成し、2月からの稼働を予定する。

倉庫の中身について、物流施設事業部のラーピセートパン・スッティカン氏は「温度は可変式の区画を幅広く取ったり、温度差が大幅な場合は一定の制約があるものの隣接するテナントと違う温度帯にも対応したり、事業者のニーズを踏まえた造りとしている」と説明。温度可変型の区画の設定温度は10度からマイナス25度。必要な庫内設備は同社が用意する。昨今求められている、フロンから環境にやさしいグリーン冷媒への転換に配慮し、自然冷媒を採用している。急激な温度の上げ下げには一定の期間が必要だが、倉庫を借りる事業者からあらかじめ使用する温度帯を聞き入れることで、入居前に冷やし込みを行い、荷物を運び込みさえすればすぐに使用できる環境が整うという。

マルチ型冷凍冷蔵倉庫の展望、ニーズ変化への対応がカギ

▲物流施設事業部のラーピセートパン・   スッティカン氏

冷凍冷蔵専用のマルチテナント型施設市場の今後をどう展望しているのか。スッティカン氏は「需要が一気に増えることにはならないと予測するが、マルチ型に着手するデベロッパーも増えてきており、マーケット自体はしだいに成熟していくだろう。そうなれば市場分析なども進み、事業者も借りることへの抵抗感が薄れる。ドライ倉庫と同じような形で需要が増えていくことを期待したい」と語る。

とはいえ、懸念がないわけではない。冷凍冷蔵倉庫のスタンダードとされる部分の見極めが、まだ業界内では不明瞭とされているからだ。過酷な環境下の作業が求められる庫内では、親和性の高い自動倉庫の需要も少なくないが、果たしてマルチテナント型にも当てはまる条件なのか。「どこまで対応していくのか。本当に需要があるかを見極めた上で対応していきたい」(前野氏)と、あくまで慎重な姿勢を崩していない。

他社との差別化という点では、同社が出資するGaussy(ガウシー、東京都港区)における倉庫マッチング機能の活用も念頭に入れる。事業者に倉庫を借りてもらい、その先の荷物をマッチングによって集める形でのサポートも構想に入れる。

いずれにせよ、冷凍冷蔵倉庫市場の動向や、事業者へのヒアリングなどを経て、今後のニーズを模索していく姿勢に変わりはない。次世代の革新的な冷凍冷蔵倉庫の創出には、ニーズの変化を捉えることがカギとなってくる。三菱地所は、十分にその素養を持ち合わせているように思える。

「大阪市住之江区柴谷冷凍冷蔵物流施設計画」(仮称)

所在地:大阪府大阪市住之江区柴谷1-1-71
敷地面積:2万1300平方メートル
延床面積:4万3500平方メートル
構造:地上4階建て、RCS造
仕様:有効天井高5.5メートル、柱スパン11.3×10.25メートル、床荷重1.5t/m2
設備:垂直搬送機8基、荷物用EV4基、ドックレベラー4基
特記事項:温度可変式(一部)マイナス25度〜10度、自然冷媒、1階倉庫部分バックアップ電源確保
アクセス:阪神高速15号堺線・玉出ICから2.2キロ、阪神高速4号湾岸線・南港中ICから3.4キロ
竣工:2025年1月末(予定)