話題全て(A-Z)の人々(People)の可能性を無限(∞)にするという意思が社名に込められたAzoop(アズープ、東京都港区)は、運送会社に向けて、車両売買プラットフォームを展開している。創業は2017年。中古トラックのオークション事業から成長を遂げ、独自路線を切り拓いてきた。現在は運送業者が直面する車両管理、人材採用、経営分析など、業界の本質的な課題に対して、実践的かつ効果的な複数のソリューションを提供する。

▲Azoopの朴貴頌社長
創業者で代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の朴貴頌氏は、10年にリクルートに入社後、コンサルティング営業として、中小から大手企業まで200社以上の採用・育成戦略を成功へと導いた。その経験を生かし、取締役として手腕を発揮。しかし、業界には旧態依然とした慣習がはびこっていた。それを打ち破る変革が必要と確信し、17年5月にアズープを設立した。現在は、運送会社の収益性向上と次世代の物流インフラ構築という明確なビジョンを掲げ、同社を率いる。その先進的な戦略と将来展望は、どのようにして生まれたのか──朴社長に話を聞いた。
運送会社の資金繰りを改善する「トラッカーズオークション」
車両管理の非効率さや労働力不足により、持続可能な成長が課題の物流業界にとって、同社が提供する物流DX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォーム「トラッカーズ」は画期的な複合型ソリューションだった。その機能の1つ「トラッカーズオークション」は複数の中古車販売店がオークション形式で入札するトラック・バン専門の買い取りサービスだ。複数店舗が提示した価格の中から、最高値で取引が成立。出品料・成約料は完全無料。写真撮影から出品手続きまで全て代行する。匿名出品にも対応可能だ。
同社が展開する運送業務支援SaaS「トラッカーズマネージャー」は事業者にとって頼もしい右腕的な存在だ。このサービスは、運送業務をクラウド上で一元管理し、デジタル化を促進。車両の維持費や運用コストを可視化する。Amazon QuickSightを活用してデータを平易に提示する。運送会社はリアルタイムで経営状況を把握し、迅速に意思決定できる。車両のメンテナンススケジュールや燃料費用を最適化して運用コストを削減、利益率の向上も可能だ。これにより、業務時間が従来比で30%削減したという、導入企業からの報告もある。
同社はさらに、慢性的な物流業界の人材不足の解決手段として「トラッカーズジョブ」を提供する。このサービスは運送業者、産廃業者、倉庫業者向けに、求人掲載から採用までをサポートし、定着課金制で実現している。人材確保を通じて運送会社の事業継続性を支え、業界全体の労働力不足解消に貢献している。
ファクスでのやり取りが当たり前、デジタル化の遅れを実感
こうしたサービスが生まれた背景には、朴氏が家業の会社に取締役として参画した経験が色濃く存在する。リクルートを退社後、愛知県で中古トラック売買と海上コンテナ輸送に従事していた頃、そこで運送業界特有のアナログな業務実態を目の当たりにした。
「父の会社では中古トラックの買い取りを担当し、関東エリアの運送会社を1日に30から40件飛び込み営業していた。当時、先方とのやり取りはファクスが当たり前だった。トラックの画像をファクスで送ってほしいと頼まれた時は正直、愕然とした。リクルート時代から見てきた世界とは正反対、業界はデジタル化が進むどころか、旧態依然としていた」
さらに朴氏は中古トラック売買における非効率性に首を傾げることが多かった。「運送会社がトラックを売却する際、複数の中古車事業者に声をかけ、各社が個別に現車確認に訪れる。同じ車両を何度も見に来るのは、双方にとってリソースの無駄でしかない。また、価格交渉を個別にするため、透明性も低い。この非効率を解消できれば、業界全体の生産性を上げられるはずだと強く思った」
親世代のやり方が通用しないと感じる次世代経営者にフォーカス
折しも創業の頃、運送業界は代替わりの時期だった。日本の高度経済成長を生き抜き、支えてきた親世代が一線を退き始めた。「二代目、三代目の経営者は、親世代のやり方が通用しなくなってきていると感じているはず。ここにチャンスがあると考え、運送業界に特化した事業での起業を決意した」
こうして17年、Azoopは誕生した。
同社はまず、中古トラックのインターネットオークション「トラッカーズオークション」を手がけた。ところが、当初は「インターネットオークションなんて信用ならない」「お金はちゃんと振り込まれるのか」といった不安や戸惑いの声が目立った。業界にまん延する、見知らぬものへの拒絶が明らかに見て取れた。従来にない仕組みを理解してもらうために繰り返す説明や説得は、産みの苦しみだったという。
「運送業界はその利益率の低さから、新しい試みへの投資に慎重な経営者が少なくない。メールアドレスさえ持っていない会社も珍しくない。そうした会社に対しては私がオフィスに伺い、送受信がきるように設定を手伝ったこともあった。こうした地道な訪問を重ね、まずは使ってもらうことから始めた」と朴氏は振り返る。
あえて戦わないために、運送事業に参入せず
同社はオークション事業で築いた運送会社とのネットワークを基盤にサービスを拡充していく。運送会社の経営の根幹である「車両」と「人(ドライバー)」の管理に着目した。朴氏は運送プラットフォーム事業に参入しなかった理由を「あえて戦わない。レッドオーシャン化を避けるため」と説明する。「運送会社を支援するサービスで多いのは求荷求車のマッチング。その市場は総じて売上至上主義で価格競争に陥りやすい。そこで、我々は運送会社の経営管理という、まだプレイヤーが少なく、かつ本質的な課題解決につながる領域を選んだ」
また、同社のサービスは主に運送会社のバックオフィス部門が利用する。そのため、配車担当者などを敵に回してしまう懸念が残る配車システムなどに比べ、導入のハードルが低い利点もあるという。とはいえ、新たなサービスの導入となれば、現場の抵抗に全く遭わないわけではない。その際に効果を発揮するのが、リクルート出身者が多い経営チームの営業ノウハウだ。
「運送業界のDXを進める上で大きな課題は、それを推進できる人材が業界内に圧倒的に少ないこと。社長がDXを決断しても、実行できる担当者がいない。他業界から魅力的な人材が流入するような、利益率の高い経営体質を作ることが不可欠だ」
業界標準になるプラットフォームの構築を目指す
朴氏は自社の成長だけを思い描いていない。業界全体の変革を見据えている。「創業当初は、IPOして成功したい気持ちが強くあった。でも今は、この旧態依然とした業界を変革し、社会の記憶に残るような仕事をしたいという想いが強くなった。我々のサービスが、運送業界の持続可能性を高める一助となり、『Azoopのおかげで業界が良くなった』と言われる会社になりたい」
朴氏は今後、世代交代が徐々に進み、30年頃には業界再編が加速すると見ている。その時、Azoopが構築したプラットフォームが業界標準として確立していることを目指す。そのための最適な手段として、IPOやM&Aも選択肢に入れる。従来にない価値観を創造する。それを発展させて具現化し、社会に実装化する。かくの如く、未来を切り拓いてきたAzoopはさらに、運送業界の未来を明るくするために挑戦を続ける覚悟だ。
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A. 各サービス単体での利用者は増えてきましたが、今は一社のお客様に複数のサービスを使っていただくことを重視しているフェーズです。事業フェーズでいうと中盤くらい、人間でいうとエネルギーあふれる10代後半といったところでしょうか。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A. M&AやIPOといった手段自体が目的ではありません。我々の事業がいかに成長し、そのスピードを早められるかが重要です。2030年頃の業界再編までに、我々が業界のスタンダードを作れるのかどうかが勝負だと考えています。その目標達成に最も近づける選択肢を選びたいですね。