調査・データアジア向け中東原油の基準価格であるプラッツ・ドバイ指標が機能不全に陥っている。S&Pグローバル・プラッツがホルムズ海峡の通過を要する原油3銘柄の受け渡しを停止したことで、指標を構成する5銘柄のうち実質2銘柄しか残っていない。ドバイ原油は先週、過去最高値の169.75ドルを記録。ブレントとの乖離は50ドル超に広がり、アジアの精製業者がサウジアラムコにOSP(原油売渡価格)の指標変更を要請する事態に至った。(編集長・赤澤裕介)
プラッツ・ドバイは、中東産を中心とするアジア向け原油取引の基準価格だ。サウジアラムコ、アブダビ国営石油(ADNOC)、クウェート石油(KPC)などの産油国は、この指標に連動してアジア向け原油の売渡価格を設定している。日本の石油元売り各社が調達する中東原油も、この指標がベースになる。
3月2日、プラッツはホルムズ海峡を通過しなければ積み出しできない3銘柄──ドバイ、アッパーザクム、アルシャヒーン──の受け渡しを停止した。海峡封鎖で物理的に運べない原油を、価格指標に残すことはできないという判断だ。残ったのはフジャイラ積みのアブダビ産ムルバンと、オマーン産の2銘柄のみ。さらに20日にはムルバンの品質調整(ドバイ指標に対する割引)も凍結し、取引可能な原油量を最大化する措置に踏み切った。
問題は、2銘柄だけでは指標としての代表性が保てないことだ。ドバイ指標は本来、湾岸産中質サワー原油の価格を幅広く反映する仕組みだった。構成銘柄の6割が抜けた状態では、残ったムルバンとオマーンの需給だけで価格が決まる。少量の取引で価格が大きく動く状態では、指標を基準にした契約価格も安定しない。調達コストの見積もりそのものが崩れる。本誌3月20日付で報じたドバイ原油166ドル、ブレントとの57ドル乖離は、この構造が生んだ結果だ。
アジアの精製業者、指標変更を要請
この状況を受けて、アジアの精製業者がサウジアラムコに対し、原油売渡価格の指標をプラッツ・ドバイからICE(インターコンチネンタル取引所)のブレント先物に切り替えるよう要請したことが、海外通信社の報道で明らかになった。
太陽石油はすでにブレント建てで米国産軽質原油200万バレルを購入している。本誌が3月28日付で報じた経産省の行政指導──軽油卸値の指標をドバイからブレントに変更──も、この流れの一環だ。調達の現場では、ドバイ指標の価格がもはや実態を反映していないという認識が広がっている。
ただし、指標の切り替えは単純ではない。ブレントは北海産の軽質スイート原油であり、中東産の中質サワー原油とは品質が異なる。アジアの製油所は中質サワー原油に最適化された処理設備を持つところが多く、ブレント連動にすれば品質差の調整コストが生じる。それでも切り替えが進むのは、ドバイ指標の価格が実際の調達コストから乖離しすぎているためだ。
28日時点の原油価格は、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)が終値99.64ドル(取引時間中に100.04ドルを記録)、ブレントが112.57ドル、ドバイ先物(CMEプラッツ)が131ドル前後。ブレントとドバイ先物の差は18ドル前後、ドバイ現物との差はさらに大きい。この3層構造の乖離が、アジアの精製業者のコスト計算を狂わせている。
物流事業者にとって、基準価格の再編は軽油・重油の調達価格に直結する。ドバイ指標が機能不全のまま推移すれば、卸値もサーチャージも根拠を失う。経済産業省がブレント連動を行政指導で打ち出したことで方向性は示されたが、元売り各社の対応はこれからだ。本誌3月28日付記事で報じた64円の逆ざや──ブレント建て卸値とドバイ建て調達コストの差──は、指標の混乱が価格の問題から契約の前提の問題に移りつつあることを示している。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
・ドバイ指標からブレントへの切り替えが国内軽油卸値に波及した詳報
「軽油卸値ブレントに変更、元売りに64円逆ざや」(3月28日)
・3指標乖離の発生メカニズムと計算根拠
「ドバイ原油166ドル、ブレントと57ドルの差」(3月20日)
・ブレントだけ見ていてはわからない中東原油の実態価格
「中東原油急騰、ブレントでは見えないひっ迫」(3月18日)
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