
話題物流業界、とりわけ中小企業の物流現場では人手不足は深刻化するばかり。限られた人材とスペースの中で生産性を高める運用への転換が求められている。
帝国データバンクがことし1月に公開した「人手不足に対する企業の動向調査」では、正社員の不足を感じている企業は、業種別の「運輸・倉庫」で66.4%と高い水準であるとの調査が公開された。23年度以降右肩上がりで人材不足感が上昇している。人手不足を感じている企業では、その対策として「賃上げ」を検討せざるを得ない企業も増えており、事業コストが圧迫される覚悟も必要となっている。
こうした背景を受け、物流の自動化・省人化への検証は喫緊の課題だ。特に倉庫内作業の効率化に直結する自動化ソリューションの導入は、将来を見据えた経営判断として今や避けては通れない選択肢である。
避けられない物流現場の自動化、「自動倉庫」導入に関心高まる
自動倉庫の導入も1つの選択肢として関心が高まっている。入出庫、保管、ピッキング、仕分け、作業者への搬送といった作業工程を自動化する自動倉庫は、施設内作業の広範な工程の最適化を支えるシステムである。高密度保管を可能とするストレージ部分と、ピッキングや仕分け、搬送を担うロボット、ソーターなどが連携する構成は、人的負荷の軽減と処理能力の最大化、作業の精度向上が期待できる。

▲製造現場でも活用されているオカムラ「バケットスタッカー」
近年、EC対応や多品種少量出荷への対応力が求められることから、自動倉庫の有効性を裏付ける導入事例が数多く報告されている。省人化による安定稼働、高頻度出荷への対応、保管効率の向上など、その導入効果は物流に限らず製造業など多方面に及ぶ。一方で、こうした広範な工程を一括して自動化するシステムは、部分的な機器導入に比べて高価となり、設計や施工までの時間、運用までの準備を要する。中小企業にとっては、依然として高嶺の花と考えられているかもしれない。しかしながら、現実には中小企業だからこそ、自動化投資に踏み切る意義があるのだ。
中小企業だからこそ、自動化への決断が求められるとき
限られた人員体制では、人的依存のオペレーションには早晩限界が訪れる。人手不足への対症療法として給与のアップを検討する企業が増加していることにふれたが、中小企業には大企業のように人材を確保できるような賃上げ余力はないだろう。実際に、24年度における物流業の人手不足倒産の件数は42件と、建設業に次ぐ高い数値である。もはや、必要な人材を必要な業務に充てることすらままならず、自動化なくしては事業の継続自体が難しい状況になりつつある。
また、中小企業では運用現場自体に十分なスペースがないことがほとんだろう。既存の空間をいかに有効活用するかを考えて保管方法や作業の見直しが必要となる。さらに、自動化へ投資するということは、今後の成長を見据えての決断であると考えると、今後の事業拡大を見据えた柔軟性も確保しなくてはならない。今必要なシステムが、将来の運用に対応できるかは絶えず見直すことも必要だ。繁閑差、波動の変化に人で対応するのではなく、自動化ツールの柔軟性で処理することで、業務効率化を実現しなくてはならない。
小規模運用を助ける自動倉庫、自動化マテハンの多様化
マテハンベンダーによる自動倉庫の提案も、省スペースでの高い保管率、波動に応じた運用変更や、設置スペースの拡張などに柔軟に対応できるとの提案が盛んになっている。これらは中小企業にとって初期投資を抑えた自動化設備運用を促すものであり、まずはそれぞれのスケールに合ったツールから自動化の成功体験を経て、次の自動化領域の拡張へと事業成長への後押しとなる。

▲EXOTECの次世代Skypod
棚入れやピッキング、搬送工程をAGV(無人搬送車)が担うようなシステムでは、AGVの稼働数の増減で、処理数の変化に対応する仕組みが提案されている。ロボット技術の進化によって、固定されたコンベヤー搬送から、搬送ロボットの運用への転換も促されている。小型自動倉庫の「Nano-Stream」(ナノ・ストリーム)を開発するROMS(ロムス)など新たなプレイヤーや、中国をはじめとする外国企業も勢力拡大を目指す。AGV自体も、中小企業の現場で運用できるような小型化、ソフトの制御機能向上など、より先進的な技術開発が試されている。エグゾテック(フランス)が発表した次世代「Skypodシステム」が搭載したピック&パック機能は、梱包作業まで効率化の領域を拡大。作業環境が過酷な食品物流などコールドチェーンの運用に対応するオートストア(ノルウェー)の「マルチ温度ソリューション」など、対応領域も多様化している。
また、柔軟性や拡張性を全面に打ち出した自在型自動倉庫を標榜するラピュタロボティクス「ラピュタASRS」のように、形状や設置、移設の自由度の高さで自動化導入へ導くツールも増加している。まずは、自動化に取り組むこと自体のハードルを超える呼びかけが、導入企業の意識も変えつつあるのだろう。これまで、自動倉庫の分野では、中小企業が使えるような汎用機が少ないことが、導入が進まない1つの要因だった。しかし、その状況も変化し、初期費用なしでサブスクリプション型の利用など導入スキームも多様化している。自動化に取り組もうという意志さえあれば、それを支える多様なアイデアやツールがあるのだ。
補助金の上手な活用は、物流革新における企業の使命
中小企業にこそ自動化が必要とはいえ、大企業との体力差は歴然としている。対応するソリューションの選択肢が増えても、導入に必要な投資への決断は、中小企業にとっては大きな挑戦であることは間違いない。

▲中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)に掲載されたROMS「Nano-Sorter」
社会全体の物流効率化が必要とする政府は、大企業だけではなく中小企業が自動化・DX(デジタルトランスフォーメーション)化に取り組めるような補助金制度を積極的に整備している。20年からスタートした「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(通称、ものづくり補助金)は、各種自動化ツールなどを対象として、個人事業主など小規模事業者の生産性向上を図るもの。執筆時(5月)現在、第20次となる申請を受け付けており、昨年度までに採択された事業者数は2070件(申請者数5777件)に達する。また、「中小企業省力投資補助金」では、カタログに掲載された汎用製品を選択する「カタログ注文型」からの申請も可能な仕組みを用意。ことしからスタートした「新事業進出補助金」などが要件に当てはまるようなケースもあるかもしれない。効率化の後押しを真剣に検証することは、物流に携わるものの使命だと考えるべきだ。
こうした補助金を活用すれば、自動倉庫導入の初期コストというハードルは大きく下がる。また、申請にあたって事業計画を精査することは、今後の事業成長の基盤となるはず。どんな目標に向かうのかという事業戦略を明確にし、従業員と未来図を共有することにも役立つはずだ。
ただし、中小企業では「業務の自動化」「マテハン導入」に専念できる人材がいないことこそが、自動化の致命的なボトルネックとなっていることも事実。日常業務でさえ人手が足りない状況で、新たな、それも事業の命運を分けるような戦略を担うのは、決裁権を持つ社長自らが取り組むか、トップダウンで業務を任された担当者というのが現実的な状況だ。
補助金活用に関する情報サイト
●ミラサポPlus(中小企業庁)https://mirasapo-plus.go.jp
※補助金・助成金の一覧や検索機能あり
●J-Net21(中小企業基盤整備機構)
https://j-net21.smrj.go.jp
※地域別・業種別の補助金情報・セミナー情報も豊富
●補助金活用ナビ(中小企業基盤整備機構)
https://seisansei.smrj.go.jp
※経営絵戦略として活用できる補助金最新動向など紹介
●jGrants(デジタル庁)
https://services.digital.go.jp/jgrants/
※補助金の検索だけでなく、電子申請までサポート
●自治体の産業支援ページ
※地方自治体でも独自に物流DXや省人化に関する補助金
●補助金活用の総合情報サービス
※「スマート補助金」「補助金ポータル」「助成金なう」など情報をまとめたプラットフォームも多数公開されている
こうした環境では、適切な補助金の精査や準備自体が難易度の高い作業となってしまう。補助金活用を成功させるには、的確な準備と戦略が必要だ。だが、補助事業の種類、募集タイミングや期間などは、その年度ごとにさまざまであることも、補助金活用の難しさの1つ。日々の業務と並行して、補助金制度の内容を理解し、自社の課題や導入効果、申請タイミングが整合する補助金を選定するのは一筋縄でできる作業ではない。各補助金ごとに詳細なホームページなども用意されており、基礎知識を備えておくことは欠かせないが、頼れる補助金申請のパートナーを見つけることも大切だ。
募集が明らかになってからでは準備が間に合わないということもあるだろう。コンサルタントや地元の商工会議所、中小企業診断士などの専門家の支援を受けるというのも1つの方法だが、まずは、補助金活用の有無に関係なく事業成長に必要なソリューション、その導入をサポートするベンダーの見極めて、自動化をともに進めるパートナーとともにツール導入の準備をしながら、適切な補助事業募集タイミングに合わせて活用するといった進め方もあるだろう。そのためには、小企業の補助金も含めた相談にも真摯に対応してくれるベンダーなのか、補助金導入を前提とした導入スケジュールにもしっかりと対応できるベンダーなのかを見極めて自動化のパートナーを選定することも、失敗しない自動化の重要な要素である。
中小企業にこそ求められる、成長を諦めない姿勢
中小企業の現場ニーズに応える自動化ソリューションの増加、政府による補助事業など、官民が、中小企業の物流効率化の底上げをバックアップしている。もはや、「自動化は大企業だけのもの」というのは、思い込みか、言い訳でしかない。すべての事業者に、自動化の第一歩を踏み出すチャンスは整えられている。
これまでアナログ業務で対応していたという事業者でも、おそらく人員配置、保管方法、作業動線の変更などには、絶えず工夫を凝らしてきたはず。そんな取り組みの延長線上にあるのが自動化の導入である。もちろん、自動倉庫導入だけが正解ではない。目的ではなく手段としての自動化であり、足元を固めながら段階を追ってDXで成長していくことが、より強い企業体質を形成するなど、その成長の道筋は1つではない。
自動化は単なる効率化の手段にとどまらない。他社との差別化を図る営業ツールとなり、顧客からの信頼獲得や新たな受注獲得にもつながる。自社の成長可能性を諦めるのではなく、可能性を最大限に引き出す手段として、自動化投資を前向きな挑戦として捉えるべきである。政府からの後押しがある今こそ、自動倉庫のような先進技術を現実的な手段として検討する絶好の機会。補助金活用のハードルは決して低くないが、戦略的な一歩として、いかにそれを活用するか、本気で取り組むかの決断が中小事業の未来を左右するのだ。