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ECがけん引、WMS認知度・関心度ランキング2024

2024年5月30日 (木)

話題ここ最近のEC(電子商取引)需要の拡大による、商品配送の多頻度・小口化の進展は、倉庫管理機能の重要性を大幅に引き上げている。人力で管理するには膨大すぎる数の商品を扱うために、WMS(倉庫管理システム)のようなデジタルツールを使った管理体制の構築、あるいはツールの機能拡張という形での対応を検討する物流事業者や荷主企業も多いのではないか。

最近ではWES(倉庫運用管理システム)のような倉庫を統合的に制御するシステムも市場に出てきてはいるが、倉庫作業の効率改善を図る際、多くの物流事業者や荷主企業が、出入庫や在庫管理など、いわゆる倉庫管理の領域の改善を検討するだろう。自社の業態に合ったWMSを選び、的確に運用することが、デジタル化による倉庫作業改善への重要な布石となるはずだが、問題は、市場に出回る数多のシステムから何を選べば良いのか。

LOGISTICS TODAY編集部は、提供されているWMSの認知度・関心度調査を実施。さまざまな分野に強みを持つWMSを横一線で並べ、最も認知され、関心を持たれているシステムは何かを、ランキング形式でまとめた。また、実際にWMSを利用しているユーザーからWMSの評価、現場での課題感も聞いた。これからWMSの導入を検討する際の参考にしていただきたい。

クラウド型全盛もオンプレ型の需要根強く

回答者のうち、WMSを「利用している、または利用していた」のは50.6%。このうち、オンライン上のサーバーで提供されているサービスを、インターネットを介して利用する「クラウド型」を使用していたのが22.5%、社内にサーバーや通信回線、システムを構築し、自社で運用を行う「オンプレミス型」のみを利用したことがあるのは25%、「クラウド型もオンプレミス型も利用」したことがあるのは42.5%だった。

オンプレミス型と比べ、導入や運用にかかるコストが低く、短期間で導入できるクラウド型が最近のWMS市場の主流ではあるが、自社用にカスタマイズでき、メンテンナスなどの融通が効くオンプレミス型の需要も根強いことがわかる。

このほか、「自社開発したクラウド型WMSを複数の倉庫で使用」、「施設環境に合わせ、同製品のクラウド、オンプレミスの両タイプを利用」といった回答もみられた。

認知度ランキング、3位に物流企業発のシステムが台頭

次にランキングを見ていこう。まず認知度はこうなった。

WMSの2大巨頭であるシーネット「ci.Himalayas」(シーアイヒマラヤ)と、ロジザード「ロジザードZERO(ゼロ)」がワンツーを決めた。激しいつばぜり合いを制したシーネットが僅差で1位となったが、2社ともに4割5分近い認知度で他を引き離している。

シーネットのci.Himalayasは、稼働実績数1207センター(24年3月末時点)を誇り、センターの業種別割合では飲食チェーンやコンビニエンスストアなどの小売業、食品卸、EC(電子商取引)などのサービス業が41.5%を占めている。倉庫管理機能の充実はもちろん、スモールスタートに対応し、あらゆる業種、規模に応じた柔軟なカスタマイズが可能だ。

ロジザードZEROは、卸やECの店舗出荷など、BtoBだけでなくBtoC向けの在庫管理機能を備えたクラウド型WMSで、1700を超える現場で稼働している。多数の基幹システム(ERP)や受注管理システム(OMS)、カートシステムなど他システムとの連携に強みを持ち、導入に際しての時間や工数がかからないのが特徴だ。保守体制も万全で、365日サポートチームが常駐するほか、管理者向けにシステムの説明会なども定期開催している。

3位には、物流事業者の関通が開発する「クラウドトーマス」(25.3%)が入った。EC物流を手掛ける3PL事業者としての性質を持つ同社は、19年からクラウドトーマスの外部提供を開始。現場に直に携わる物流事業者自らが作ったシステムはすぐさま認知度を高めた。toB向けだけではなく、toC向けにも幅広く導入されており、高度化に対応したカスタマイズが可能なタイプも提供を開始している。

続いて、「ONEsLOGI」(ワンスロジ、ロジスティードソリューションズ)、「SLIMS」(スリムス、セイノー情報サービス)が22.8%で並び、トップ5入り。いずれも大手物流企業のグループ会社が開発し、現場でのノウハウや実績を反映させた仕様としている。ONEsLOGIは複数拠点管理や多言語対応、SLIMSはリアルタイムでの進ちょく管理に特徴を持つ。

新たな需要見える関心度ランキング

続いて、関心度はこうなった。

ここでもci.HimalayasとロジザードZEROが双璧をなしており、4分の1のユーザーから関心があることがわかった。続いて12.7%で、認知度でもトップ5入りしたONEsLOGIとSLIMS、さらに倉庫管理のほかにも配送管理や受注管理機能を備えた統合物流管理システム「LMS」(セイノー情報サービス)が同率で並んだ。

また、輸出入における在庫可視化などの機能を持つ国際物流管理システム「LMS-GLOBAL」(セイノー情報サービス)は、認知度と関心度がともに同率(10.1%)と興味深い結果となった。倉庫管理だけでなく、国際物流におけるサプライチェーン全体での管理など、より大枠での管理を目的としたものだ。

そのほかは関通のクラウドトーマス(10.1%)をはじめ、ブライセンの「COOOLa」(クーラ、8.9%)、ロジレスの「LOGILESS」(ロジレス、8.9%)、ヤマトシステム開発の「倉庫革命」(7.6%)、コマースロボティクスの「Air Logi」(エアロジ、6.3%)、東芝デジタルソリューションズの「LADOCsuite(ラドックスイート)/WMS」(6.3%)なども一定数の関心を集めた。

生粋のソフトウエア開発会社であるブライセンのCOOOLaは、標準機能を豊富に盛り込んだ仕様とし、必要な機能のみカスタマイズを加えることで、自社に最適な管理システムを構築できる。EC物流に強みを持つコマースロボティクスのAir Logiは、多くのOMSやロボット、マテハンなどと連携可能で、低コストで導入できる点から、導入数は23年に1400社以上にまで伸ばしているという。

WMSの保守体制はおおむね好評も、拡張性に課題

続いて、WMSを利用したことがある回答者に「使い勝手」「サポートの手厚さ」「コストパフォーマンス」「拡張性」を4段階で評価してもらった。

使い勝手については、有効回答数の60%が「大変良い」「まあまあ良い」と回答した一方、「良くない」との答えも20%あった。サポートの手厚さは40%が「大変良い」とするなど、4項目の中では一番評価が高く、システムベンダー側も注力する保守体制の充実度には満足しているようだ。

コストパフォーマンスは、「良くない」の回答が10%と最も少なく、おおむね期待値以上であることがわかった。一方で拡張性については、「良くない」が30%、「大変良い」は10%と、まだまだ改善の余地がありそうだ。

WMSの拡張性に対するユーザーからの不満が多いとの結果が出たが、一部のシステムベンダーは、WMSの機能拡張を補完する形でWESの市場投入を開始するなど、既存のWMSの機能以上を求めるユーザーに対しても最適解を示しつつある。機能拡張に伴う形で、現場でのスムーズな導入を促すシステムの使用感や、保守体制の充実は、シェアを伸ばしていく上で今後も重要な要素となるだろう。

最後に、WMS運用上の課題を挙げてもらった。WMS利用実績がある企業では、「WMSを通じて取得されたデータを実運用に生かせていない」との回答が52.5%と過半数を超えた。

「WMSの拡張性が低く、事業規模の変化に対応できていない」は30%と、前述の拡張性への不満が表面化した形となった。逆に「WMSの機能の多くを十分に使いこなせていない」回答者も27.5%いた。

また、「WMSの機能拡張により、異なるシステムや機器のベンダーとのやり取りが生じている」との回答も27.5%と一定数いた。WMSと連携するロボットやマテハン、外部システムが増えるほど、多くのシステムベンダーやロボットメーカーをまたいだ取り引きが必要になることから、トラブルが発生した際の責任の所在や、請求の煩雑さも課題として挙がってくるようだ。

EC需要がWMS市場の潮流を形成

ランキング上位のロジザードやシーネットが提供するサービスの共通点は、荷主企業の中でもEC事業者へのアプローチができている点だ。中でもロジザードが提供するロジザードZEROは、EC物流における長年のノウハウが蓄積されている。EC物流を主要事業とする関通のクラウドトーマスも、toC向けの活用は4割に上るという。EC事業者の在庫管理需要を取り込んでいるサービスが、シェアを伸ばしている印象だ。

まだまだ日本のEC化率は外国に比べて低い水準にとどまっているが、今後も上昇していくことが予想される。多品種・小口化の性質を持つECには、スモールスタートを助ける基本性能を持つWMSが求められる一方で、事業規模拡大を見据えた機能拡張への対応が、差別化を図る上でのポイントとなりそうだ。