行政・団体政府は26日、国家石油備蓄の放出を開始した。民間、産油国共同と合わせ計45日分で、日本の備蓄史上最大の規模となる。ただし放出された原油がガソリンや軽油として末端に届くのは4月中旬以降になる。本誌の取材では、中国地方を中心に複数の運送会社で軽油の納入遅れや数量制限が出始めている。問題は量ではなく、届くまでの時間と場所だ。(編集長・赤澤裕介)
26日午前、愛媛県今治市の菊間国家石油備蓄基地から地下タンクのパイプラインを通じて隣接する太陽石油の製油所に原油を送り出す作業が始まった。27日には北九州市沖の白島基地から大型船への積み込みが控えており、北海道から沖縄まで全国11か所の基地から4月末にかけて順次放出する。放出量は国内消費の30日分に相当する850万キロリットルで、売却総額は5400億円。引き渡し先はENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油の元売り4社だ。
16日に始まった民間備蓄15日分に続く措置で、産油国共同備蓄(UAE、サウジアラビア、クウェートが日本国内のタンクに保管する原油)からも5日分を3月中に放出する。赤澤亮正経済産業大臣は24日の会見で、週内に元売りと産油国企業が売買契約を結ぶと説明した。民間、国家、産油国共同を合わせた放出量は計45日分で、日本の石油備蓄史上最大の規模となる。
代替調達ルートの確保も動いている。赤澤経産大臣は、ホルムズ海峡を経由しない原油タンカーが28日に日本へ初めて到着する見通しを明らかにした。サウジアラビア紅海側のヤンブー港からの積み出しとみられる。4月5日にはUAEのフジャイラ港(オマーン湾側、ハブシャン-フジャイラ原油パイプライン経由)からのタンカーも到着し、4月25日には中東以外からの原油も届く。
末端に届くのは4月中旬以降
45日分という数字だけを見ると余裕があるように映る。3月21日時点の備蓄残量も国家146日分、民間88日分、産油国共同6日分の計240日分だ。だがこの数字は「在庫の総量」であって「すぐに使える量」ではない。本誌が既報で繰り返し伝えてきた通り、備蓄日数と供給能力は別の問題だ。
国家備蓄は原油の状態で保管されている。ここから元売りへの引き渡し、製油所への輸送、精製、油槽所への配送、さらにタンクローリーでの末端配送と工程を経て、初めてガソリンや軽油として供給される。2022年のロシア・ウクライナ侵攻時の放出実績(入札方式)では、全量引き渡しに6か月を要した。今回は随意契約で短縮が見込まれるが、本誌の取材では末端到達の目安は4月中旬以降とみられる。
しかも供給の詰まりは全国一律には起きない。西日本(特に瀬戸内沿岸)は中東原油への依存度が高く、備蓄基地から製油所までの輸送距離が長い拠点も多い。実際に中国地方では、元売り系列の販社からインタンク(自家給油タンク)向けの供給を半減された運送会社が出ている。国土交通省も3月中旬に大口向け軽油販売の停止や数量制限の発生を把握しており、業界団体に実態報告を求めた。全国の軽油が不足しているわけではない。その会社の調達圏内で流通量が細っているのだ。品薄は全国平均ではなく、地域と拠点で起きる。
民間備蓄の内訳も確認が必要だ。民間備蓄の大部分は製油所や油槽所に分散した運転在庫であり、日常の精製と流通を回すために常時消費されている。東日本大震災(2011年)でも引き下げは3日分にとどまった。備蓄日数から義務日数を引いた差が丸ごと使えるわけではない。
つまり問題は「量」ではなく「届くまでの時間と場所」だ。放出は始まったが、物流の現場でガソリンや軽油が増え始めるのはまだ先になる。
原油市場も楽観できる状況にはない。日本の輸入指標であるドバイ原油のスポット価格は25日午前に1バレル150ドル前後で推移した。直近のピーク(19日の166ドル超)からは下落したものの、国際指標のブレント原油(100ドル前後)との価格差は50ドル超に広がったままだ。ホルムズ経由の中東産原油が動かないまま、アジアの買い手が限られた現物を奪い合う構図が続いている。通航の可否は市場ではなく外交で決まり、供給は「選別」される。価格は需給ではなく「入手可能性」で決まる局面に入っている。
加えて、非中東の供給にも揺らぎが出ている。海外報道によると、ウクライナ軍の攻撃でロシアのバルト海主要港(プリモルスク、ウスチルガ)で積み出しが断続的に止まり、黒海のノヴォロシースク港でも遅れが出ている。影響の全容は精査が必要だが、日本やアジアが中東以外に調達を振り向けようとした際の受け皿が同時に細っている点は無視できない。
軽油の全国平均店頭小売価格は23日時点で1リットル166円と、前週の178円から12円下がった。19日に始まった激変緩和措置(既存の定額補助17.1円に加え、170円超の部分を全額補助)が効き始めた形だ。ただし地域差は大きい。沖縄は210円で全国平均との乖離が44円に達し、九州は173円、中国地方は166円。補助金は価格を抑えるが、供給を増やすわけではない。供給が制約される中で価格だけが下がれば、需要は維持される。現場では価格ではなく数量で調整が始まり、納入遅れや割当制限といった形で供給制約が表面化する。高市早苗首相はナフサなど補助金対象外の石油関連製品についても供給確保策を取りまとめるよう経産大臣に指示した。財源は基金2800億円に加え24日閣議決定の予備費7948億円だ。
停戦交渉は膠着している。米国はパキスタン経由でイランに15項目の和平計画を送ったが、イラン国営メディアは25日、ホルムズ海峡の主権承認、戦争損害賠償、攻撃再発防止の保証など5項目の対案を提示し、事実上拒否した。ドナルド・トランプ大統領が設定した「5日間の猶予」は週末に期限を迎える。イラン軍報道官は米国の交渉姿勢を嘲笑し、軍事的な妥協の兆しはない。
日本船主協会の長澤仁志会長(日本郵船会長)は25日の会見で「何とか通航できる糸口を見つけてほしい」と政府に強く求めた。ペルシャ湾内には日本関係船45隻がとどまり、日本人船員24人が乗船している。食料、水、燃料の補給と衛星通信は確保されているが、長澤会長は「先の見通せないまま頑張り続けるのは極めて厳しい」「一日一日、状況がよくなることはありえない」と述べた。インドやトルコ、中国の船が個別にイランの承認を得て海峡を通過しており、長澤会長は日本関係船の脱出に向けた外交交渉の加速を訴えた。
物流事業者が今見るべきは3つだ。
(1)28日の代替ルート初弾は「到着」ではなく「継続性と量」で評価する。単発では供給は戻らない。
(2)週末の米イラン交渉期限。決裂すれば選別通航が固定化し、日本関係船の脱出はさらに遠のく。
(3)自社の燃料調達がどの製油所、どの油槽所に依存しているか。備蓄240日分という国全体の数字ではなく、自社のサプライチェーン上の供給の太さを確認する。
問題はすでに価格ではない。軽油は「いくらで買えるか」から「買えるかどうか」に移り始めている。
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