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製造業の受注停止急拡大、ナフサ依存の急所直撃

2026年4月14日 (火)

産業・一般米国のトランプ大統領は12日、イランとの核協議が決裂したとして、米海軍がイラン港湾の海上封鎖を日本時間13日23時に始めると表明し、同日23時に発効した。米中央軍(CENTCOM)はペルシャ湾とオマーン湾のイラン港に出入りする船舶を対象とするが、ホルムズ海峡を通ってイラン以外の港に向かう船の航行は妨げない。海峡全体の通航を止める措置ではない。それでも13日の東京市場は原油高と株安、円安が一度に進んだ。国内では建材と塗料、特装車の各社が3月下旬から受注停止と出荷停止を次々に打ち出し、13日にはTOTOがユニットバスの新規受注停止に踏み切り、LIXILも納期や価格に影響が出る可能性を発表した。建材から塗料、住宅設備まで受注停止が連鎖した。(編集長・赤澤裕介)

日本のナフサ輸入は中東産が大半を占める。国産ナフサの民間在庫は平時で約20日分しかなく、国家備蓄の対象ではない。原油は合計で約248日分あるのに対し、ナフサは桁違いに薄い。平時はこの薄さで回ってきたが、供給ルートが細った今、20日分という在庫が稼働を続けられる日数の上限を決めている。

政府は3月16日に民間備蓄を15日分放出し、3月26日から国家備蓄1カ月分と産油国共同備蓄約6日分の放出を始めた。高市首相は10日、追加で20日分の国家備蓄放出を決めた。経産省は中東以外からのナフサ調達を月45万キロリットルから90万キロリットルに倍増し、うち30万キロリットルを米国産でまかなう。第一船は1日に市原沖に着いた。ただし代替調達が本格化するのは5月以降で、米メキシコ湾から日本までは通常の2倍の約45日かかる。

ナフサのスポット価格は3日時点で1トン1190ドル、キロリットル換算で約13万4000円まで上がった。25年10-12月期の国産ナフサ基準価格6万5600円の2倍だ。10日の停戦発表後も11万9000円前後で推移し、危機前の約1.8倍から下がらない。逆封鎖でこの水準に再上昇圧力がかかる。韓国政府がナフサ輸出を5カ月間原則禁止したため、非中東調達の一角も崩れた。

エチレン12基中6基が減産、受注停止が広がる

国内エチレン設備12基のうち、通常稼働は3基だけだ。6基が3月上旬から減産を続け、4月に入っても状況は変わらない。残る3基は定期修理中だ。主要9基の動きは以下の通り。

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石油化学工業協会の工藤会長(旭化成社長)は「4月は稼働を維持できる」と述べたが、焦点は5月以降だ。2月のエチレン稼働率は75.7%で、同協会が好不況の目安とする90%を43カ月連続で下回った。3月分の稼働率は4月23日頃に公表される見込みだ。各社は最低稼働率の60-70%を下回らないよう調整を続けている。出光興産は千葉と徳山の2基について、封鎖が長引けばエチレン設備を止める可能性を取引先に通知した。住友化学グループはシンガポール拠点でエチレン・アクリル樹脂原料のフォースマジュールを宣言した。

減産は川下の値上げに直結した。化学大手の値上げは繊維、鉄鋼、断熱材、包装フィルム、電線、タイヤ、塗料まで広がっている。

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値上げで済んでいるのはここまでだ。塗料用シンナー、建材、特装車向け塗装材料、潤滑油、接着剤、住宅設備は値上げでは追いつかず、受注停止と出荷停止、生産停止に入った。

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シンナーはすでに欠品局面に入った。関西ペイントの建築用シンナーは大手通販で在庫切れとなり、次回出荷は6月下旬だ。3カ月の空白が開く。ホームセンターは「一人1缶まで」の制限を貼り出した。業務用通販でも、工具のモノタロウが8日、オフィス用品のアスクルが9日、相次いで「中東情勢の影響で受注停止や欠品、納期遅延が発生する可能性がある」と顧客に告知した。旭化成建材は「原料調達そのものが制約を受け、企業努力だけでは対応が困難な状況」と説明した。潤滑油はENEOSと出光興産、コスモ石油の3社が3月中に一度出荷を止め、4月に入ってからも前年実績を上限とする制限付きの再開にとどまっている。接着剤も主要各社で出荷制限や新規案件の辞退が広がっており、アイカ工業は3月26日から化成品とメラミン化粧板の月平均出荷量に上限を設けた。

受注停止は住宅設備にも波及した。TOTOは13日、システムバスとユニットバスの発注システム上で新規受注を止め、再開時期は未定とした。LIXILは10日、一部製品の価格改定や納期の遅れの可能性について発表。特装車でもパブコ、日本フルハーフ、極東開発工業、日本トレクスの4社が3月下旬から4月10日にかけて、製品供給への影響を公表した。

新設住宅着工戸数は2月時点で前年同月比マイナス5%、4カ月連続で減った。骨組みは立ち上がったのに断熱材や床の塗装が間に合わず、引き渡せない現場もある。

自動車は輸送と塗料の両面で制約を受けている。邦船3社は2月28日にホルムズ海峡の通航を止め、喜望峰経由に切り替えた。戦争保険料と輸送日数は危機前から大幅に上昇した。

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トヨタ自動車の佐藤恒治社長は3月19日の自工会記者会見で「輸送力が半分になった」と述べた。商船三井は6日までにLNG運搬船を含む3隻でホルムズ海峡を通ったが、田村社長は10日、「2週間の停戦で次の船を出す判断には至らない」と話した。マツダは4月から中東向け車両の国内生産を取りやめ、トヨタは4月に約2万4000台、日産自動車は九州で1200台を減産する。

食品への波及はこれからで、医療では一部品目で供給不安が出始めた。食品は4月時点でホルムズ由来の値上げはほぼ出ていないが、ナフサ由来の包装資材を通じて今夏以降に次の波が来るとの見方が民間調査会社から示されている。医薬品と医療機器では厚生労働省と経済産業省が3月31日、合同で「医薬品・医療機器等確保対策本部」を設け、透析回路や注射器、医療用手袋の一部で4月半ばから8月にかけて出荷が難しくなるとの見方が出ている。

13日の東京市場はWTI原油が一時1バレル105ドル台に乗せ、日経平均は前週末比421円安の5万6502円で取引を終えた。長期金利は一時2.490%と29年ぶりの高水準まで上がり、ドル円は159円台後半と160円を目前にした。

政府はナフサの代替調達と備蓄放出を進めていた。ナフサの代替調達は5月以降に本格化する。備蓄放出は民間製油所を経て末端に届くまで数週間かかる。非中東ルートの原油タンカーは米メキシコ湾から日本まで通常の2倍の45日を要する。エチレン設備の減産維持は4月いっぱいが見通しの限界だった。

逆封鎖はこの時間差を縮める。イラン港向けの封鎖が海峡全体の物流に直接与える影響は限られても、追加供給の見通しが立たないところでの原油高は、4月のうちにもエチレン減産の維持を難しくする圧力になる。焦点は原油価格そのものではない。ナフサ在庫の残日数と、エチレン設備の稼働の見通しだ。起きているのは新しい危機ではない。停止の時期が前倒しされた。

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