ロジスティクスEC(電子商取引)市場の拡大を追い風に、全国の事業用軽貨物車(黒ナンバー)は2022年3月末時点で33万台に達し、16年末から10万台増えた。その後も増加が続いているとみられる。ラストワンマイルの主力として社会を支える一方、死亡・重傷事故は増加の一途をたどり、25年4月には安全対策の大幅な規制強化が施行された。「業界に秩序がない」「ルールがない」——そう語られがちな軽貨物だが、全国軽貨物協会(全軽協)代表理事の西田健太氏は「問題の本質はそこではない」と言い切る。(編集長・赤澤裕介)
黒ナンバーの軽自動車による貨物運送事業は、届出制で車両1台・運転免許1枚から始められる。参入障壁の低さゆえに個人事業主の比率が高く、宅配、企業配送、スポット便、チャーターと業務も多様だ。大手宅配のラストワンマイルを支える存在でもある。だが、事業構造は脆弱だ。一般貨物自動車運送事業(緑ナンバー)には運行管理者資格の取得や5台以上の車両保有といった厳格な参入要件があるのに対し、軽貨物にはそれがない。事業者ごとの安全管理水準にばらつきが大きく、国土交通省の調査では各種安全対策の遵守率は3-7割にとどまる。

▲全国軽貨物協会代表理事の西田健太氏
西田氏は、この業界の現状を率直に「ぐちゃぐちゃ」と表現する。
「競争が激しいというだけではない。戦国時代どころか石器時代に近い。ルールが共有されず、秩序もなく、ただ目の前の仕事を奪い合っている。取り締まる主体も、全体を引っ張る存在もいない状態」
ただし、西田氏が問題視しているのは「ルールがないこと」ではない。
「新しいルールを作らなければならないわけではない。現行制度の大枠はすでにある。問題は、それが現場に共有されていないことにある」
2024年問題も点呼も「知らなかった」が15%
象徴的なのが、2024年問題への受け止め方だ。24年3月の時点でも、西田氏が参加した他団体の会合では「個人事業主である自分たちは無限に働ける。24年問題はむしろチャンスだ」と受け止めている人が少なくなかったという。
実際には、軽貨物の個人事業主にも国交省告示による勤務時間の上限(年間3300時間)が示されている。雇用関係ではなくとも、安全確保の観点から一定の基準の下で働くべきであり、「いくらでも働ける」という理解は誤りだ。しかし、その誤認が業界内で広く共有されてしまっている。
点呼に対する認識も同様だ。25年4月の安全対策強化で点呼記録や業務記録、事故報告の記録義務が明確化されたことで、「今回初めて点呼が義務化された」と受け止めている事業者もいるという。だが点呼そのものは以前から必要とされており、今回の改正は記録の作成・保存義務を明文化したものだ。ここでも現場の理解と制度の実態に大きなずれがある。
国交省の調査では、軽貨物における点呼実施率はおおむね6割とされている。だが西田氏は、この数字にも違和感を示す。
「6割もできているとは思えない。たとえば大手宅配会社の業務委託ドライバーは、現場でアルコールチェックなどを受けることがある。ただ、それは委託元企業が自社の荷物を預ける上で行うコンプライアンス確認であって、本来の意味での営業所点呼とは別物だ。軽貨物の個人事業主にとって営業所は原則として自宅であり、自宅を起点に出庫前の確認を行う必要がある。でも、そうした違いが理解されていない」
西田氏はこの状況を「共通言語の欠如」と呼ぶ。制度の中身以前に、何が義務で何が任意なのかという基本的な前提が業界内で共有されていない。ここに軽貨物の構造的な問題がある。
軽貨物の安全規制と一般貨物の主な違いを整理すると、以下のようになる。
この表が示す通り、25年4月の法改正で軽貨物にも一般貨物に近い安全管理の枠組みが整備されつつある。しかし、安全管理者の選任には27年3月まで、初任運転者への特別指導には28年3月までの経過措置がある。制度の整備と現場への浸透には、まだ時間がかかる。
軽貨物の安全課題を示す主要データを見ても、事態の深刻さは明らかだ。
これらの数字は、軽貨物の問題が「一部の不良事業者」の話ではなく、業界全体の構造的課題であることを示している。
こうした現状認識の上で、全軽協が取り組むべき課題として西田氏が挙げるのは3つだ。
第1は安全対策。安全管理の意識と管理体制の両面を整備しなければならない。
第2は取引の適正化。軽貨物も一般貨物と同様に多重構造や価格の歪みを抱えているが、個人事業主が多い分だけ管理がさらに難しい。誰がどこまで責任を持つのかが曖昧なまま、運行管理や安全管理が置き去りになりやすい。
第3は社会課題への対応。カーボンニュートラルなど、物流全体に求められている社会的要請に軽貨物業界も応えていかなければならない。
これら3つを柱として、全軽協では国交省や元請け・大手物流企業、地方代表、プラットフォーマーなども交えた「適正化推進会議」を設置している。25年3月には「適正化推進ロードマップ1.0」を公開し、業界として何を適正化と呼ぶのか、その合意形成を進めている。
ロードマップは3段階で構成される。
第1段階は「法令遵守」。最低限、法で求められる事項を守ること。
第2段階は「法令等遵守」。法律に書かれた義務だけでなく、業界として必要なガイドラインや運用基準まで含めて守ることを求める。軽貨物では、個人事業主の扱い、フリーランスとの契約、実質的な指揮命令の問題など、法の条文だけでは判断しにくい領域が多い。国交省も厚労省も、一般論や判例、チェックリストは示せても、「この運用なら問題ない」とまでは言い切れない。だからこそ、軽貨物の実態に即したガイドライン整備が必要になる。
第3段階は「優良事業者認定」。継続的に適正運営ができている事業者を認定し、評価される仕組みにしていく。西田氏は、これが軽貨物版のGマークのような役割を果たし、事業者の計画的なステップアップを促すと考えている。
ロードマップの全体像は以下の通りだ。
このロードマップの実装手段として、全軽協は「K-Link」というアプリを開発した。25年4月の安全対策強化に先立ち、24年にリリースしたものだ。国交省が指定する点検・点呼・日報作成に対応し、運行管理に必要な記録業務を一元化する。
K-Linkの特徴は、元請けや委託会社がドライバーを直接管理するのではなく、個人事業主が自らの独立性を保ったまま、自主的に運行管理・法令遵守管理を行う点にある。その結果のうち「法令を守れているかどうか」という必要な部分だけを、元請け・委託会社・荷主が閲覧できるようにする。全部を監視するのではなく、遵守状況の確認に限定する設計だ。
「ドライバーを支配するのではなく、ドライバーが自分を管理し、その結果を取引先が確認する。そういう形にしたかった」と西田氏は語る。
25年4月からはCLO(物流統括管理者)や委託会社向けの閲覧機能も追加し、サプライチェーン全体のコンプライアンスチェックにも対応する方針だ。将来的には、軽貨物で始まったこの仕組みが一般貨物とも連動し、ドライバーのキャリアや安全運転実績が業態横断で可視化されるようになれば、業界全体の底上げにつながると西田氏は見ている。
ただし、普及は道半ばだ。全軽協は初年度の目標として、全国の黒ナンバー車両の1割にあたる3万人の利用を掲げたが、現状の有償継続利用者は1000超にとどまる。西田氏自身もPR不足を認めつつ、「法令遵守を可視化しているドライバーや事業者が荷主や元請けから選ばれる時代が来る。その前提を今作っている」と語る。
西田氏は業界の運賃構造にも踏み込む。現在の軽貨物の実勢運賃について「稼働時間で割ると売上ベースで時給1500円程度」と語る。しかもそこには車両費、燃料費、保険料、通信費などの各種経費がすべて含まれている。手取りではなく、売上がこの水準だ。
法人がこの水準で仕事を受け、さらに10-15%のロイヤリティや手数料を差し引き、ドライバーに再委託する構造もある。12時間拘束の企業配送で日当1万8000円といった案件も珍しくないという。
「企業側が社会保険料を負担する雇用労働として考えれば、時給1500円で成り立つはずがない。にもかかわらず、その価格で回ってしまっているのが現実です」
時間単価1500円と3000円で、ドライバーの手取りがどう変わるかを試算すると次のようになる。
西田氏はかつて、軽貨物のガイドラインとして「時間単価3000円」を一つの基準にすべきだと発信したことがある。根拠は、トラック業界で一般的な人件費率から逆算したものだ。時給1500円が労働者の最低賃金水準だとすれば、売上に対する人件費率が3-5割程度である以上、売上ベースでは最低3000円程度は必要になるという考え方だ。
西田氏が指摘するのは、この運賃構造の背景にある「産業設計の不在」だ。
「軽貨物業界がうまくいかない最大の理由は、物流・実運送そのもので利益を出そうとしていないことです。車両リース、保険、広告など、運送以外の周辺収益で事業を成立させようとするプレーヤーがいる。工夫といえば聞こえはいいが、それを先にやってしまうと、実運送だけで持続可能な価格形成がなされなくなる。相場全体が歪み、周囲の事業者も成長できず、業界全体がさらに悪化していく。そして最後は持続できず撤退する」
過去に外資系事業者から全国提携の相談を受けた際も、西田氏はそのモデルでは地方で成立しないと伝えたという。運賃を上げられないなら1-2年で行き詰まるとの見通しを示し、結果的にその懸念通りになったと振り返る。
全軽協の設立は22年7月。西田氏はそれ以来、全国を回り、行政資料を使って24年問題や労働時間、安全管理の説明を続けてきた。しかし、その過程で「行政の犬だ」と面と向かって言われたこともあるという。
「その反発は理解できる。軽貨物はもともと秩序が弱い業界で、そこへ急に社会的責任や企業倫理、安全、コンプライアンスを持ち込めば、反発が起きるのは当然だ。でも、国にはできず、個人の自助努力にも任せ切れなかったこのギャップを、誰かが埋めなければならない。協会が引き受ける覚悟でやっている」
全軽協には現在、理事とは別に地域の世話役を担う「幹事」が30人いる。西田氏はこれを100人、200人へと増やしたい考えだ。地域の実情を知る事業者が、行政要望や法令勉強会、地域活動の核になっていく。
「協会の方向性を私個人の思想で決めるのではなく、業界の人たち自身が議論しながら決めていく。そのための基盤を作っている段階だ。軽貨物の組織づくりで重要なのは制度設計以上に仲間づくり。トラック協会と違って個人事業主が中心なので、そもそも“組織に属する”感覚が弱い。まず自分たちの業界を自分たちで支える共同体意識を作る必要がある」

西田氏の認識は厳しい。個人事業主をそのまま放置すれば、人はどうしても自己中心的な意思決定に傾きやすい。自分と家族を守ることが優先され、産業全体を良くする行動にはつながりにくい。だからこそ、業界として望ましい方向へ導くモデルケースが必要になるという。
「どこにコストがかかり、どんなリスクを負い、どういう収支構造で成り立つのか。軽貨物を一つの産業として可視化し、整理しなければならない。新規参入時の収支モデルや利益水準、雇用創出効果まで含めて発信できれば、新たな資本の参入や一般貨物事業者の参入も促せるはず」
協会設立から3年半。設立当初は「なぜあなたがそれをやるのか」と問われることが多かったが、今はその問いは減った。それでも西田氏は「自分でなくてもいい」が大前提だと語る。
「もっと優秀な人がやれるなら、その人がやる方がいい。ただ現実には、誰もやらなかった。だから自分が引き受けた。一方で、いつまでも無報酬・献身だけで続けられるものでもない。ことし7月から始まる次期以降は自身も役員報酬を受ける方針を会員に伝えた。専門家や外部人材を登用し、発信や制度設計を強化するには、報酬規程と予算管理が不可欠だからだ」
軽貨物は一般貨物ともつながるべきだ——西田氏はそう繰り返す。ラストワンマイルで軽貨物と一般貨物が異なるルールの下で共存している現状は健全ではない。K-Linkのような仕組みが業態横断でドライバーの実績を可視化し、軽貨物から一般貨物へのキャリアパスが見えるようになれば、業界全体が変わる。
協会単独では限界もある。行政、メディア、他団体との連携が必要だ。まずは自分たちでやれるところを進め、タイミングが合うところから一緒にやる。西田氏の基本姿勢はそこにある。
軽貨物の問題は、33万台を超える黒ナンバーだけの話ではない。宅配便の年間取扱個数が50億個を超え、ラストワンマイルの負荷が増し続けるなかで、その末端を支える仕組みが壊れかけている。
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