
話題前編では、営業出身の三井田浩二・商品部副部長が物流部で見つけた「卑屈」と、シャリのリードタイム統一に代表される合意形成の手法を追った。後編は、2026年4月に物流部と購買部門を統合して発足した商品部のもとで、製販一体の改革がどこまで進むのか、そして吉田訓CLOと実装責任者の役割分担を見る。(編集長・赤澤裕介)
商品部発足、製販一体への再編
物流部と購買部門を一つにした商品部の発足は、製造計画への物流関与を制度として組み込む再編だった。工場からセンターへの出荷量はあくまで在庫であり、実需ではない。この切り分けを明示したことが、製造計画に物流の視点を持ち込む足がかりになった。
経済産業省CLO取組事例集でCASE05として収録されたダイキン工業の製造・物流一体改革とも、論点は重なる。製造ラインの見直しで在庫の滞留を6割減らし、倉庫の仕分けスタッフを4分の1にしたケースだ。出荷時の滞留解消を発想の出発点に置き、生産ラインを設計し直した同社の事例は、製造と物流で最適化の基準が異なることを示す代表例として知られる。梅の花の取り組みも、規模は異なるが図式は同じだ。
物流部門が製造計画に関与するとき、どこからが越権なのか。梅の花は線引きを明示している。
「お客様にご迷惑をかけるシチュエーションになると、それは全体最適のやりすぎだ」
美味しいものが届かない、賞味期限が切れたものが届く、といった状況に至れば、その時点で改革は止める。九州から関東への航空便をトラックに切り替えた際、対象商品の賞味期限を延長したが、流通過程で店舗着時の品質が変わらないことを検証してから進めた。
検証の手法は徹底している。輸送資材を切り替える際には温度計を食材に取り付け、35度の環境下で9時間放置する実測を繰り返した。
「マイナス18度をマイナス18度のまま届ける物流を作るのではなく、マイナス18度が店に着いた時点でどの状態まで許容できるかをギリギリまで見ることが正しい物流だと思っている」
許容範囲を営業とすり合わせ、実験を繰り返し、現場の声を聞いて切り替える。寿司業態のシャリのように毎日のデリバリーが必須な商品は、いきなり週5回や週4回に納品頻度を落とすことはできない。コストは下がっても全体最適にならないからだ。商品ごとにエビデンスで判断する原則が貫かれている。
業界連携への姿勢も積極的だ。三井田氏は24年から、物流事業者に荷主を紹介してもらう取り組みを始めた。
「物流事業者のネットワークの中に、同じ荷物を共有できる相手があるのではないか、という仮定だ。いろいろな外食チェーンを紹介してもらい、1件は成約している」
荷主同士では政治的な障害が立つが、物流事業者を経由すれば同じ仲間というレイヤーで議論できる 。三井田氏が倉庫を見て感じるのは、A社のNB品が置かれた棚とB社のNB品の棚が並んでいる様子だ 。商品は同じなのに、棚割りは別になっている。
「BランクCランクで定番品となり得る商品は、同じ管理を相互で借りられるとすれば、倉庫側はもっと多くの荷物を入れられる。物流事業者にも、荷主にも悪い話ではないはずだ」
経産省CLO取組事例集に記載された梅の花の取り組みでも、米輸送のチャーター便を混載便の共同配送へ切り替え、年間で数千万円規模のコスト改善効果を見込んでいることが明示されている。米価高騰によるレシピ見直しで使用量が減少し、チャーター便の積載効率が落ちたことを契機に、コストの見直しを進めた。共同配送は効率化施策であると同時に、収益体質の改革手段でもある。
すべての領域で進むわけではない。百貨店が絡む案件は難易度が大きく上がる。低温物流業者でも、2トン・4トン車でカゴ車積みする会社と、軽車両でバラ積みする機動力重視の会社では運用が異なる。輸送スキームの違いが共同配送の障害になる。三井田氏は障害を認識しつつ、チャレンジしないと進まないとも強調する。

北極星と実装責任者、CLOチームの形
CLOと部門責任者の違いを、三井田氏はどう捉えているのか。問いに対する答えは迷いがなかった。
「視座の違いだ。私が持ち合わせているのは、会社の数字を正しく把握しようという正確さ。CLOに必要なのは、もっと俯瞰して会社全体を見渡し、これが全体最適だ、こうあるべきだという視点。いわゆる北極星のような存在だ」
CLOが目指すべき方向性を提示し、実装責任者がエビデンスと試算とオペレーションを準備して決定に持ち込む。役割が分かれている。
「北極星が北極星と呼ばれるのは、動かないからだ」と本誌が水を向けると、三井田氏は頷いた。
吉田CLOは推進力で大きな流れを作ってきた。三井田氏は、CLOを支える周囲も同じ視座でサプライチェーンを俯瞰しなければならないと考えている。
「最初は吉田が全てを抱えて、私はそれをまとめて上申する形だった。ここ数年はむしろ私の方で最後のシュートチャンスまで作り、パスを出してゴールを決めてもらう、という形になっている」
CLOが決定権を持つ存在として強いことは変わらない。その下に、サプライチェーン全体を見渡せる視座を持った人間が増えていくこと自体が、会社全体を全体最適に導く近道になる。三井田氏のレベルアップが、商品部発足という組織再編の意味そのものだ。加えて三井田氏は、こうした改革が吉田CLOと自身だけで実現したものではなく、物流事業者、コンサルタント、社内メンバーの知見と協力に支えられてきたことも強調する。
物流部に異動してから、三井田氏は二つの大きな失敗を経験している。
一つは関西の倉庫移転だ。現地に立ち会わず「大丈夫だろう」と高を括った結果、荷物が届かない事態を招いた。吉田氏からは何もなくてもそういうシチュエーションの際には、現場に行きなさいと指示されていたが、それを甘く見た。
もう一つは21年12月24日のクリスマスイブ、朝4時の電話だ。荷物が残荷しているという報せが入った。三井田氏はセンターに向かい、当時の発送業者と一緒に荷物を届けた。
「絶望的な電話だった。物流がつながらないということは、リカバリーに膨大な労力と調整が必要になる。365日ではないにしろ、今のこの物流を止めてはいけない。今当たり前のようにつながっていることは、当たり前ではないんだ、という戒めだった」
両方とも準備不足が原因だった。経産省CLO取組事例集が記載する月次改善活動報告会、毎週30分の3PL定例会、KPI設定(イレギュラー配送発生件数、出荷期限切れ、破損品発生件数・金額)といった仕組み化は、こうした経験の延長線上にある。
百貨店指定納品の制約は重い。百貨店側で物流部は経理部の管轄下にあり、納品改革は所管外として動きにくい。指定納品業者の議論が一度盛り上がっても、その後何も変わらない。
「荷物を集めてくれたら指定納品業者に指定するという話になっても、単体で荷物が集まるわけがない。すでに5社ぐらいが指定されている状況で、個別の課題感を抱えながら、みんな同じように横並びでやっている」
百貨店業界の慣行そのものが、自らの苦境を招いている側面がある。納品条件は厳しく、荷物が届かなくなることへの危機感は希薄だ。間口が緩んでいけば、共同配送はもっと進む。三井田氏の呼びかけは、外食・中食領域に限定されない。
「ぜひ一緒にやっていきたいと思っている」
経産省CLO取組事例集に外食・中食領域から選定された企業は梅の花グループ1社のみ。CASE01巻頭収録は、行政公認の先進事例の筆頭という位置づけになる。中堅食品事業者が、4兆円規模のSUBARUやダイキン工業、2兆円規模のJ-オイルミルズや三菱食品と並んで巻頭に置かれた事実そのものが、企業規模と改革の進度が直結しないことを示している。
吉田CLOと三井田部長。営業出身の師弟コンビが拓いた製販一体の物流改革は、外食・中食領域の標準モデルになり得るのか。共同配送の輪に他社が加わるかどうかが、次の検証局面となる。
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