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クラシエ薬品、九州拠点稼働で24年問題とBCPに挑む

2025年10月22日 (水)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「クラシエ薬品、福岡・小郡に九州初の物流拠点」(10月1日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

メディカルクラシエ薬品(東京都港区)が1日、福岡県小郡市で「九州配送センター」の稼働を開始した。九州初となるこの物流拠点。その背景には深刻化する物流業界の課題克服と、医薬品メーカーとしての使命感があった。担当者が明かした戦略的意図とは──。

この地の利を制したクラシエの九州戦略とも言える。鹿児島への配送はこれまで900キロもの長距離を移動していた。しかし、新センターのおかげで300キロ以内に縮まったというから、その恩恵は大きい。ただの距離短縮だけではない。新センターの稼働は深刻化する「物流2024年問題」への、まさに特効薬となる一手なのだ。

▲クラシエ薬品が福岡県小郡市で稼働を開始した「九州配送センター」(出所:クラシエ薬品)

ドライバー不足と労働時間規制への現実的解

「配送距離を短縮すれば、ドライバーの負担が減る。ドライバー不足や労働時間規制への対応にもつながる」と担当者は説明する。昨年4月、トラックドライバーの時間外労働に上限規制が導入された。これで長距離輸送の維持が一気に困難になった。地域拠点を設ける必要がある。それが現実的な解決策なのだ。

関西から九州への長距離配送。これがドライバーへの多大な負担だったのは想像に難くない。新拠点の開設で、この負担がようやく軽減される。だが、それだけじゃない。配送の安定性も格段に向上するのだ。医薬品という命に関わる商品である以上、配送遅延は患者の治療に直結する。物流の安定化は、企業の社会的責任を果たす上で絶対に外せない命題なのだ。

医薬品物流の品質管理

医薬品物流で、品質管理の徹底は欠かせない。同社はこれまでも厳格に取り組んでた。医薬品物流は温湿度管理が重要だ。同センターでは物流業務を委託するスーパーレックスが「医薬品や医療機器等の取り扱い実績があり、温湿度管理等をはじめとし、GDPガイドラインに準拠した物流センターの構築と運営管理を徹底している」と説明する。特筆すべきは「入出荷バースにもエアコンが複数設置されており、九州の高温多湿な気候に合わせた設計になっている」という徹底ぶりだ。荷物の積み下ろし場所にまでエアコンを完備――。この細部へのこだわりが、患者の命を守る医薬品の品質を死守している。

BCP強化──災害に強い供給網の構築

「ポイントは在庫保管拠点の分散だ」と担当者が言及する。これまでの埼玉・大阪の2拠点体制から、福岡を加えた3拠点体制へ。「万が一の備えを強化する。それが狙いだ」

さらに担当者は「埼玉・大阪、そして福岡。3センター間で在庫を相互調整できる柔軟な連携体制を構築していく」と続ける。地震や台風、災害大国ニッポンで複数拠点での在庫保管は、もはや必須条件なのだ。患者の命を預かる医薬品である以上、供給途絶は絶対に許されない。

環境負荷低減への取り組み

新センターでは複数の直販メーカーとの共同配送も進めるという。「配送車両や作業員、施設設備の共有化により、環境負荷の低減(CO2の削減)と配送の効率化が期待できる」。担当者はこう胸を張る。物流効率化。それはコストダウンの問題だけじゃない。地球環境を守る、企業の"責務"でもあるのだ。

「九州配送センターの開設を機に、漢方薬の安定供給をさらに強固なものとし、患者様・お客様の健康で豊かな暮らしをサポートしたい」と担当者はこう力を込めた。そして「今後も持続可能な物流体制の構築に向けて活動していく」と、改善への強い意欲を見せた。

クラシエ薬品の九州配送センター開設。それは物流2024年問題、BCP強化、環境負荷低減という、現代物流が抱える3課題への起死回生の一手なのだ。命を預かる医薬品を扱う企業として、この挑戦は業界全体のモデルケースとなるに違いない。(星裕一朗)

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