話題2024年問題としてトラックドライバーの働き方改革に注目が集まるが、港湾物流、コンテナ物流においても危機は顕在化している。
コンテナをドレージ輸送するドライバーの高齢化、人手不足が進み、ドレージ輸送のドライバーにとっても働きやすく、無駄な待機時間がない労働環境を早急に整えなくては、港湾物流における物流停滞から、日本経済の成長を妨げる事態となりかねない。
東京港の現状の取材を進めるなかで、コンテナヤード入場時の渋滞などの課題も浮き彫りになった。港湾のキャパシティーに起因する課題だけに、一朝一夕に解決できるものではないが、ただ手をこまねいているわけにもいかない。多様なアイデアや提案を寄せ集め、今できる取り組みを進めなければならない。
コンテナヤード混雑を、効率化後回しの言い訳にしてはいけない

▲トヨタ自動車新事業企画部ワンストリーム代表、足立聡史氏
トヨタ自動車の新事業企画部でワンストリーム代表を務める足立聡史氏は、コンテナヤードの混雑はもちろん解決すべき課題ではあるが、「コンテナヤード以外の領域の効率化でも、まだまだ港湾物流の生産性を上げることはできる」と提言し、港湾物流ならではの課題洗い出しから解決策を導く。
足立氏が指摘する港湾物流特有の課題とは、「取り扱う情報の多さと比較して、いまだに紙伝票や電話などのアナログな連携が主流であること、関係者や工程のつなぎ目が多く、つなぎ目ごとのスムーズな連携が難しいこと」だ。
港湾物流には、荷主、運送、倉庫、港湾、海運など多様な事業者が関わり、荷積み・荷下ろし、運搬、コンテナヤードなど各工程ごとでの予期せぬ停滞が、次の行程にも大きな影響を与える。予想不能な入港船の予定変更や、コンテナヤードの混雑などには、一般的なトラックの配車計画の事前立案では対応できない。また、関係者の多さや複雑な法規、荷物情報、港ごとのルールなど、モノといっしょに運ぶべき情報量も多い。海外にまたがる国際貨物に至っては、国内で完結する物流と比較して取り扱う情報量も10から20倍に及ぶ。
ドライバーの時間外労働に上限が設けられ、さらなる効率化への努力が求められる現状では、コンテナヤードや倉庫での想定外の作業待機発生で、配車計画全体が破綻してしまう。ドライバーに加えて、配車スタッフなども不足する状況で、効率的なドレージ車両の配車計画立案は、極めて難易度の高いミッションとなってしまっている。
アナログからデジタルへの転換が、ドレージ輸送と倉庫の連携高める
トヨタ自動車が、新規事業として展開する港湾物流効率化に特化したソリューション「One Stream」(ワンストリーム)は、ドレージ輸送と倉庫荷役の連携効率を高め、輸送と倉庫業務の効率化、労務負荷の軽減を実現するサービスである。

▲One Streamによる自動×最適輸送と倉庫の荷役効率化の連携支援
ワンストリームがまず改善するのは、非効率なアナログな業務手段からの転換である。電話やファクスなどの通信手段、紙ベースでの情報管理などに頼り、担当者の経験や勘に頼る配車指示などが、情報連携ミスや遅れによる作業効率低下を招き、ドライバーの労働環境が悪化する要因の1つとなっている。ワンストリームではこうした連携、情報管理をデジタルで一元管理し、関係者間のスムーズな情報共有と、情報処理を可能とする。荷役だけではなく、連絡業務などに多くの時間が割かれるドレージ現場での実態に則したツールとなっている。
さらに、ドレージと倉庫、荷役作業との連携の悪さを解消するために、リアルタイムの車両状況を、倉庫・荷役領域を連携させることができるのが、ワンストリームならではの機能「リアルタイム最適配車」である。
不規則で予測不能なコンテナ物流の特性に合わせ、あらかじめ設定した配車計画ではなく、荷積み、コンテナヤード・コンテナプール工程などの状況も組み込んだリアルタイムの配送計画で、ドレージと倉庫を円滑に連携させる。ドレージの倉庫到着、荷役開始予定時間の精度を上げることで、荷役現場での作業待ちなどを解消し、荷役機器の事前準備による荷役時間、車両滞在時間削減にも貢献する。自動配車システムには一般的なトラック輸送を対象とした既存のツールも存在するが、その機能は事前の条件に基づく配送最適化の判断にとどまり、ワンストリームのようにコンテナ物流に特化したリアルタイムでの最適化ソリューションは、他に類を見ない。ドレージ輸送の複雑な要件に対応する、運送事業、倉庫事業、荷主企業の港湾物流課題の解決のための唯一無二の配車自動化ツールと言えるだろう。
コンテナ輸送と倉庫の連携見直しで、効率化の劇的成果も
リアルタイム最適配車を可能にしたのは、GPSによるドライバー・車両の位置情報と、荷物、コンテナの情報や法令などの各種条件や制約を組み合わせた最適な配車計画の自動計算機能だ。これまで配車担当者の経験や状況連絡のやり取りで構築していた車両指示を自動化し、受け入れる倉庫側と精度の高い到着情報を共有できる。さらに、倉庫の作業進ちょく状況など受け入れ施設ともリアルタイムで連携することで、荷主からメーカー物流へ、メーカー物流から倉庫へ、倉庫からドレージ輸送へと、港湾物流の各工程をよりスムーズにつなぎ、全体最適へと導く。まずは自動配車サービスから運用し、倉庫内のリアルタイム状況管理や作業管理サービスなどへと効果的な連携を拡大していく導入例も多いという。

▲One Streamによるコンテナ輸送DX領域
ドレージと倉庫の最適な連携を目指した運用事例においては、アナログ業務からの転換、輸送領域と倉庫領域の連携による進ちょく状況の共有を進めた結果、システム導入前に比べてドライバー1人あたりの輸送コンテナ本数を2倍以上と劇的な効率化を実現した現場もあるという。ドレージ輸送の現場では、ドライバー業務時間全体の3割程度が、配送先での拘束時間とされており、配送先倉庫での滞在時間削減によって、どれだけドライバーの生産性が向上するかがわかる。
足立氏は「ここまで顕著な事例以外でも、システム導入で概ね3割程度の効率化を達成しているのではないか」と語る。輸送効率を3割上げたということは、ドライバーが3割増えたことにも等しく、ドライバー確保に課題を抱えて人材確保に奔走する事業者にとっては、まったく違うアプローチでの課題の解決も見えてくる実績ではないだろうか。日常業務の見直しからこれだけの効率化を実現できるのだから、足立氏の冒頭の言葉通り、「コンテナヤードの混雑」を言い訳にして改善を後回しにしてはいけないのだ。
またドライバーにとってはスマートフォンで指示や状況確認ができるとともに、作業報告やコンテナ情報の報告などにもスマホの写真撮影を活用できる操作性が、労働負荷の低減、働きやすい環境整備に役立つ。コンテナに記載された番号やシール情報などをスマホで撮影するだけで、OCR読み取りによる管理データへと変換することができ、帳票作成とやり取り、報告業務にかかる業務を大幅に削減するなど、ドライバー、荷役作業者の業務効率化とともに、関係者との連携力を高める機能にも優れている。
港湾物流をつなぐツール普及のカギは、人と人とのつながり
ワンストリームは、23年のリリース後、名古屋港と博多港で運用実績を積み上げ、これまでのコンテナ取り扱い本数は累計4万5000本を数える。25年度は、さらにほかの5大港(東京港、横浜港、大阪港、神戸港)での運用に拡大、さらに目指すその先は、ドレージと倉庫だけではなく、コンテナヤードへと連携領域を拡大することで、より実効性の高い港湾物流効率化を実現することになるだろう。ワンストリームが、より多くの関係者、より広い領域をつなぐことこそが、ドレージ車両のデータ集積基盤としての機能を高めることになり、将来的には、港に集まる海外からのデータとの連携や、モーダルシフトなど多様な輸送モードとの連携効率化への貢献も期待できる。
デジタルでつなぐワンストリームだが、その入り口となるのは、港湾物流に課題感を持つ人と人とのつながりだ。複雑で巨大であるが故に一筋縄ではいかない港湾物流課題解決だが、それを動かすのは関わる人々ひとりひとりの思いである。港湾物流改革のはじめの一歩は、同じ問題意識を持った仲間がいるという、現場の顔が見える連携なのかもしれない。