
話題CLO制度の本格運用が始まり、各社の選任が進む。現場で改革を実装するのはCLO本人ではない場合が多く、直属の責任者が動かしている。本誌は今号からCLO本人シリーズと並行し、改革を現場で動かす実装側キーパーソンに迫る 「CLOチーム」シリーズを開始する。第1回は経済産業省「CLO取組事例集 物流改革の実践と成果」(2026年2月公表)でCASE01として巻頭を飾った梅の花グループ。同社の吉田訓CLO(取締役製造・物流・購買部門管掌兼製造部長)と師弟コンビを組み、改革を実装してきた三井田浩二・商品部副部長に話を聞いた。(編集長・赤澤裕介)
卑屈の発見、ねじれた部分最適
三井田氏は新潟県柏崎市出身。大学進学で上京し、複数の職を経て2011年に梅の花へ入社した。配属は百貨店デパ地下の物販店、いわゆる中食業態の管理者。当時の物販店トップが吉田氏で、三井田氏はその下で店長を務めた。これが後の師弟コンビの起点となる。
18年9月、購買部内に「物流プロジェクト」が発足。19年6月、三井田氏は購買部物流課に着任した。同年10月、プロジェクトは物流部として独立し、吉田氏が初代物流部門長に就いた。三井田氏が物流側で最初に抱いた感覚は、自身が「卑屈」と呼ぶものだった。
「なぜこんなに卑屈にならなければいけないのか、と思った。営業ファーストの考え方は理解できる。ただ、そこにコミュニケーションがなかった」
営業時代の三井田氏は、店舗業態のなかで優先順位を持っていた。この食材は絶対に必要、これは明日でも問題ない、という感覚だ。物流側に来ると、欠品はすべて一律に「マーク」として扱われ、強弱がつかなかった。聞けば済む話だが、営業を経験していない物流担当者には、その線引きが見えない。営業に気を使うこと自体は問題ない。必要以上に優先させる慣行ができあがり、ねじれが生じていた。
ねじれの象徴が「追加発注」だった。当時の梅の花は、ピッキング日の正午まで追加発注を受け付けていた。営業にとっては便利な仕組みだ。物流側に来てみると、午前中の業務は欠品処理と追加発注の処理に追われていた。
「12時までいつ追加が入るかわからない。一日に3回は午前中に見直して、お昼に出かけようとした瞬間に電話が入ったりする」
営業の立場で当たり前のように使っていた仕組みが、裏側で大きな負荷を生んでいた。部分最適のつながりが切れ、全体最適という発想が存在しない。営業にとって必要と思われるものの裏側にあるコストが考慮されず、結果としてグループ全体の収益では大きな無理無駄が発生していた。

当時の三井田氏には物流の専門知識がなかった。悔しさからビジネスキャリア検定のロジスティクス1級を初年度に受験し、合格する。これが転機となった。
「物流は専門の方々が日々やっているものではなく、理屈で考えれば改善できるかもしれない、と自信になった」
現場の知識や経験を積み上げてきた立場ではない。資格から入り、必要な知識がお手本としてインプットされたことで、自社の現場とのギャップを感じやすくなった。
「店舗にいる時は一日10万から15万円の売上だから、発注金額には部下にもシビアに指導していた。なぜ3万5000円も発注したのか、今日は3万でいいじゃないか、とか。一方、物流に来てみたら、在庫品の発注はクリック一発で何百万円が動く。このギャップは普通じゃないと思った」

シャリのリードタイム、二年分の発注履歴から
三井田氏が物流部で取り組んだ象徴的な改革が、デパ地下の寿司業態で扱う「シャリ」の発注見直しだ。
当時、シャリの発注は前日12時までシステムで受け付けていた。リードタイム1日、つまり翌日納品の運用である。この仕組みは製造部に大きな負担を強いていた。三井田氏は2年分の発注履歴をひっくり返し、店舗別・曜日別に並べて係数を確認した。
「ほぼ変わっていなかった。4本が5本になる、5本が4本になる。これは誤差と捉えられるだろう、と」
さらに分析を進めると、別の問題が浮かび上がった。中1日のリードタイム2で発注する在庫品と、リードタイム1のシャリが混在することで、店舗側の発注漏れが多発していたのだ。
「店舗の午前中は製造で手一杯だから、ついシャリの発注を忘れてしまう。それを工場側がお店に電話して『発注ないけれどいいか』と毎日確認していた」
リードタイムを最短にするメリットは「ギリギリまで発注できる」ことだ。デメリットは語られていなかった。三井田氏はこの事象を件数として並べ、可視化したうえで営業側と議論した。リードタイムを2に統一すれば、店舗はほかの食材と一緒にシャリを発注できる。一本のシャリを無駄にしない管理も大事だが、全体最適の視点では発注漏れがなくなることのほうが大きい。
一方的な要求では合意は得られない。三井田氏は同時に、それまでリードタイム3だった商品をリードタイム2に短縮した。製造部も努力する。在庫品もシャリも総菜も、すべてリードタイム2に揃った。
「店舗にとって一番わかりやすい運用になった。一勝一敗、ギブアンドテイクだ。これが結構重要で、可視化したうえでそれぞれのレイヤーでメリットを見出し、同意を得てから切り替えないと、後が続かない」
反発は抑えられた。三井田氏は「噂はもう聞かないようにしている」と笑う。正式なクレーム以外は気にしない。具体的に店舗運営に支障が出たケース以外は、合意を得たものとして処理する割り切りだ。
シャリの改革が進んだ背景には、もう一つの要因があった。コロナ禍である。
「全体的に物流量が減っていた時期だ。今ある物流体制は高コストで、収益を改善したいという思いは、営業も物流も一致していた」
会社は物流改革に力を入れて取り組む方針を打ち出し、現状の体制では立ち行かないと後押しした。九州から関東への航空便輸送をトラックに切り替える改革も、このコロナ期の決断だった。
「コロナ以前なら、こうした切り替えに対する容認は得られなかったと思う」
百貨店デパ地下の物流は、業態固有の制約を抱える。10時開店に向けた棚揃えが重視されるため、開門時間が6時、納品から開店まで4時間という条件下で、物流を組み込み商品を展開しなければならない。タイトなスケジュールが当たり前の世界で、改革に容認が得られたのはコロナという外部要因が大きかった。
現場での気づきを起点に動いた三井田氏と、全社を俯瞰して経営判断を引き出した吉田CLO。営業出身の二人が異なる角度で物流を見ていたことが、結果として全体最適の出発点になった。このコンビが次に踏み込んだのが、組織そのものの再編だった。
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