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ホルムズ封鎖10日目、原油100ドル迫る

2026年3月9日 (月)

国際米国・イスラエルの対イラン軍事作戦が始まって10日。ホルムズ海峡は商業船がほぼ通れない状態が続いている。原油先物はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)が先週末の清算値で90.90ドル/バレル、ブレントが92.69ドル/バレルまで上がり、週明け9日の電子取引ではWTIが100ドルの大台に接近した。アブダビ産ムルバン原油はすでに103ドル前後だ。エネルギー価格の急騰がトラック燃料や船舶燃料を直撃し、国内の物流コストを押し上げ始めている。(編集長・赤澤裕介)

物流コスト全面上昇、出口見えず

海事情報分析会社ウインドワードの3月8日付レポートによると、7日にホルムズ海峡を通過したのは全船種で計3隻(入り1隻・出2隻)だけだった。7日間平均の13.4隻をさらに下回る。開戦前は1日平均153隻(スターボード・マリタイム・インテリジェンス調べ)が行き来しており、95%以上が止まった計算だ。通過した3隻はパラオ船籍の石油/化学品タンカー、イラン船籍船、リベリア船籍バルク船で、西側主要船社の商業船は1隻もない。タンカーだけで見れば、海外通信社の可視化データで4日時点の通過がゼロになっており、原油の海上輸送は事実上止まっている。

海外メディアによると、IRGC(イラン革命防衛隊)は8日、5日に表明した「米・イスラエル、西側同盟国の船舶のみ閉鎖する」との方針を改めて確認した。中国船への例外的な通航余地を示唆する報道もあるが、実際に中国旗船の通過が再開された形跡はない。

原油価格は週を追うごとに水準が切り上がっている。6日金曜日のNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)清算値はWTI90.90ドル(前日比+12.21%)、ICEブレント92.69ドル(同+8.52%)。WTIは1週間で+35.63%と、1983年の先物取引開始以来最大の週間上昇率を記録した。ブレントも+17%で2020年春以来の最大だ。ブレントは一時94ドル台に乗せた。

ここで注目したいのは2つの動きだ。1つは、アブダビ産ムルバン原油が8日に103ドル前後まで上がったこと。ムルバンはホルムズ海峡を経由せずに出荷できる数少ないベンチマークで、「実際に手に入る原油」の価格がすでに3桁に入った。もう1つは、WTIの一部リアルタイム価格サイトで週末から9日にかけて102ドル台の表示が出ていること。週明けの正規取引セッション(日本時間9日夜)で100ドルの大台を正式に超える可能性がある。

海外金融大手ゴールドマン・サックスは6日、ホルムズ海峡の航行が回復しなければ「来週にも100ドルを超える可能性が高い」と警告した。バークレイズは数週間続けば120ドルに届くシナリオを示している。

▲主要原油価格指標(3月6日時点)(クリックで拡大)

コンテナ船社の対応も広がっている。APモラー・マースクは6日付で中東-インド-地中海(FM1)サービス、中東-インド-米国東岸(ME11)サービスの2航路を止め、ペルシャ湾内のシャトルサービスも無期限で停止した。2日付でホルムズ緊急運賃値上げも発表済みだ。エバーグリーンもバーレーン、クウェート、カタール、UAE、サウジアラビア(ジェッダ除く)、イラク向けの新規予約を全面停止。HMM、コスコ、CMA CGM、ハパックロイドも湾岸向け予約を凍結し、MSCも全船に安全海域への退避を指示した。海運調査会社ゼネタの集計では、ペルシャ湾内で147隻のコンテナ船が身動きできずにいる。

コンテナ運賃の上がり方も急だ。上海-ジュベルアリ間のスポット運賃は1FEUあたり1800ドルから4000ドル超に跳ね上がった(フレイトス調べ)。CMA CGMは湾岸向けに1FEUあたり3000ドルの緊急サーチャージを課し、ほかの船社も追随している。喜望峰回りで航海日数が10-14日延びるとはいえ、ホルムズ海峡はペルシャ湾と外洋を結ぶ唯一の航路だ。紅海・スエズ運河のように「遠回りすれば着く」わけではなく、湾内の港に向かう貨物は海峡が開くまで動かせない。

超大型原油タンカー(VLCC)の日額運賃も42万3736ドルと過去最高を更新した(LSEG調べ、3月3日時点)。中東-中国間のVLCC用船料はバレルあたり20ドル相当で、前年平均の2.5ドルから8倍になっている。

クリス・ライト米エネルギー長官は8日、FOXニュースで「タンカー1隻がすでに海峡を通過した」と述べ、「正常化には数週間、数か月ではない」との見通しを語った。米国は国際開発金融公社(DFC)を通じた200億ドルの海上再保険制度を6日に発表している。ただ、保険があっても船が動くかは別の問題だ。海運アナリストの間では「停戦合意がない限り大手船社は通過を再開しない」という見方が強く、ライト長官の楽観と現場の空気には大きな開きがある。

日本は原油輸入の95%をサウジアラビア、クウェート、UAE、カタールから調達しており、その70%がホルムズ海峡を経由する。国家備蓄は254日分(政府146日、民間101日、産油国共同7日)あるが、政府は放出の検討に入った。ただし備蓄の大部分は原油のまま保管されている。精製して軽油やジェット燃料として物流の現場に届くまでには時間がかかる。

エネルギー価格の急騰は物流コストに直結する。軽油・重油の調達価格が上がれば、トラック運賃と内航船運賃は同時に上がる。24年問題に伴う運賃適正化の流れにエネルギーコスト増が重なり、荷主企業にとっては二重の負担増だ。中東向け自動車輸出の停滞も深刻で、日本の対中東輸出は近年過去最高水準にあっただけに、停止が長引けば生産調整に踏み込む企業が出てくる。

ゼロカーボン・アナリティクスの分析では、ホルムズ海峡の石油・LNG供給途絶リスクに最もさらされているのは日本で、韓国、インド、中国がそれに続く。野村総合研究所(NRI)の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、原油87ドルでGDP▲0.18%・小売価格+0.31%、ホルムズ完全封鎖が長期化して原油140ドルに達すればスタグフレーション(景気停滞と物価上昇の同時進行)のリスクがあるとの3段階シナリオを示した。英シンクタンクのチャタムハウスも、原油100ドルが年間を通じて続けばGDP成長率が0.25-0.4ポイント低下するとの分析を出している。

出口はまだ見えない。ホルムズ海峡と紅海の「二重チョークポイント」が同時に使えなくなった状況は近代海運で前例がない。物流業界は少なくとも数週間単位の混乱を前提に動く必要がある。週明け9日の原油先物市場と、米国の護衛作戦がどこまで具体化するかが次の焦点だ。

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