
話題海上コンテナドライバーの高齢化と人材の流出など、港湾物流においても2024年問題が顕在化している。とりわけ東京港周辺は、コンテナヤードへの入場待ちによる交通渋滞や、ドライバーの負担増が顕著となっており、労働時間上限規制の影響が一段と表面化する危機感が漂う。
本稿は「東京港」特集の第2回として、東京都が進める港湾機能強化や混雑緩和の取り組みを再確認しつつ、コンテナラウンドユース(CRU)や貿易DX(デジタルトランスフォーメーション)などの手法が、実務レベルでどのように活用可能なのかを検証する。24年問題を真正面から受け止め、民間事業者がいま取り組むべき効率化策や、今後の展望を探っていく。
東京港の混雑緩和へ、都の取り組み続く
東京港では、コンテナヤード前の入場待機列による混雑が長年の課題であり、ふ頭周辺の交通渋滞が海上コンテナドライバーの労働環境を悪化させてきた。東京都は、大型船舶への対応力強化や荷役効率の向上に向け、港湾機能の整備と強化を進める一方、ICT技術を活用した「混雑状況の見える化」や搬出入予約制システムなどを導入することで、ゲート前の行列を過去ピーク時比で7割削減する成果を挙げている。
さらに、午後から夕方に搬出入が集中しがちな現状を改善するため、「オフピーク搬出入モデル事業」を進行中だ。コンテナヤードへの搬出入を午前帯にシフトし、混雑時間帯を分散させることで効率化を検証する取り組みである。東京都が示す目標としては、28年度までにコンテナ貨物取扱量を650万TEU(21年度実績の1.3倍)に拡大する意欲を見せるものの、港湾機能の拡大には物理的な限界もある。そのため、民間事業者主導の取り組みこそが今後ますます重要になるという指摘も少なくない。
“混雑”ばかりが元凶なのか?民間主導で取り組むべき効率化がある
こうした施策にもかかわらず、依然として東京港の混雑が港湾物流の元凶と名指しされやすい現状がある。しかし、今後の物流統括管理者(CLO)によるロジスティクス構築においては、国や都の施策を待つだけではなく、各事業者が自発的に取り組む効率化が不可欠だ。事業者ができることを積み重ねなければ、目標である28年度の取扱量650万TEU達成はおろか、港湾物流からの人材流出を加速させかねない。
その一例がCRUや貿易のデジタル化を活用した効率化である。東京港のコンテナヤード混雑をただ嘆くのではなく、民間主導の新しい物流オペレーションを検証する姿勢が求められている。
コンテナラウンドユースの普及が導く港湾物流改革
CRUとは、輸入に使用したコンテナを内陸デポ(港から離れた内陸部にあるコンテナの保管・管理施設)などを経由して輸出時に再利用することで、空コンテナの無駄な回送を削減する取り組みである。通常、輸入後にコンテナを港へ返却し、輸出の際に再び港でコンテナをピックアップする運行は、ドライバーの労働時間や車両・燃料コストの浪費が大きい。加えて、空コンテナ車両がゲート周辺に集中することで混雑を助長する要因にもなる。
CRUを導入すれば、1運行のうち片道が空コンテナという現状から、往復ともに実入りコンテナとなる効率的な輸送を実現可能だ。ドライバーの拘束時間が減り、混雑緩和やCO2排出量削減にも寄与するとして、13年頃から国や自治体が普及を促してきた。特に関東・東北広域からのコンテナ取扱い本数の多い京浜港では効果が高いと見込まれている。
特に東京港までの長距離・長時間のドレージでの空コンテナ輸送は、貴重なドライバーの労働時間と車両、燃料コストの無駄使いでしかない。また、空コンテナ車両がコンテナゲートの渋滞を作り出していては港湾全体に与える損失も大きく、多くの事業者がCRU運用を検証することが期待されるが、広く普及する状況には至っていない。その背景には、コンテナマッチングの難しさや船社ごとの契約問題があり、現状としては、一部の先進的大手企業や物流事業者が主導するサービス提案にとどまっているのが実態だ。
コンテナマッチングのハードル乗り超える公共性の視点
通常コンテナは船社が所有するものであり、輸入と輸出で船社が異なれば、同一コンテナをラウンドユースすることができない。サイズの種類や輸入・輸出の貨物量が一致しないと、「必要なときに使えない」「使いたいサイズがない」というミスマッチが起きやすい。
また、複数の事業者間でCRUを進めるには、関係者を結ぶマッチングシステムや管理システムの整備が必要で、その調整負担も大きい。そのため、CRUに取り組む企業がメリットを実感できる仕組みを提示しないと、導入拡大は難しいのが現状だ。特に、十分な荷量が確保できなければ、輸送効率が上がらずコスト削減も小規模にとどまり、CRU導入のインセンティブが薄れてしまう。
内陸コンテナデポの運営事業者は、契約船社数の拡大や管理・荷役能力の増強、BCP対応力などで24年問題に対応する中継拠点としての機能強化にも取り組んでおり、荷主のみならず、フォワーダー、ドレージなどにもメリットのある仕組みの確立に向けて、参加する事業者数の拡大を図る。複数の荷主や物流事業者などが連携し、コンテナデポ間の幹線輸送とデポ起点の近距離ドレージを切り分けた運送体制見直しもできるのではないだろうか。
CRUを推進するためには、事業者同士の情報交換や連携が必須となる。共同物流へのトライアルやシミュレーションを行い、関係各所での運用ルールづくりを段階的に進める企業姿勢が求められている。社会的にも物流合理化への期待が高まっていることから、公共性という観点でCRUを評価し、その取り組みを後押しする環境が重要になってくる。
貿易DXで期待される貿易プラットフォームの普及、その現状は
港湾物流の人手不足は海上コンテナドライバーだけでなく、多岐にわたる貿易事務でも深刻化している。貿易事務は種類・形式の異なる書類や用語を扱ううえ、専門知識が求められるため、いまだにアナログ運用が主流で属人的になりがちだ。こうした状況を変革するキーとして、貿易のデジタル化(貿易DX)が叫ばれている。
特に注目されているのが、貿易プラットフォーム(PF)の普及促進である。貿易PFを導入すれば、さまざまな貿易書類や貿易決済をデジタル化し、商流・金流・物流にかかわる情報をオンラインで一元的に管理できる。19年にNTTデータが東京港を含む国内3港で行った実証実験では、貿易PFの活用によって貿易手続きに要する業務時間を44%短縮できるという試算が示された。
国としても、経済産業省が「貿易手続デジタル化に向けたアクションプラン工程表」(24年6月公表)で「28年度までに貿易PFを通じたデジタル化率を10%に引き上げる」目標を掲げている。しかし、直近の検討会の中間報告によると、現状のデジタル化率は0.1%にも満たないという。大きな効果が期待されているにもかかわらず、導入や運用が進まないのが実情だ。
未来の貿易PF普及と、同時進行で取り組むべき貿易現場改革
なぜ貿易PFが普及しないのか。その要因としては、初期導入コストや仕様の違い、企業ごと・国ごとに異なるデータ形式のバラつき、そしてデジタル人材の不足などが挙げられる。PFの利用者が増えなければ、データ連携によるメリットを十分に享受できないため、普及はさらに停滞してしまうという悪循環だ。
そこで経産省は、フォワーダーや荷主企業の貿易PF導入を支援し、PF事業者間や貿易関連行政システムとの接続を後押ししている。また、法務省による電子船荷証券(eBL)の法制度整備や、国土交通省による港湾手続きのデジタル化、原産地証明書のオンライン化など、複数の省庁が横断的に取り組みを進めている。日本国内で複数のPFが乱立している現状を踏まえ、PF同士の連携でワンストップ化を実現することも課題として浮上している。
企業の現場では、物流担当部門単独での効率化や、フォワーダーへ業務を一括委託しているケースもあり、経営視点で貿易業務の非効率を見直す機会が少ないという指摘がある。しかし、今後特定荷主企業に求められるCLOの設置など、企業全体でのロジスティクス改革が進めば、貿易PF導入の必要性を経営課題として認識しやすくなるはずだ。
もっとも、「28年度のデジタル化率10%」という目標が掲げられたとしても、数年後にどの程度成果が実感できるかは未知数だ。特に、デジタル人材の確保やシステム接続ルールの整備には時間がかかる。それまで担当人材が流出してしまえば、現場はさらにひっ迫する恐れがある。
したがって、企業ごとに今すぐできる効率化の取り組みも並行して進める必要がある。たとえば紙の貿易書類をAI-OCRで読み取りデータ化するツールや、複雑なデータチェック・転記・計算などを自動化するツールの導入など、貿易PF以外の部分でも即効性ある効率化を図ることが可能だ。こうした積み重ねがデジタル化の下地となり、標準システムの本格稼働時にもスムーズに移行できる。
物流危機を乗り越える新時代の港湾物流構築へ舵取りを
ドライバーの輸送能力低下が懸念される今、東京港の混雑を解消しながらコンテナ貨物量を増やすためには、CRUによる無駄のない輸送モデルや貿易DXによる事務効率化など、多角的な取り組みを同時に進める必要がある。
特に重要なのは、国や東京都の施策を待つだけでなく、民間が主体的に動くことだ。CRUをはじめとする共同物流の検証や、貿易PFを活用したデジタル化の推進など、事業者が自社に合った取り組みを進めることで、港湾物流全体が底上げされる。こうした動きに行政の支援策を重ねることでさらなる推進力が期待できるだろう。CRUや貿易DXを取り込むなど、企業や行政が連携し、ひとつでも多くの課題を解決するトライアルを積み重ねることこそが、来るべき時代に向けた着実な一歩となるだろう。
▼「港湾物流特集 東京港」第1弾
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