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軽油1週間で22%高騰、物流コスト急上昇の全体像

2026年3月10日 (火)

調査・データホルムズ海峡の緊張が続くなか、世界の物流に何が起きているのか。中東から遠い北米でもトラック市場が一変し、燃料価格は農業や消費者の暮らしにまで波及し始めた。3月10日時点の陸・海・空を横断するサプライチェーンの「いま」を追った。(編集長・赤澤裕介)

地政学リスクが物流コストを直撃

ここ1週間で最もインパクトが大きいのは、軽油価格の急騰だ。米国の全米平均小売価格は8日時点で1ガロン4.60ドル。1週間で84セント、率にして22%跳ね上がった。ガソリンの上昇率は16%で、軽油がそれを大きく上回っている。

なぜ軽油だけがこれほど急激なのか。もともと米国北東部の厳冬で暖房油の需要が高まっていた。暖房油と軽油は事実上同じ製品だ。そこにホルムズ海峡の緊張が重なり、一気に需給が崩れた。石油分析大手のアナリストは「軽油は海運リスクにガソリンより敏感に反応する」と指摘する。1ガロン5ドル到達を予測する声もある。

卸売価格はもっと激しく動いている。フレイトウェーブズのデータによると、米国の卸売軽油価格は前週比で30%超の上昇。小売は14%超の上昇にとどまっており、両者のスプレッドが1.02ドルから0.68ドルに縮んだ。これが運送事業者を苦しめている。燃料サーチャージはエネルギー省の週次小売価格に連動する仕組みが一般的で、卸売が先行して上がると、サーチャージで回収しきれない「逆ザヤ」が生じる。

CHロビンソンの3月レポートでは、2月の全米平均軽油価格は1ガロン3.72ドルで、1月の3.52ドルからすでに上昇基調にあった。3月に入って上げ足が加速し、欧州の軽油先物は2日間で34%という異例の上昇を記録した。

UPSはすでに週次の燃料サーチャージを引き上げ、追加の値上げも見込まれる。中小のトラック事業者にとっては「経験したことのないスピードの高騰」(シカゴの事業者)という声が上がる。春の作付けシーズンを控える農業セクターでも影響は深刻で、トラクターやコンバインの燃料コスト、中東産肥料の価格上昇が農家の収益を圧迫し始めている。

米国のトラック市場では「回復」という言葉が飛び交っている。フレイトウェーブズの物流インテリジェンス・プラットフォーム「SONAR」のデータによると、トラックロードのスポットレート(燃料込み)は全米平均で1マイル2.80ドル。前年同期比23%の上昇だ。入札拒否率は全国平均11.5%に達し、地域によっては13%を超えた。22年のコロナ後の巻き戻し以来、見なかった水準だ。

ただし、この「回復」の中身はよく見る必要がある。トラック雇用は2月にわずかに減少し、全体の雇用統計も市場予想を下回った。容量が逼迫しているのに雇用が増えていないとすれば、それは実需の力強い拡大というより、供給側の脆弱化が引き起こした「見かけの好況」かもしれない。

実際、容量ひっ迫の原因をたどると、冬嵐「ファーン」による運行障害、過去2年間にわたる中小キャリアの退出、そして連邦自動車運送安全局(FMCSA)の規制強化が重なっている。新規のトラクター・トレーラー受注は前年比で2桁減が続いており、設備投資の抑制が続くなかで需要が戻れば、市場はあっという間にひっ迫する。フレイトウェーブズの3月版「ステート・オブ・ジ・インダストリー」レポートは、この構図を「バッファーのない市場」と表現している。

インターモーダル(鉄道コンテナ)のスポットレート(燃料除き)は1マイル1.39ドルで、前年の1.48ドルから5%下落した。トラックロードとの価格差は広がる一方だが、この乖離がいつまで続くかは別の話だ。トラックの運賃上昇が長引けば、荷主は鉄道に流れる。すると鉄道側も値上げの余地が出てくる。フレイトウェーブズのCEOは「インターモーダルの遅れは終わる。レートは新しい現実を反映する」と指摘する。

一方で最新の米国鉄道データでは、インターモーダル輸送量がカーロード(車扱い貨物)を下回る傾向が続いている。貨物の「モード選択」そのものが変わりつつあるサインだ。

テキサス州ラレドが5800万ドルの連邦鉄道助成金を獲得したニュースは、北米物流の地殻変動を映している。米墨間の25年の二国間貿易額は8728億ドルと過去最高を更新。メキシコからの対米輸出は15%増で、関税やサプライチェーン再編に伴うニアショアリングの流れが加速している。

海上ルートのリスクが高まるほど、荷主の目は陸上輸送に向かう。ラレドのインフラ強化は、メキシコ国境経由の陸上サプライチェーンを「代替案」から「主軸」へ格上げする動きと読める。ホルムズやスエズの混乱が長引けば、この流れは一段と強まるだろう。

スエズ運河は通航を続けている。運河庁のオサマ・ラビー長官は3日、56隻が双方向で通航し、総トン数260万トンに達したと発表した。直近3日間で100隻が通過しており「通常どおり」と強調している。

(出所:APモラー・マースク)

しかし実態は「開いているけれど、主役がいない」状態だ。APモラー・マースクは1日にバブ・エル・マンデブ海峡経由の航行を停止。CMA CGMも通航を一時中止した。25年の通航隻数は1万2758隻で前年の1万3213隻から3.4%減。コンテナ船だけを見ると、25年第4四半期の通航量は23年比で86%減という深刻な数字だ。

年初にはマースクやCMA CGMが試験的に大型船を通航させ、スエズ回帰への期待が高まった。しかし3月に入って中東情勢が悪化し、主要船社は再び運河から離れた。アナリストは26年中の本格回帰は難しいとの見方を示している。

コンテナ運賃の先行きは読みにくくなっている。中東危機前、市場のコンセンサスは「26年は供給過剰でレートが下がる」だった。海運分析のゼネタは26年のスポットレートが最大25%下落すると予測していた。しかしホルムズの緊張がこのシナリオを揺さぶっている。S&Pグローバルの年次海運会議「TPM26」は過剰容量の管理が主題になるはずだったが、開幕早々に中東情勢が議論の中心に変わった。

DHLエクスプレスの米国で、労働組合チームスターズが96%の賛成でスト権を確立した。16州26支部、数千人のドライバーと倉庫作業員が対象で、3月31日の労働協約期限までに合意に至らなければストに突入する構えだ。

組合側は賃金引き上げ、労働条件の改善、福利厚生の維持を求めており、協約の延長には応じないと明言している。DHL側は「建設的な対話の歴史がある」として期限前の合意に自信を見せるが、23年にシンシナティのハブ空港で1100人超がストを実施した前例がある。仮に実行されれば、国際エクスプレス貨物への影響は大きい。

軽油高騰やスト懸念といった「目の前のリスク」がある一方で、物流業界の足元では構造的な変化が静かに進んでいる。

世界最大の3PL事業者GXOロジスティクスは、全世界で2万台超のロボットを稼働させ、カリフォルニアでヒューマノイドロボットの実運用デモを準備中だ。同社のパトリック・ケレハーCEOは「ヒューマノイドはサプライチェーンのゲームチェンジャーだ」と話す。AIプラットフォーム「GXO IQ」を1200以上の拠点に展開し、在庫管理や労務計画に活用している。26年は北米を最重点成長市場と位置づけ、ニアショアリングの需要拡大を取り込む方針だ。

フォーカス・ソフトウエアの調査では、流通業者の54%が26年に需要予測の手法を刷新する計画だという。半分以上の企業が「いまの予測モデルでは対応できない」と認めていることになる。関税の変動、地政学リスク、消費行動の読めなさ──過去のデータの延長線では捉えきれない変化が、予測の前提そのものを壊している。

ウォルマートのEC(電子商取引)事業は25年第4四半期に27%成長し、黒字化を達成した。店舗を配送拠点として活用するモデルが奏功している。テクノロジーへの投資は、地政学リスクや燃料コストの急変に対するバッファーを生み出しつつある。

今回見てきた動きを俯瞰すると、3つの時間軸が交差している。

短期では、軽油価格の急騰と中東情勢が最大のリスクだ。米国の軽油は1ガロン5ドルに届く可能性があり、運送コストの上昇は食品を含む消費財の価格に波及する。DHLのスト権確立は3月末がヤマ場になる。

中期では、スエズ運河への主要船社の回帰が遠のき、喜望峰経由の長距離運航が常態化する可能性が高まっている。そのぶん船腹が拘束され、運航コストが上がり続ける。一方でコンテナの構造的な供給過剰は健在で、中東リスクが和らげば運賃は急落する──この「二重構造」の市場は、荷主にも船社にも読みにくい。

そして構造的には、AI(人工知能)・ロボティクス投資と需要予測の刷新が進んでいる。雇用が減りながらトラック市場がひっ迫し、半数以上の流通業者が予測モデルを入れ替え、倉庫にはヒューマノイドが入り始めた。燃料高騰と地政学リスクが短期の変動要因だとすれば、こちらは物流の供給構造そのものを書き換える動きだ。引き続き各モードの動向を追う。

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