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ナフサ由来製品の供給制限加速、見えた住設の次

2026年4月18日 (土)

荷主ホルムズ海峡封鎖の影響は、ナフサそのものの不足ではなく、ナフサ由来製品の供給制限として広がった。4月に入ると建材メーカーが相次いで新規受注を止め、住設大手も納期未定への切り替えに踏み切り、2月末の封鎖開始から7週間で波及は最終製品まで広がった。この順番は偶然ではない。ナフサから下流へ向かう途中に、在庫が薄い工程と、ほかで置き換えにくい工程が挟まっているからだ。先に詰まった塗料用シンナーの次に控えるのが食品トレーで、その先にタイヤがある。(編集長・赤澤裕介)

ナフサは国内需要の6割を輸入に頼り、そのうち74%がホルムズ海峡を経由する。エチレン原料の95%はナフサで、国内のナフサ商業在庫は経産省石油統計ベースで2週間分にとどまる。そこから下流に進むほど在庫は薄くなり、代替の効かない中間工程が残るため、どこで先に詰まるかによって業種ごとの順番が決まる。2月末から4月中旬までに起きたことを見ると、上流から建材、住設へと詰まりが広がった順番は、在庫の薄さと置き換えのしにくさに沿っていた。

最初に動いたのは上流だった。シンガポールのPCS(ペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール)が3月5日ごろエチレン設備で不可抗力を宣言し、国内でも三菱ケミカルグループ、三井化学、出光興産などが3月前半に相次いで減産へ動き、国内エチレン12基のうち半数に当たる6基が減産に入った。東ソー四日市の再稼働も無期限で延期された。封鎖の衝撃が国内のエチレン設備にまで及んだのは、この3月前半だった。

減産から1週間ほど遅れて、中間財の価格が動き始めた。信越化学工業が16日に塩化ビニル樹脂を30円/kg以上、プライムポリマー(東京都中央区)が17日にポリエチレンとポリプロピレンを90円/kg以上値上げすると発表し、いずれも4月1日納入分から適用した。25日には日本ペイントが3月19日発注分にさかのぼってシンナー類を75%値上げ、30日には積水化学工業がCPVC(塩素化塩化ビニル樹脂)を55円/kg以上、31日には東レが合繊全品目の緊急値上げを決めている。上流の供給が絞られると、まず在庫の薄い中間財から価格が動く。3月下旬までは、影響はまだ値上げの形で表れていた。

価格への反応が、現物の供給制約に踏み込み始めたのは3月末から4月頭にかけてだった。3月25日にフクビ化学工業が全製品の供給制限と価格改定を発表し、4月2日には関西ペイントがシンナー類を50%以上値上げしたうえで、同日17時以降に受注した分から前年同月の出荷量を上限とする出荷制限を始めた。背景には、川上の石化メーカーが国内向け供給を前年並みに維持していたにもかかわらず、川中の塗料メーカーや卸業者に「4月末までは前年並み、5月は未定」との情報が伝わり、品薄を見越した先回り発注と出荷抑制が広がったことがある。川中の4月出荷は前年同月の半分程度まで落ち込み、塗料は他業種より先に値上げから供給制限へ移った。

建材で始まった受注停止は、数日のうちに住設へ移った。4月9日17時に日新工業(東京都中央区)がアスファルトルーフィング類の新規受注を一時停止し、翌10日には田島ルーフィング(東京都中央区)が防水材と住宅建材の新規受注停止に踏み切った。13日にはTOTOがユニットバスの受注を止め、14日にはクリナップがシステムバスの新規受注停止を発表した。同じ14日のうちにパナソニック ハウジングソリューションズ(大阪府門真市)がバス・トイレ関連全製品を納期未定化し、LIXILも同日受注分から納期未定に切り替えた。TOTOは15日、20日からのユニットバス段階的再開を案内したが、部材が足りない商品はなお納期未定のままとなる。受注停止、納期未定化、一部再開と形は分かれても、住設大手各社は揃って出荷時期を約束できない状態に入った。

政府はこの間、備蓄放出や代替調達を重ねた。関係閣僚会議は3月24日から4月16日までに4回、重要物資安定供給確保タスクフォースは4月2日と9日の2回開かれた。国家備蓄原油は第1弾の放出が3月26日に始まり、4月15日には第2弾として20日分の追加放出も決まった。ナフサも中東以外からの輸入を月90万キロリットルへ増やし、米国メキシコ湾岸産の第一船が4月1日に市原沖へ入っている。備蓄放出と代替調達を重ねても、供給制限は住設まで広がった。

この間を時系列に置き直すと、上流の減産、中間財の値上げ、下流の停止・納期未定化、政府対応の節目は次の順で並ぶ。(表の下に記事が続く)

海峡再開でも戻らぬ供給

海峡が開いても、1カ月では戻らない。1カ月という数字は楽観でも悲観でもなく、輸送と生産の工程を積み上げると避けにくい。4月18日にはイラン側が再び厳格管理に戻したと説明しており、通航環境そのものがなお不安定なままだ。

船が動き出しても、日本の工場に原料がすぐには届かない。ホルムズ海峡の通過を封じられたペルシャ湾内に滞留している船舶は3200隻規模に達しており、うちタンカー・貨物船は約800隻にのぼる(IMO3月中旬公表、船舶運航リスク分析会社ウィンドワード社が4月9日時点でも同水準を確認)。湾内で足止めされている船と合わせて運用を再開するには、安全確認と航路設定で数日、積み地での荷役立ち上げにも数日が要る。通常航路でもペルシャ湾から日本までは20日を要し、戦争危険特約保険料も封鎖前から大幅に跳ね上がったまま推移している。喜望峰迂回を選べば14日が上乗せされ、市原、水島、千葉といった受け入れ港の岸壁混雑によって、着岸から荷揚げまでにさらに数日が積まれる。

原料が届いても、クラッカーがすぐには戻らない。国内エチレン12基のうち6基が減産に入っており、京葉エチレン(住友化学・丸善石油化学合弁、千葉県市原市)は定期修繕後の再稼働を無期延期している状態が続いているため、稼働率の復元までに1〜2週間を見込む必要がある。

クラッカーが戻っても、樹脂や成形品がすぐには戻らない。樹脂化で数日、成形・二次加工で数日から2週間、そこから最終製品の出荷までにまた数日を要する。工程の一部は重なって動く。だが、原料到着、稼働率の復元、成形・二次加工という肝心の部分は、前の工程が済まなければ次に進めない。全体としては直列で積み上がる。

積み上げていくと、直行ルートでも最短30日、喜望峰迂回を含めれば45日を超える。日本向けナフサの輸入指標となるC&F Japanは4月3日時点で1トン当たり1190ドルと、封鎖前比で92%高の水準にある。帝国データバンク(TDB)は17日、ナフサ由来原材料の調達リスクを抱える製造業が4万社を超えるとの分析を公表している。

塗料の次に来る食品トレー

先行しているのは塗料用シンナーだ。日本ペイントが3月19日発注分から75%値上げ、関西ペイントが4月2日に50%以上値上げしたうえで出荷制限を始めており、市中店舗では関西ペイント品の在庫が切れた。原料のトルエンとキシレンはナフサ由来だが、川上の石化メーカーは国内向け供給を前年並みに継続している。ところが、「4月末までは前年並み、5月は未定」との情報が川中の塗料メーカーや卸業者に広まった。品薄を見越した先回り発注と出荷抑制が起こり、川中の4月出荷は前年同月の半分程度まで落ち込んだ。経産省は13日付で製造産業局長名文書により180社・70団体に出荷抑制の是正を要請し、赤沢亮正経産相は翌14日の閣議後会見で「目詰まりは解消に向かう」と述べている。塗料では、値上げより先に出荷制限が始まった。川下の在庫が薄く、水性塗料や無希釈仕様に切り替えにくい用途が残るためだ。5月以降、川上の石化メーカーが実際にどの程度の供給量を出すのかが、先行して始まった出荷抑制と品薄が収まるか、さらに他の業種へ広がるかの分かれ目になる。

食品トレーは、次に詰まりやすい位置にある。主原料の発泡ポリスチレン(PSP)はスチレンから作られ、そのスチレンはナフサクラッカーで生じるベンゼンとエチレンから合成されるという経路をたどる。経路が長い分、上流の減産が現物のトレーに届くまでには時間差があるが、代替が効きにくい点でも、事情は塗料とよく似ている。PET(ポリエチレンテレフタレート)やPP(ポリプロピレン)製のトレーも石油由来のため上流の影響を同時に受け、紙製のトレーは耐油・耐水性が求められる生鮮や惣菜の用途では置き換えが難しい。食品スーパーの生鮮・惣菜陳列は毎日の納品を前提に組まれており、小売店側の流通在庫は薄い。エフピコ、シーピー化成(岡山県井原市)をはじめとする主要メーカーが供給を維持できなくなれば、5月から6月にかけて店頭陳列の機能そのものに影響が出る。

さらにその先にあるのがタイヤだ。タイヤの材料は半分弱が石油由来で、中核をなしているのがスチレン・ブタジエン・ラバー(SBR)とブタジエン・ラバー(BR)の2つの合成ゴムである。両者の原料となるブタジエンはナフサクラッカーの副産物であり、国内のエチレン減産はそのまま供給量に響く。すでに中国市場ではブタジエン価格が急騰しており、国内のSBR・BR主要メーカーである日本ゼオン、JSR、旭化成、住友化学の4社は、上流の影響を同時に受ける立場にある。天然ゴムで部分的に代替することはできるものの、製品設計上、SBR・BRへの置き換えには限界がある。新車装着用と交換用の両方で供給縮小が起きれば、物流事業者の車両運用に直接影響する。

医療向けには、政府対応が先行した。高市首相は4月16日の第4回中東情勢関係閣僚会議で、備蓄している医療用手袋5000万枚を5月から医療機関向けに放出すると表明している。診療所や歯科医院の月需要9000万枚の半分強を補う規模にあたる。

2月末から4月中旬までに波及は住設まで広がった。次の数週間の焦点は、塗料の供給制限と品薄が一時的な混乱で終わるのか、食品トレーとタイヤまで広がるのかに移っている。


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