ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

航路復旧の足並みそろわず、混雑解消の兆しなし

2026年3月24日 (火)
>> [pdf]この記事を印刷する(PDF)[/pdf]

国際世界のサプライチェーンは今、「復旧」ではなく「再編」の段階にある。春節後に海上輸送のサービスは戻り始めたが、戻り方が航路・港湾ごとに異なる。このズレが港湾混雑を生み、エネルギー物流や通商政策にも「ズレ」が波及している。24日時点で起きていることは、貨物量の急増ではない。供給側の再構築そのものが、新たなボトルネックになっている。(編集長・赤澤裕介)

▲今日のポイント(クリックで拡大)

▲今日の主な動き(3月23-24日、クリックで拡大)

まず海の上で何が起きているか。CHロビンソンが24日公開した3月の海上貨物市場レポートは、現在の市場を端的にとらえている。同社の分析によれば、問題はスペース不足でも需要急増でもない。サービスの復旧が同時に進まず、ネットワーク全体の同期が崩れていることだ。春節に伴うブランクセーリング(減便)でピーク時に30%超のスペースが削減された太平洋航路は、米国東海岸向けから徐々にサービスが戻り始めた。だが西海岸向けのループは3月半ばまで復旧が遅れ、同じ航路でも港湾ペアや週によってスペースの空き具合が大きく異なる。スペースは存在する。だが戻るタイミングがそろっていない。

なぜそろわないのか。各船社が自社の判断でサービスを再開するからだ。海上輸送ネットワークは相互に依存して動いているが、意思決定は分散しており、復旧は個別に進む。全体が同時に整う仕組みがない以上、この非同期は短期的に解消しない。復旧のプロセスそのものがボトルネックになっている。

このズレが港湾で増幅されている。複数の船舶が同時期に到着する「バンチング」により、バース容量とクレーン能力を一時的に超える荷役需要が集中する。2月下旬の港湾運用レポートをもとに主要港の状況を整理した。

▲主要港湾の混雑状況(クリックで拡大)

欧州北部では混雑が顕著で、この傾向は3月に入っても続いている。到着のタイミングが偏ることで、港湾の処理能力自体は足りているのに混雑が起きる。能力不足ではなく同期の崩れだ。混雑が容易に解消しない理由もここにある。

一方、アジアでは上海・釜山が春節後に速やかに正常化した。ただしシンガポールは例外で、ホルムズ迂回によるペルシャ湾向け貨物の流入がヤード密度を押し上げている。パナマ運河はガトゥン湖の水位回復で最大容量に達し、中東情勢でLNG(液化天然ガス)タンカーの需要が高まったことで年間予測の34隻を上回る水準が続く。世界の港湾は「詰まる場所」と「流れる場所」がはっきり分かれる状態に入っている。

エネルギー物流でも同じことが起きている。バルト海では23日、ウクライナのドローン攻撃によりロシア最大のバルト海原油輸出港プリモルスクで少なくとも4基のタンクが炎上した。衛星画像でタンクファーム全域に火災が確認されており、原油の荷積みは22日夜から停止し、23日昼の時点でも再開していない。80キロ南のウスチ・ルガ港も操業を停止し、バルト海からの原油輸出が二重に寸断された。海外通信社の試算によると、直近のインフラ攻撃でロシアの製油能力は全体の17%にあたる日量110万バレル分が低下している。ホルムズ海峡が封鎖され、原油市場の関心がペルシャ湾に集中するなか、バルト海でも供給ルートが断たれた。エネルギーもまた、供給は存在するが届く経路が寸断されている。欧州向けのエネルギーコストやバルト海経由のドライバルク輸送のルート選択に影響が及ぶ可能性がある。

政策面でも各国は供給のズレに対応しようとしている。米国では18日にジョーンズ法(Jones Act)の60日間停止が発効し、外国船籍の船舶が米国内の港湾間でエネルギー関連貨物を輸送できるようになった。ガソリン価格の抑制が狙いだが、全国平均は24日時点で3.94ドルと上昇が続いている。業界団体は国内輸送コストのガソリン価格への寄与を1ガロンあたり1セント未満と見積もっており、政策の効果と供給実態との間にもズレがある。通商面では米通商代表部(USTR)が11日に16か国の製造業過剰生産能力に関する通商法301条調査を開始し、翌12日には60か国を対象とした強制労働に関する調査も立ち上げた。日本も16か国調査の対象に含まれている。パブリックコメントの締め切りは4月15日で、5月5日から公聴会が始まる。供給網は需給だけでなく、政策によっても再配分される局面に入った。

テクノロジーの側では、この「ズレ」の可視化に対応する動きが出ている。デカルト・システムズは3月、AIエージェント群「マクロポイント・オプスフォース」(MacroPoint OpsForce)を発表した。貨物の追跡継続やステータス変更の検知を自動化し、複数企業間にまたがる輸送の可視性ワークフローを人手なしで維持する仕組みだ。スケジュールが不安定な局面では、ズレの発生を早期に検知できるかどうかが対応の速度を分ける。

国内では、4月1日に施行される物流統括管理者(CLO)の選任義務化を控え、荷主企業の準備が最終段階にある。本誌が23日に報じた国交省による白トラ規制前の廃棄物運搬の線引き明確化も、国内の制度環境が動いていることを示している。海外では供給ルートのズレ、国内では制度と現場のズレ。物流の担当者は両方への対応を同時に求められている。

前回のブリーフィングではホルムズ危機の多層的な波及を追った。今回の24時間で見えてきたのは、「再編のズレ」が供給網のあらゆる層で同時に起きているという現実だ。船は戻り始めているが戻る順番がそろっていない。港は処理能力を持つが到着タイミングが偏る。エネルギーは存在するが届く経路が分断される。政策は動くが効果は局所的にとどまる。

今の混雑が需要増から来ていないことは押さえておく必要がある。各船社が独立に復旧し、港湾の到着タイミングがそろわず、エネルギーの供給ルートが個別に断たれるという、再編の副作用そのものだ。全体が同時に整う仕組みがない以上、需要が落ち着いても混雑は解消しない。今回の混雑は一時的な異常ではなく、再編過程で繰り返し発生する通常状態に近い。「いずれ元に戻る」という想定でオペレーションを組むと、判断が遅れる。

今週の判断軸は3つに絞られる。自社の主要航路でサービス復旧がどの段階にあるか▽港湾ごとの遅延の発生パターンを把握できているか▽ズレを前提にした代替ルーティングと契約条件を確保しているか。正常化の時期は見通せない。この再編のなかで最適化を進める必要がある。

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。