イベント本誌LOGISTICS TODAYとトラボックス(東京都渋谷区)が共催する運送業界交流イベント「運びと地位向上全国キャラバン2025 東京」が9日に開催された。会場には多くの物流関係者が詰めかけた。
本企画は、全国の運送事業者と“膝を突き合わせて”課題を共有し、2024年問題をはじめとする物流改革期のなかで「運送業の地位向上」を実現することを目的としている。トラック新法や適正原価制度、委託次数制限など、法制度の転換点に立つ物流業界で、最も深刻なのは「ドライバーが減り続けている」現実。「業界をこのまま放置すれば、34%の輸送力不足が現実になる」──そんな危機感を共有し、事業者がどう協力し、どう再生するかを考える場として開かれたのが、この「運びとキャラバン」だ。
モデレーターはトラボックスの吉岡泰一郎会長と本誌の刈屋大輔編集委員が務め、本誌・赤澤裕介編集長がコメンテーターとして参加した。
今回のメインセッション「若き経営者・魂の叫び」では、運送業の若手経営者を代表して2人が登壇。進正運輸(東京都足立区)の山本大知社長と、ホレスト(埼玉県入間市)の林利也常務取締役だ。

▲進正運輸の山本大知社長
山本氏は1995年生まれの30歳。高校卒業後に入社し、ドライバーを経て24年6月に社長へ就任した。現在は次世代経営者の交流組織「ネクストジェネレーション会」(NG会)の共同座長も務めている。
NG会は、全国の若手運送会社経営者が悩みや課題を共有し合うための任意団体で、年齢や性別を問わず参加できる開かれたネットワークとして活動している。青年部やトラック協会に加入する前段階の交流の場として、経営経験の浅い2代目・3代目経営者にとっての“最初のつながり”の場となっており、山本氏は「ここから運送業界の新しい文化を作りたい」と語る。
林氏は10年にホレストへ入社し、未経験からドライバー、配車、営業を経て経営に携わるようになった人物。埼玉県トラック協会の若手ドライバー勉強会を経て物流経営士資格も取得し、地域交流や勉強会にも積極的に参加している。こうした2人の登壇により、パネルは単なる経営論にとどまらず、現場のリアルと将来像を交差させる議論となった。

▲ホレストの林利也常務取締役
冒頭、山本氏は「稼げない、免許が必要、縛りが多い」といった固定観念が若者の参入を妨げていると指摘。一方で林氏は、「きつい・危険・帰れない」という“運送版3K”がいまだに残ると語り、「毎日家に帰れない、手積み手降ろしが多い、免許取得に費用がかかる、そうした構造を変えないと若手は入ってこない」と訴えた。
林氏の会社(ホレスト)では、免許を持たない応募者にも取得支援を実施しているという。林氏は「全額立て替え、分割返済で対応している。そこまでやらないと本当に若手は来ない」と語り、「そもそも免許を持っていないとドライバー職に就けないと思っている人も多く、業界外部からの流入を促す情報発信も必要だ」と訴えた。
本誌・赤澤裕介編集長は、「若者がトラックドライバーにワクワクできないのは、キャリアパスが描けないからだ」と切り込む。「努力して資格を取っても報われにくく、転職してもスキルや経歴を証明する仕組みがない。パイロットの飛行時間記録のように、ドライバーにもキャリアを積み上げられるデータ制度を作るべきだ」と提案した。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長
さらに「ブラックな職場の残像を認めた上で、経営者がまず動くべき。誇りを持てる仕組みを経営側が整えないと、業界の構造は変わらない」と語った。
続いて刈屋編集委員は、30年前との比較を交えつつ賃金構造の変化を指摘した。「かつて長距離ドライバーの年収は1000万円超も珍しくなかったが、規制緩和で競争が激化し、今は全産業平均より14%低い水準。報酬と社会的地位を上げない限り、若者は戻らない。鉄道の“運転士”には尊敬の念があるが、トラック業界は“運転手”のまま。言葉の差が意識の差を生んでいる」と語り、「“運転士”としての誇りを取り戻す運動が必要だ」と訴えた。

▲LOGISTICS TODAYの刈屋大輔編集委員
議論は次第に「かっこよさ」の定義へと移った。山本氏は「制服や車両デザインなど外見からでもやりがいを感じる」と述べ、林氏も「ユニフォームを機能的でスタイリッシュにし、安全靴もスポーツアパレルなどのファッション性の高いデザインのものから選べるようにしている」と紹介。「クリーンで誇れる仕事という印象を広めたい」と話した。
赤澤編集長は「トラック業界の“かっこよさ”を発信しなければならない」と強調。「60-70年代の『トラック野郎』的な泥臭いかっこよさではなく、現代的な誇りと技術を象徴する姿を作る必要がある」と語った。

▲トラボックスの吉岡泰一郎会長
議論の後半では、ドライバー間で尊敬される存在を育てる仕組みとして「キャプテン」制度が紹介された。赤澤編集長が紹介したのは、車両輸送業界での取り組み。「熟練ドライバーの中から人格・技術ともに優れた人を“キャプテン”として称号化し、現場の憧れとする仕組みだ。社長より慕われる存在になる」と説明した。林氏は「弊社でも班長制度を設けているが、キャプテンの方が響きがいい。導入したい」と笑顔を見せた。
パネル終盤では、山本氏が座長を務めるNG会の取り組みが再び話題に上った。「給与水準や採用、デジタル化など、各社の悩みを率直に共有する場」として運営されており、山本氏は「議題に答えはなく、皆で考え、実践につなげるのが目的」と語る。赤澤編集長は「勉強会ではなく“現場の知恵の交換所”としての存在価値がある」と評価し、「ここから新しい運送業の文化が生まれるかもしれない」と期待を寄せた。
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