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中東原油急騰、ブレントでは見えないひっ迫

2026年3月18日 (水)

国際ホルムズ海峡の封鎖が3週目に入り、日本の原油調達コストを左右する中東系指標が異常値を示している。S&Pグローバル・プラッツが評価するドバイ原油の現物価格(キャッシュ・ドバイ)は18日、5月積みカーゴで1バレル157.66ドルに達し、2008年のブレント原油先物の最高値(147.50ドル)を超えた。オマーン原油先物も152.58ドルの最高値を記録した。ブレント先物は17日終値で103.42ドル、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は96.21ドル。ブレントは世界の期待や備蓄放出を織り込む先物市場の価格だが、キャッシュ・ドバイはアジアの精製業者が実際に取り合う現物カーゴの値段であり、供給が遮断されると両者の差は一気に開く。(編集長・赤澤裕介)

▲ブレント先物とキャッシュ・ドバイの価格推移(クリックで拡大)

▲主要原油指標の価格比較(3月17-18日時点)

ドバイ原油のスワップ(先物相当)に対するプレミアムは18日時点で60ドルを超えた。2月の平均プレミアムは90セントだった。アジアの精製関係者からは「薄商いによる不自然な価格形成だ」との声が上がっている。プラッツはホルムズ海峡通過が必要な一部油種を評価対象から外しており、市場では、残る評価対象だけで現在の中東原油市場を十分に映せているのか疑問視する声が出ている。プラッツ自身も17日、ベンチマーク手法に関する市場意見の募集を始めた。

中東原油のアジア向け輸出は3月に日量1166万バレルまで落ち込んだ。2月の1900万バレルから4割弱の減少だ。供給が急減する一方で、手当てできるカーゴに買い手が殺到し、価格が一方的に跳ね上がっている。ブラジル産スポット原油のプレミアムもブレントに対して12-15ドルと過去最高を記録し、アジアの精製業者は中東以外の代替原油を奪い合っている。

為替は17日時点で1ドル159円前後。片山財務相が「断固たる措置」に言及し、160円の節目を前に膠着している。

試算253円、実際の調達はさらに上

本誌の軽油価格シミュレーションは、国際価格の変動幅を読者に示すため、流動性の高いブレント原油を用いた簡易モデルだ。日本の精製業者が実際に調達する中東原油の価格はドバイやオマーンの指標に連動しており、保険・輸送条件の変化も加わるため、以下の試算を上回る。

▲原油価格と為替から試算した軽油小売価格モデル

ブレント103ドル・為替159円で軽油小売価格は253円。だがキャッシュ・ドバイが157ドル台、オマーン先物が152ドル台で推移している以上、日本の精製業者の調達コストはブレント前提の試算を大幅に上回る。ここに戦争リスク保険料(船体価値の2.5-7.5%、本誌既報※1)と喜望峰迂回の追加運賃(1バレル3-11ドル上乗せ)が加わり、実質的な到着コストはさらに膨らむ。日本のナフサ輸入の7割は中東からで、すでに三菱ケミカルグループが茨城事業所でエチレン減産を開始し、出光興産も16日に千葉・徳山の2事業所で減産に入った。国内のエチレン減産拠点は全体の半数にあたる6か所に達している。精製業者や石化各社の稼働率が下がれば、軽油の供給量そのものが細るリスクもある。

※1…ホルムズ海峡、通航ほぼ停止のまま2週目へ(3月12日)

政府の激変緩和措置(19日開始、170円超の全額補助)は小売価格の急騰に歯止めをかけるが、中東原油の調達コストがこの水準で推移すれば、補助の財政負担は急速に膨らむ。補助が縮小・打ち切りになるリスクも視野に入れた荷主交渉が必要になる。前回報じた「補助なしなら308円」の前提はブレント120ドル・為替159円だったが、精製業者の実際の調達価格はその前提をすでに超えている可能性がある。

本誌の取材では、14日時点で軽油1リットル210円を超える価格を表示するスタンドが複数確認されている。公式統計(9日時点の全国平均149.8円、資源エネルギー庁調べ)との乖離は60円以上に広がった。相対取引ではさらに高い水準の提示が出ており、正規の流通チャネルから軽油が消え始めている地域もある。

3月16日に始まった民間備蓄の放出(義務日数70日→55日相当、15日分の即時供給)は、製品在庫が今週末から末端に届き始める。だが本誌が前回報じた通り(※2)、国家備蓄の原油が精製を経て軽油として流通するのは4月中旬以降だ。経済産業省は「20日ごろを過ぎると中東湾岸からの新規出荷船がいなくなる」と説明している。2月末から3月初旬に海峡を通過した既積みカーゴは20日ごろから順次到着するが、その後に続く新規カーゴは大幅に細る公算が大きい。3月下旬から4月中旬にかけて、地域によっては軽油の品薄が深刻化する可能性がある。

※2…ホルムズ3週目、外交が物流を仕分ける(3月17日)

▲燃料供給対策と在庫放出のスケジュール(クリックで拡大)

海峡の通航状況にわずかな変化も出始めた。パキスタン船籍のタンカーが15日、イラン沿岸のララク島とゲシュム島の間を通る狭い水路を航行し、海峡を抜けた。米財務省のスコット・ベッセント長官は16日、イラン船籍のタンカーが海峡を通過していることについて「世界への供給のために通している」と認めた。だが全体の交通量は平時の130-150隻/日から1日数隻規模まで落ち込んでおり、本誌が前回報じた「保険・機雷・護衛の3つの壁」は依然として立ちはだかっている。

19日の日米首脳会談では、高市早苗首相がアラスカ州での原油増産への投資協力とその原油の調達拡大を表明する方針だ。25年の日本の原油輸入に占める米国産は3.8%にとどまるが、中東依存9割超からの脱却を図る一歩になる。ただし米国産原油は輸送費が高く油質も異なり、大量調達までには時間を要する。タンカー護衛のための艦船派遣について、主要同盟国で派遣を表明した国は17日時点で確認されていない。

IEA(国際エネルギー機関)の3月月報は今回の危機を「世界の石油市場の歴史上、最大の供給途絶」と位置づけた。湾岸産油国は合計で日量1000万バレル以上の減産を余儀なくされ、IEA加盟国による4億バレルの協調備蓄放出(IEA3月月報)は世界消費の4日分にすぎない。

物流事業者にとって、いま必要な対応は燃料の実調達価格に基づくサーチャージの再計算と荷主への即時通知だ。本誌が前回掲載した国交省の標準的な運賃のサーチャージ表に基づけば、軽油210円では大型車(燃費3.7km/L)の東京-大阪間(500km)で1万1824円のサーチャージが発生する。ただし、このサーチャージ表はこれほどの急騰と品薄を想定して設計されていない。軽油がさらに上がれば、燃料の物理的な確保と価格転嫁を同時に進める必要がある。

17日時点の価格を整理する。ブレント先物103ドル、WTI96ドル、キャッシュ・ドバイ157ドル、オマーン先物152ドル。日本の精製業者が実際に調達する中東原油はブレントの1.5倍の水準にある。プラッツはベンチマーク手法の見直しに着手し、中東からアジアへの原油輸出は2月比で4割弱減った。この状態が続く限り、日本に届く原油の量と価格の両面で圧力は強まり続ける。

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