話題物流業界を悩ませる「実運送体制管理簿」の義務化。4月からの施行で現場は混乱しているが、ノンデスク領域向けデジタルソリューション開発のX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)の執行役員DX事業管掌の安藤雄真氏は「データさえ残しておけば対応できる」と語る。同社の運送業向けSaaS(クラウド)プラットフォーム「ロジポケ」は、現場負担を最小限に抑えながら法令順守できる環境を提供するという。
重要なのは「必要なデータを取りきる」こと
「実運送体制管理簿は記載事項は決定しているもののフォーマットが明確に示されていないため、多くの運送会社が対応に悩んでいる」と安藤氏は指摘する。特に大手運送会社にとっては、「1運行ごとに管理簿を作成せよ」という規定が負担となる。「50の案件を委託すれば50部の管理簿を作成することになる。これを紙の書類でやるというのは現実的ではない」
こうした状況に対し安藤氏が示す解決策は明快だ。「とにかくデータを残すことが重要だ。1つの運行に対して、どの荷主の荷物を誰が運んだのかというデータがさえあれば、どんなフォーマットが決まってもいかようにでも対応できる」ロジポケでは、実運送体制管理簿の出力機能の一般提供を今夏に開始する。現在のロジポケ利用者は、安藤氏の言葉の通り、既に必要なデータは取得できている状態だという。

▲X Mile執行役員DX事業管掌の安藤雄真氏
実運送体制管理簿導入の大きな目的は、多重受委託構造の透明化という目的がある。「いつ」「誰が」「どの荷主」の荷物を運んでいるのかが外から見えるようになることで、サプライチェーン全体に責任を持つべき荷主が、多重受委託構造の是正が行いやすくなる。また、多すぎる受委託階層を減らすことで物流費の圧縮なども図ることができる。「実運送事業者から荷主に情報が直接渡ることで、荷主が『この運送会社に直接依頼しよう』と考えるケースも出てくるだろう」と安藤氏は語る。
一方で、信頼関係や緊急時の対応など、利用運送事業者が果たす役割も依然として重要だとの見方も示した。「大手企業の看板があることで信頼されたり、トラブル時の対応力が評価されたりする側面もあり、元請けが委託に出すことの全てが悪ではない」と、物流の現場の実態を指摘した。
新制度には、既存業務の延長線上で対応するべし
ロジポケの強みは、実運送体制管理簿対応を既存業務の一環として提供する点にある。同氏は「新しい機能を1つ追加するよりも、既存業務をデジタル化するなかで対応できるようにすることが重要だ」と強調する。
同社では機能を「案件管理」「台帳」「労務管理」「運行記録」「配車」「教育」などのカテゴリーに分類。実運送体制管理簿は案件管理の一部として位置付けられる。「実運送体制管理簿だけのために別メニューを作るのは無駄。案件を登録する中の1項目として実装している」
つまり、実運送体制管理簿を作るためのデータ入力は不要で、従来の業務で取っていたデータを活用することができることになるため、新制度が始まったからといって、新たな作業が必要となるわけではない。ただしこれは、何らかのデジタルシステムを導入しているから可能になることであり、紙やエクセルで手入力している場合は、データ同士のひも付けや逐次のデータ管理などの手間が発生してしまうことは間違いない。
将来の法改正も見据えた対応
安藤氏が強調するのは、今回の実運送体制管理簿は物流業界の規制強化の始まりに過ぎないという点だ。「新制度の導入はこれだけで終わるとは思えない。適正運賃や契約の適正化など、新たな制度が今後も出てくるだろう」
このような環境変化に対応するため、同氏は包括的なデータ管理の重要性を説く。「場当たり的な対応では将来的に対応できなくなる。荷主、運送会社、契約内容、運賃など多角的なデータをしっかり記録しておけば、どんな法改正にも対応できる」
運送業者の99%は中小企業。常に不足しているドライバーのみならず、運行や案件を管理するバックオフィス機能を受け持つマンパワーも限られているのが実情だ。同氏によると「リソースの少ない運送事業者が新たなに発生した業務に対応するには、既存業務のデジタル化が不可欠」だという。
監査対応を見据えたデータ管理
同氏は実運送体制管理簿への対応のみならず、さらなる法改正への備えとデータ管理の重要性を強調した。運送事業者が将来にわたって生き残るための「監査対応力」と「業務効率化」の両立が鍵になるという。
「今後の動向で最も注目すべきは事業更新制への対応」と安藤氏。物流業界で進められている事業更新制が本格導入されれば、5年ごとの更新時に各種の記録が適切に管理されているかがチェックされる。「行政処分を受ければ更新が認められないケースも出てくるだろう」
4月から始まった実運送体制管理簿のほかにも点呼や運行記録、アルコールチェックなど、実際に行うと同時にそれを記録、保管しなければならないものは多い。教育や健康診断など、ともすればおろそかにしがちなものも、確実に実施し、それを記録し保管しなければならない。
同社では毎月の行政処分レポートを作成・配布。レポートでは業界の違反事例を分析しているが、「点呼記録の不備や教育記録の未実施が多いのだが、意外に健康診断の未受診による処分も目立つ」という。
今回の実運送体制管理簿制度の導入が混乱を招いているのは、主導する国土交通省から、記入事項は提示されているが、正式な書式は提示されていないこと。こうした、行政から明確な発信がない事例が、ほかにもあるのではないかと安藤氏はいう。近年、国土交通省や経済産業省も物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進を奨励しているが、「行政からは『DX化しましょう』というメッセージはあるものの、どう進めるべきかの具体的指針が示されていない」とし、現場でどうすべきかの明確な発信が必要だと訴えた。
同時に、現場の声を行政に届けていく動きも必要だとし、同社では行政機関と積極的に対話し、「ソリューションプロバイダーとしてだけではなく、現場の声を届ける役割」を担う取り組みを推進。
クロスマイルでは既存顧客を集めたコミュニティー活動も本格化させる方針だ。「昨年は一度開催したが、ことしからは定期的に実施する。既存顧客の経営者に集まってもらい、業界の課題や解決策を共有する場を設ける」と安藤氏。
こうしたコミュニティー活動を通じて、物流業界の横のつながりを強化し、良質な情報を流通させることで業界全体のレベルアップを図る考えだ。「縦の関係だけでなく横の連携も重要。荷主、運送会社が協力して物流を維持する仕組みづくりが求められている」

▲昨年9月に開催された「ロジポケコミュニティ in東京」の様子
業務効率化のカギは総合的なシステムの導入
安藤氏は最後に、単一機能のシステムではなく総合的なバックオフィスシステムの必要性を強調した。「人と車と会計上の問題、実績管理など、さまざまな業務が分散したシステムで管理されるのは非効率」だというのだ。
ロジポケはこれらの業務を横断的に管理できる設計となっており、「書類のための書類作成」ではなく「業務効率化の中での法令順守」を実現するためのツールとして作られている。「現場のリソースは有限。既存業務のデジタル化を進めながら、法改正にも対応できる体制づくりをサポートしていく」と安藤氏は締めくくった。