国際米国・イスラエルの対イラン軍事作戦(2月28日開始)から7日目の3月6日、ホルムズ海峡の商業船舶はほぼ完全に止まったままだ。原油価格はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)が90.90ドル/バレル、ブレントが92.69ドル/バレルで週を終え、WTIは1983年の先物取引開始以来、最大の週間上昇率(+35.63%)を記録した。同日、トランプ大統領がイランに「無条件降伏」を要求し、紛争長期化の懸念が一気に強まっている。(編集長・赤澤裕介)
世界の石油輸送の20%、LNG(液化天然ガス)の20-25%が通るホルムズ海峡が止まった影響は、エネルギー市場にとどまらない。イラク、クウェートが貯蔵限界で相次ぎ減産に入り、サウジアラビアは紅海ヤンブー港への原油迂回を急ぐ。アジアでは石油化学メーカーがフォースマジュール(不可抗力条項)を宣言し、日本の精製業者は政府に備蓄放出を要請した。サプライチェーンへの波及が加速している。

保険撤回が事実上の封鎖を完成させた
イラン革命防衛隊(IRGC)は3月2日、「海峡は閉鎖された。通過しようとする船は燃やす」と宣言した。ただし、海峡を物理的に封鎖したわけではない。実質的に通行を止めたのは、保険会社による戦争リスク保険の撤回(3月5日発効)だった。保険がなければ船主は経済的にリスクを取れない。海運保険の専門家は「脅威の認識に基づく事実上の封鎖であり、物理的な海上封鎖ではない」と指摘している。
紛争前は1日平均24隻だった原油タンカーの通過は、3月1日にわずか4隻(うち3隻はイラン船籍)まで落ち込み、以降ほぼゼロが続く。LPG(液化石油ガス)タンカーは94%減。海峡周辺には300隻の石油タンカーが動けずに滞留し、コンテナ船も140-150隻(47万TEU相当)が湾内で足止めされている。
4日にはマルタ船籍のコンテナフィーダー船サフィーン・プレスティージ(1740TEU)がオマーン沖で攻撃を受け、乗組員が退船した。ホルムズ海峡でコンテナ船が被害を受けたのは今回の紛争で初めてだ。
APモラー・マースク、ハパックロイド、CMA CGM、MSCの大手4社はいずれもホルムズ通過を停止した。フーシ派が紅海での商船攻撃再開を宣言しているため、スエズ経由のバブ・エル・マンデブ海峡も使えない。残る迂回先はアフリカ南端の喜望峰ルートだが、輸送日数は数週間延び、コストも大幅に上がる。
海峡が止まると、湾岸の産油国は原油を輸出できない。貯蔵タンクが満杯に近づき、減産に追い込まれる国が相次いでいる。
イラクは貯蔵能力の限界から日量150万バレルの減産に踏み切り、最大の油田ルマイラの操業を縮小した。クウェートも貯蔵スペースが尽きて一部油田の減産を開始。海外金融大手の分析では、クウェートは紛争開始から18日、UAEは22日で貯蔵が満杯になる。サウジアラビアの東海岸ジュアイマ・ターミナルも「急速に余剰容量がなくなっている」状態で、ラス・タヌラ製油所ではタンク6基のうち4基がすでに満杯だという。
海外金融大手のコモディティ調査責任者は「海峡が来週も開かなければ、減産規模は日量600万バレルに達する可能性がある」と警告する。カタールのサアド・カービ・エネルギー相も海外経済紙に対し「タンカーが海峡を通れなければ原油は150ドル/バレルに達し、世界経済を破壊しかねない」と述べた。
サウジアラビアは紅海側のヤンブー港から迂回輸出を拡大している。3月に入ってからヤンブーでVLCC(超大型原油タンカー)7隻への積み込みが確認され、2月同期の3隻から倍増した。ただしパイプライン容量には限りがあり、ホルムズの輸送量を全て代替することはできない。海外金融大手のアナリストは「パイプラインでは全量を迂回できない。海峡が閉じたままなら、全産油国が減産を強いられる」と分析している。
ホルムズ海峡を通る原油・コンデンセートの84%、LNGの83%はアジア市場向けだ。中国、インド、日本、韓国の4か国だけで通過原油量の69%を占めており、封鎖の影響はアジアに集中する。
日本の精製業者はサウジアラビア、クウェート、UAE、カタールから原油の95%を調達している。ホルムズが止まれば、供給が途絶するリスクに直面する。LNG備蓄は440万トンで、安定需要ベースでは2-4週間分しかない。日本の精製業者はすでに政府に対し石油備蓄の放出を要請した。
韓国の石油化学大手ヨチョンNCCは4日、ナフサ調達の途絶を理由にフォースマジュールを宣言した。インドネシアのチャンドラ・アスリ、シンガポールのPCSも相次いで同様の措置をとっている。パキスタンはサウジに対し紅海ヤンブー港経由での石油供給ルート変更を正式に要請した。
中国はイランとの間でホルムズ海峡の安全通行を交渉している。海外通信社が3人の外交筋を引用して報じたところによると、中国は原油タンカーとカタール産LNG船の安全通過をイランに求めた。中国は石油輸入の45%をホルムズ経由に頼り、イラン原油の最大の購入国でもある。封鎖は自国のエネルギー安全保障を直撃するため、動きは速い。
すでに中国船だけが通れる「例外通行」が事実上できつつある。船舶追跡データでは、バルクキャリア「アイアン・メイデン」がAIS(船舶自動識別装置)信号を「CHINA-OWNER」に変更して海峡を通過した。イランは米国、イスラエル、欧州各国とその同盟国の船舶通過を禁止する一方、中国船は明示的な禁止対象にしていない。砂糖輸送の一部でも中国またはイラン所有の船だけが通過を許可されているとの報告がある。
中国外務省の毛寧報道官は6日の定例会見で、ホルムズ海峡を「物資とエネルギーの重要な国際貿易ルート」と位置づけ、関係各国に軍事行動の即時停止を求めた。海外通信社が報じたイランとの交渉については直接の確認を避けている。一方で中国政府は、国内の大手石油精製会社にディーゼルとガソリンの輸出停止を指示した。中東からの原油供給が滞るなか、国内供給を優先する動きだ。
米国は6日、国際開発金融公社(DFC)を通じた200億ドル規模の海上再保険制度を正式に発表した。DFCのベン・ブラックCEOは「石油、ガソリン、LNG、ジェット燃料、肥料をホルムズ海峡経由で再び世界に届ける」と声明を出した。船体・機械保険と貨物保険を対象とし、米中央軍(CENTCOM)と連携して運用する。
トランプ大統領は3日のSNS投稿で海軍によるタンカー護衛にも言及していた。しかしエネルギー長官クリス・ライトは「現在は対イラン作戦に集中している。遠くない将来にエネルギー輸送再開に海軍を投入する」と述べ、即座の護衛には消極的だ。海運ブローカーSSYも「海軍は対イラン作戦で手一杯で、近い将来のエスコート実現は現実的ではない」と分析している。1987年のイラン・イラク戦争時にも米海軍はタンカー護衛を行ったが、当時は米国自身がイランと交戦していなかった。
海運業界の見方はさらに厳しい。海運データ分析会社クプラーのアナリストは「船主が海峡通過を再開するには、イランの戦闘能力が低下したという確信が必要だ」と指摘する。再保険制度だけでは船主は動かない。攻撃が止まり、安全が確認されるまで、海峡の正常化は見通せない状況が続く。
中国によるイランとの交渉、米再保険制度の実効性、そして停戦に向けた外交がどう動くか。物流正常化の鍵はこの3つにかかっている。
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