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西久大運輸倉庫、アドブルー自社調達の舞台裏

2025年10月22日 (水)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は西久大運輸倉庫、アドブルーの自社調達を実現(10月6日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス九州を拠点に全国44か所の拠点を構える西久大運輸倉庫(福岡県久留米市)が、トラックの排出ガス浄化に不可欠な高品位尿素水「アドブルー」(AdBlue)の自社調達を実現した。長年にわたり輸送現場を支えてきた同社が、自ら輸入ルートを構築し、海外メーカーとの直接取引に踏み切った背景には、サプライチェーンの混乱と、それを自力で乗り越えようとする物流事業者としての覚悟があった。

国内供給不安が契機、通関ノウハウを活用

アドブルーは、ディーゼルエンジンの排出ガスを浄化するために不可欠な資材である。2021年頃の世界的な尿素不足により、国内では供給が不安定化し、物流事業者にとって深刻なリスク要因となった。

西久大運輸倉庫では、当時から「物流を止めないための仕組みを自ら作る」必要性を痛感していた。同社は輸出入・通関業務のノウハウを有しており、それを生かしてアドブルーの海外調達を検討。複数の候補先を比較するなかで、ベトナムのブルーワン・ジョイント・ストック・カンパニー(ブルーワンJSC)がVDA(ドイツ自動車工業会)認証を取得していることを確認し、品質面で信頼できると判断した。

初の海外取引となったが、メールでのやり取りを重ねることで信頼関係を構築し、契約に至った。同社の通関実務力と国際取引への柔軟性が、供給危機の克服を支えた格好だ。

地銀ネットワークが支えた現地調査と品質検証

取引成立の背後には、地元金融機関である福岡銀行の支援もあった。同行ホーチミン駐在員事務所がブルーワンJSCの工場やオフィスを訪問し、製造環境や研究施設、労働体制を詳細に調査。報告書を作成し、現地の品質管理状況や企業体制を確認した。

こうした地銀ネットワークによる現地支援は、中堅物流企業が海外と直接取引するうえでの大きな助力となった。調査報告に基づき、同社は製品サンプルを入手・確認し、アドブルーの品質・安定性が自社基準を満たすことを確認したうえで、輸入を開始した。

定温倉庫で品質を維持、在庫はおよそ2か月分を確保

同社によると、「アドブルーは高温環境下で品質が劣化しやすいため、特に夏場は定温の倉庫を使用して保管している」という。過剰な在庫を避けつつ、船便遅延などのリスクを考慮し、支店で使用する量のおよそ2か月分を常に確保している状態だという。

また、「当面は安定供給の確立を最優先しており、現段階では大幅なコストダウンには至っていないが、一括輸入に切り替えることで徐々に費用を抑えられる見込み」としている。設備投資や外販体制の整備を進めながら、長期的なコスト最適化を図る考えだ。

物流インフラの自社整備へと波及

アドブルーの自社調達を通じて、同社は物流現場を支える資材や仕組みを「自社で整える」方向へ舵を切っている。具体的な商材名は明かしていないが、同社によると「軽油のインタンク設備や油脂類など、物流業務に関わる資材・設備を自社で整備する方向で検討している」という。

ただし、現状では海外からの輸入品で内製化しているのは現在のところアドブルーのみであり、今後も段階的に体制を構築していく方針だ。

アドブルーの外販・小口展開も視野に

同社によると、「アドブルーは全国にある自社の拠点で使用した後、取引先企業への販売を進める予定」だという。現在は1000リットルタンク単位で輸入しており、主に物流会社での使用を想定しているが、「今後は20リットルなど小口容器での販売も計画している」とする。

自社の物流ネットワークを生かし、九州全域での安定供給体制を確立する構想もあり、地域の運送事業者へのサポートという側面も持つ。

海外物流との連携も将来構想に

「一歩」誌によれば、同社は今回の取引を通じて海外展開への関心を高めている。質問回答でも「現時点で具体的な計画はないものの、今後の事業環境や顧客ニーズを見ながら海外との物流連携の可能性について検討していく」としており、あくまで将来的な方向性としての構想段階にある。

通関業務で培った知見やネットワークを背景に、輸出入を組み合わせた国際物流への発展が視野に入りつつある。

九州発、調達の自立モデルとして

西久大運輸倉庫のアドブルー自社調達は、単なるコスト削減策ではない。外部環境に左右されない「自立型サプライチェーン」を目指す取り組みであり、地方物流企業が自社の通関・調達ノウハウを最大限に活用した実例である。

地銀ネットワークを生かした現地支援、品質検証、安定輸入、倉庫保管という一連の流れは、他の中堅物流企業にとっても再現可能なモデルとなり得る。すでにインタンクを備えたり、自社整備工場を持ったりといった内製化を進める運送事業者は少なくないが、同社の取り組みは、内製化の新たな事例と言えるだろう。(土屋悟)

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