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令和のオイルショックに備える

「長距離は空で運ぶ」採算性の検証を

2026年3月30日 (月)
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ロジスティクスホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けた軽油価格の高騰が、トラック長距離輸送の採算を直撃している。2024年問題で人件費が上昇した上に燃料費まで高騰するという二重苦に加え、500キロを超える長距離では中継輸送やツーマン運行が必要になるなど、走れば走るほどコストが膨らむ構造が鮮明になってきた。こうした状況を背景に、航空貨物輸送をトラックの代替・補完手段として活用する動きが注目されているが、航空運賃はトラックより格段に高く、コスト差はまだ大きい。だが、燃料費高騰と人件費増が重なれば、長距離輸送においてその差は着実に縮まっていく。トラック依存一辺倒からの脱却を本気で考えるタイミングになった。(編集委員・刈屋大輔)

(イメージ)

26年2月下旬からの米国・イスラエルによるイラン攻撃でホルムズ海峡は事実上封鎖された。石油元売り各社はガソリンや軽油の出荷規制方針を示し、トラック運送事業者のインタンク(自家給油タンク)への供給制限が相次いでいる。「軽油がなければ走れない」トラック運送業界が「令和版オイルショック」の直撃を受けている。

軽油価格はすでに3月中旬以降、前の水準から30円前後の上昇を見せており、全日本トラック協会は27日に緊急の「燃料価格高騰等経営危機突破総決起大会」を開催した。さらに、タイヤや車両の素材となる合成ゴム、樹脂もナフサ(石油化学の基礎原料)に依存しており、中東産ナフサの供給が絞られれば、タイヤ価格や新車価格の高騰も連鎖的に押し寄せる。

荷主目線では「物流費が上がる」という問題にとどまらない。走れば走るほど燃料費がかさみ、長距離輸送であるほど採算が悪化する構造となる。トラック運送事業者にとっても、燃料サーチャージを引き上げたとしても原油高騰が続く局面では追いつかない。24年問題で人件費が上昇したうえに燃料費まで高騰するという二重苦は、地方間の長距離トラック輸送の採算を根底から揺さぶっている。

航空輸送に立ちはだかるコストの壁

こうした状況下で改めて注目されるのが、国内航空貨物輸送だ。これまで国内航空貨物は、生鮮品、医薬品、精密機器など「高額、緊急、鮮度優先」の荷物に需要が限られてきた。それがいま、トラック輸送の代替・補完手段として、荷主や物流会社の間で関心が高まっている。

その象徴がヤマトホールディングスのフレイター(貨物専用機)事業だ。24年4月にJALグループ(スプリング・ジャパン運航)と連携してエアバスA321-200P2F型機3機体制で運航を開始した。現在は羽田、成田をハブに新千歳、北九州、那覇を結ぶネットワークで1日13便を運航している。同機の最大積載量は28トンで、10トントラック5-6台分に相当する。26年3月24日には関西国際空港にも初就航するなどネットワーク拡充が続く。将来は21便まで増便する計画も示されている。

▲ヤマトグループの貨物専用機(出所:ヤマトホールディングス)

さらに旅客機のベリー(胴体下部の貨物スペース)にも着目する動きがある。国内幹線の旅客便には相当のベリースペースが存在するが、これまで十分に活用されてきたとは言いがたい。フレイターとベリーを合算すれば、現状の需要規模に対して一定の輸送力がすでに存在していることになる。

では実際に使えるのか。最大の問題はコストだ。航空運賃はトラック輸送に比べて格段に高く、通常の荷物で「速さ」と引き換えにそのコスト増を正当化するのは現状では難しい。

輸送量の統計も、このコスト壁の大きさを裏付けている。国土交通省の航空輸送統計速報によると、国内定期航空の貨物重量は24年に前年比8.0%増の約60万トンと回復傾向にある。ただし、コロナ禍前の19年には年間80万-90万トン台あったものがいまだ回復しきれておらず、ピーク時の7割程度にとどまる。輸送力が増えても荷物がそこまで増えていないのが現実であり、運賃の高さが需要の上積みを阻んでいる構図は明確だ。

燃料がさらに上昇すれば、方程式は変わる

もっとも、このコスト差は固定されたものではない。今回のホルムズ危機が示したように、トラック輸送のコストは燃料価格に直結して変動する。

燃料サーチャージは軽油価格の上昇幅に連動して加算される仕組みであり、燃料高騰が続けばトラックの実質運賃は確実に上昇する。さらに24年問題が長距離輸送の人件費構造を大きく変えた点も見逃せない。

改正労働基準法によるドライバーの時間外労働規制が強化されたことで、500キロを超えるような長距離輸送では中継輸送の導入やツーマン運行が必要になるケースが増えている。たとえば九州-関東間(1000キロ)をトラックで一気に走るにはツーマン運行が事実上必須となり、人件費は一気に跳ね上がる。燃料費の高騰に人件費の増加が重なれば、長距離トラック輸送のコストはこれまでの試算を大きく超えて上昇しかねない。

航空輸送とのコスト差は、こうした構造変化の中で着実に縮まりつつある。空港への集荷・配送のラストワンマイル領域のトラック輸送のコストが許容できる荷物(軽量、高額、鮮度重視の品目)であれば、採算ラインはさらに現実味を帯びてくる。

全てのルートを空に切り替えることは現実的ではない。しかし、燃料危機が長期化し、長距離輸送の人件費負担がさらに重くなるほど、「トラック一択」という前提は崩れていく。

500キロを超える長距離区間、鮮度やスピードが求められる荷物、ドライバー確保が困難な路線、そしてBCPとしての輸送冗長化。こうした条件が重なる輸送において、航空を選択肢に加えない手はない。

ヤマトのフレイター就航でネットワークが広がり、ベリーの活用余地も残っている今がその検討のタイミングだと言えるだろう。令和のオイルショックは、日本の物流業界に「トラック依存からの脱却」を本気で問いかけている。

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