話題16世紀、「江戸湊」と呼ばれた時代から、江戸のまちづくりに必要な港湾都市としての整備が進められ、大規模な日比谷入江の埋め立てから始まったという東京港の開発。日本中の物資が運び込まれる物流の拠点整備は、徳川家康の時代から続く国家事業であったと言える。
そして現在。東京港は、1960年代以降にコンテナ輸送革新を積極的に取り入れたことで、外貿コンテナ貨物取扱量は25年以上にわたり国内1位、全国取扱量の4分の1を取り扱う国際物流の拠点となり、北米・欧州・アジアなどを結ぶ、世界との玄関口となっている。また、国内の物流においても、北海道から九州・沖縄まで、日本全国を結ぶ定期輸送航路の基点として、日本の経済や生活インフラを支えている。
こうした「物流」基盤としての東京港は、多くの人々の日常生活とは隔てられて運用されているため、その実情が把握しにくい。2024年問題が注意喚起され、社会的なトラック運転手の働き方改革や物流インフラ維持への関心の高まりも、東京港の領域にまでは理解が及ばない状況だろう。
東京港における24年問題とは
東京港も24年問題に直面している。
東京港の背後には充実した道路網と物流施設が整備されており、搬出入の9割以上がトレーラーに頼っている。24年問題で思い浮かべられるのは、一般的な貨物トラックのドライバー不足や高齢化であるが、東京港への結節点となるトレーラーによるコンテナドレージ輸送を担うドライバーの高齢化は深刻だ。
関東トラック協会海上コンテナ部会の23年度調査によると、海コンドライバーの平均年齢は52.6歳と、4年連続で上昇している。特に60歳代と70歳以上の増加が目立つなど、平均年齢はほぼ右肩上がりで推移しており、全産業平均の43.9歳と比較しても高齢化が進んでいる。国土交通省は18年度に算定した海上コンテナドライバーの充足度と比較して、30年度には10%充足度が低下すると試算している。例え、法令に基づいた働き方改革やコンテナターミナル待機の平均時間の20分削減など、港湾や荷主拠点での拘束時間削減を前提としても、コンテナ物流を支えるドライバーが減るのだから、このままでは日本の経済を支える東京港の成長に大きな支障となる。
多くのコンテナ貨物を取り扱うが故に、コンテナヤードの混雑、入退場の渋滞を招き、貴重な海上コンテナドライバーの運転時間を削ってしまう現状に加え、海上コンテナ背後輸送の停滞が、今後の「あるべき東京港の未来像確立」のボトルネックとなり得るのだ。
東京港第9次改訂港湾計画に示された、あるべき東京港の未来像
日本の経済成長に向けては「あるべき東京港の未来像」が示されている。
政府は、世界市場で競争力のある東京港の機能強化に向けて、28年度後半に向けた目標を「東京港第9次改訂港湾計画」として定めた。世界とつながるリーディングポートとしての「物流」分野はもちろん、「環境」「防災・維持管理」「観光・水辺のまちづくり」によって、スマート・ポート実現を目指すことを基本理念に掲げている。
ここでは、「東京港第9次改訂港湾計画」に示された東京港の将来像について、特に物流分野に関わる項目と現状を確認していく。
東京港の未来に向けて、取扱貨物の拡大目標と混雑解消の両立が必要
東京港の、令和10年代後半の計画目標年次における取扱貨物量として想定しているのは、外貿で6320万トン、内貿で4580万トン。これは、これまでの実績動向や経済的・社会的条件を考慮して定めたものだが、外内貿合わせて合計1億900万トンとなる設定のうち、コンテナ貨物量は650万TEUと設定しており、21年度の486万TEUからは1.3倍の増加を示す。内貿ユニット貨物の1360万トンも、21年度1084万トンから1.25倍以上の拡大を目指す設定である。
国際コンテナ戦略ターミナルに位置付けられる東京港では、グローバルな競争力確保が政策目標であり、港湾計画の目標もそれを反映したものだ。ただ、現状の東京港では、コンテナターミナルの処理能力のキャパシティーオーバーが顕在化しており、船型の大型化傾向にも対応し得る、港湾機能のハードとソフト両面での機能強化が目標達成の前提となることは明らかだ。
大規模コンテナターミナルの整備が進展する海外主要港を相手に、海外基幹航路を維持するための集荷、創荷の拡大は日本経済を支える東京港の使命である。同時に、貨物量の増加や大型船への荷役によってさらなる混雑や渋滞が招かれることで、コンテナドライバーが働きにくい港としないことも、喫緊の課題となっている。相反するとも思える2つの課題を、両輪で進める難しいミッションが、東京港には求められているのである。
東京港の処理能力向上へ、コンテナふ頭の機能強化推進
海外の主要港のような大規模な一体開発は東京港では不可能だ。まずは、限られたスペースに分散して配置された外貿ふ頭をそれぞれ機能強化し、既存のふ頭の再編などで処理能力を向上させることが、港湾計画の基盤となる。
中央防波堤外側コンテナふ頭では、新たなコンテナふ頭の整備が行われ、17年にバース長230メートルのY1ターミナル、20年にバース長400メートル・水深16メートルのY2ターミナルの供用を開始し、現在隣接地にバース長400メートル・水深16メートルのY3ターミナルを27年完成に向けて整備を進めている。Y3が完成すると東京港の施設容量は45万TEU増加し、Y1からY3まで合わせて120万TEUに対応可能となる。さらに、隣接する新海面処分場コンテナふ頭の新規拡充計画により、総延長1820メートルの大水深高規格バースを形成する計画である。
また、ことし大井ふ頭の再編についても港湾運用各社と再編整備の必要性が共有され、DX(デジタルトランスフォーメーション)による効率化、GX(グリーントランスフォーメーション)による環境対策に向けた具体的な検討を進めていくことが発表された。東京港のコンテナの半数を担う主力コンテナターミナルの再整備を28年度には着手する予定だ。
ふ頭の再編・機能強化に取り組むことで、国際基幹航路の維持や増加する東南アジア航路へ対応し、国際フィーダー航路網の充実を図るなど港湾全体での機能最適化と拡充を図る。また、中央防波堤内側内貿ユニットロードふ頭を機能拡充で、内航船舶の大型化や物流の24年問題対応でのモーダルシフト需要などへの対応も見据える。
また、バースの増強とともに、AI(人工知能)などの最先端技術の積極的な活用や荷役機械の遠隔操作化、コンテナターミナルの一体利用による限られたヤードスペースの最適化などにより、ターミナル処理能力を増大させ、良好な労働環境の確保も目標に掲げられている。
青海コンテナふ頭の整備では、ヤードや岸壁の延伸整備を終えたバースに隣接する公共ふ頭を、岸壁とヤードの一体利用可能な青海公共コンテナふ頭へと再編する整備を進め、29年の完成を目指す。この青海公共コンテナふ頭では岸壁を現在より300メートル延伸して船舶の寄港数増加に対応するとともに、荷役機器として「遠隔操作RTG(タイヤ式トランスファークレーン)」を導入。これによってコンテナヤード内荷役における港湾労働者不足への対応、労働環境の改善とともに、ディーゼルエンジンから水素燃料電池(FC)へと燃料を換装してCO2排出量削減を実現する予定で、東京港DXを体現するふ頭となる。IT技術・デジタル活用による「サイバーポート」としての効率化や貨物情報の見える化、標準化などへの取り組みを拡大することで、スマートポート実現による港湾業務の改善も、物流危機対応の1つとなるだろう。
ハードだけではなくソフトの強化、行政だけではなく民間からも行動を
こうしたハード面での整備は、一朝一夕に完成するものではないだけに、特に目下の課題であるコンテナターミナルへの混雑や渋滞問題など、既存の施設機能をより効率的に活用することで、解題を克服する作業が進められてきた。
東京都トラック協会(東ト協)海上コンテナ専門部会が公表した、ことし5月に実施した東京港の各コンテナターミナルでの海上コンテナ車両待機時間調査結果では、前年同期の調査結果からは、7ターミナルが改善したとしている一方、一部ターミナルでは待機時間の増加も見られるとして、引き続き取り組みが必要であることが明らかになっている。ふ頭の機能強化による効果がすぐには期待できないため、まずは今できること、現状の対策をさらに継続、深化させていくことが求められている。
東京港ではコンテナターミナルの混雑状況見える化や、コンテナ搬出入予約システム導入や車両待機場、コンテナ関連施設など、これまでの取り組みに加え、「オフピーク搬出入」による入退場時間の分散で混雑解消の実証事業を行う。これは利用者の運用自体見直しによる新たな運用を促すものであり、まさに「今できること」を示した対策だと言えるだろう。また、ドライバー不足、特に東京港の背後輸送を支える海上コンテナに関わる物流課題に関しては、輸送モードの変換、モーダルシフト推進にも積極的に取り組んでいる。こうした都の施策やその意義については、それぞれ特集「10年で71%の渋滞緩和を実現した東京港の秘策」「『東京港』が主導するモーダルシフト推進」の両記事にて詳細を解説しているので、ぜひ参照いただきたい。
また、海上コンテナの輸送以外にも、トラック輸送と海上輸送、鉄道輸送の結節点でもある東京港の、モーダルシフトにおける重要性にも着目、モーダルシフトの現状について確認する記事も用意している。
さらに、東京港を基点とする物流改革は、もはや行政の取り組みだけではなく、その利用者それぞれの取り組みや、意識・行動の変容が必須である。東京港を世界の巨大港に負けない国際港として成長させるには、これまでの物流スキームを抜本的に見直し、その取り組みが拡大しなくてはならず、他人任せで改善を待っていては課題解決など望めない。使いやすい東京港を作り、東京港の機能を利用した新しい物流の形で改革に貢献することは、利用者にとっての責務でもある。今回、モーダルシフトに積極的に取り組む味の素冷凍食品の取り組みなども、特別記事にまとめてあるので、ぜひ利用企業としての取り組み姿勢の参考にしてもらいたい。