フード日清食品と三菱食品が5月11日に発表した商流・物流データ連携協業は、AI(人工知能)発注モデルにより配送に必要なトラック台数を30%前後削減可能とする試算が目を引く。ただ、本件で両社が最大目的に掲げているのは、自社だけの効率化を追う従来の商習慣を見直し、製造、卸売、小売の各社がメリットを得られる「共創型データ連携プロセス」の構築である。CLO(物流統括管理者)制度下の食品流通改革として、この協業をどう評価するか。(編集長・赤澤裕介)
今回の発表で最も目を引くのは、AI発注モデルでトラック台数を30%前後削減可能とする試算である。三菱食品から日清食品への発注時に、トラック1台あたりの積載効率を最大化するAI発注モデルを構築し、2025年度の実証を踏まえて算出された値だ。
ただ、解説として重く見るべきはもう一つの数字のほうだ。三菱食品の特売発注予定データを日清食品に事前連携することで、日清食品の在庫調整業務時間が月200時間前後削減された。30%前後削減可能との試算は印象が強いが、算定条件や対象範囲は未公表であり、実運用での削減実績とは切り分けて読む必要がある。これに対して、月200時間前後の削減は2社間で確認された業務時間の成果だ。卸の商流データがメーカーの在庫調整や需給判断の前提に組み込まれ始めた点で、本協業の中身を最もよく示している。
食品流通の物流負荷は、配送現場だけで発生するわけではない。特売計画、発注締め、納品リードタイム、商品マスタ登録、欠品時の責任分担といった商流側の決定が、最終的に車両台数、積載率、倉庫作業、検品負荷に変換される。本協業の意味は、商流データを前倒しで接続することで、これまで後工程の物流現場で処理されてきた負荷を、発生前の段階で抑えようとする点にある。
実装の輪郭、つまり対象範囲がどの取引条件や商品群に及ぶのか、本格運用後のスケジュールやエリア、対象SKUの切り分けについて、今回のリリースは具体的な期日を明示していない。
共創の3層、データから便益まで
「共創型データ連携プロセス」は、リリース文では「自社だけの効率化を追求する従来の商習慣を見直し、製造、卸売、小売の各社がメリットを得られる仕組みを作る」と説明される。この言葉を読み解くには、共創が3つの層で起きていることを分けて見るのが分かりやすい。
最も基層にあるのが、データ連携の共創である。三菱食品の特売発注予定データ、日清食品の商品情報、両社の発注計画と物流実績を、両社間で相互に接続する。25年度の実証では、特売発注予定の事前連携と商品情報の自動連携が、いずれも成果として確認されている。
その上の層にあるのが、意思決定の共創である。卸からの発注予定情報が、メーカーの在庫調整や需給判断の前提に組み込まれる。月200時間前後の削減はこの結果として現れた数値で、卸の発注予定をメーカーの業務に前倒しで接続する効果を示している。
日清食品の深井雅裕専務取締役CLOは、本誌の連続インタビュー「The CLO」第1回で、メーカー同士の水平連携よりも、複数メーカーの発注情報を持つ着荷主(卸店、小売店)を起点に組み合わせを設計する方が実効性が高いとの考え方を示している。今回の協業は、着荷主起点で商流と物流を接続するという深井氏の問題意識と重なる。即席麺は容積を取りやすい一方で重量は軽く、車両の容積と重量を同時に使い切りにくい品目であり、発注数量、発注タイミング、納品単位を物流制約に合わせて調整できるかが、積載効率の向上を左右する。
三菱食品は2018年頃から物流統括機能を整え、2019年4月にロジスティクスと受発注を同一管轄に置く「SCM統括」を新設、25年1月にCLO設置を対外公表した。25年4月には物流事業をベスト・ロジスティクス・パートナーズ(BLP)へ分割し、グループとして倉庫運営や配送手配などの現場運営機能を持ちながら、同社本体はBLP統括や物流企画を担う体制に移行している。
卸売の田村幸士取締役常務執行役員CLOの立場から見れば、今回の協業は、上流のメーカーとのデータ連携を進めることで、荷受け側としての作業負荷や納品調整を軽減し、下流の小売向け納品の安定化にもつなげ得る取り組みと位置付けられる。三菱食品は花王と共同配送コンソーシアム「CODE」を立ち上げたほか、PALTAC(パルタック)との物流協働など、業種や中間流通の垣根をまたぐ横方向の共同化も進めている。これに対し、今回の日清食品との協業は、メーカーと卸の間で発注予定、商品情報、物流実績を相互に接続する垂直方向のデータ連携にあたる。
そして3層目に位置するのが、便益配分の共創である。発注業務効率化、業務時間削減、トラック台数削減の可能性、商品情報登録の効率化によって生まれる便益を、メーカー、卸、小売、物流会社のあいだでどう分けるかが、最終的な論点となる。便益が自動的に配分されることはない。物流会社の収益、卸の運用負担、小売の納品条件変更まで含めて合意できなければ、2社間の成果は3層には広がらない。
3層拡張に残る論点
最も大きな未解決論点は、小売の不在である。両社の発表は、製造、卸売、小売を横断したリアルタイムデータ連携の仕組み構築を「検討」段階と表現している。現時点で発表された協業はメーカーと卸の2社間で、小売の参加企業や具体的な実装スケジュールは示されていない。3層拡張の成否は、今後の小売参加と、データ共有の合意形成にかかる。
データガバナンスも避けて通れない論点だ。製造、卸売、小売を横断するデータ連携では、取引条件、需要見通し、販促情報など競争上センシティブな情報をどう扱うかが避けられない。共有範囲、粒度、更新頻度、利用目的を明確にしなければ、3層拡張は実装段階で止まる。三菱食品が花王と立ち上げた「CODE」では、業界横断でのデータ共有にあたり、競争法上問題となる情報やデータ交換を防ぐ措置を掲げており、本協業の3層拡張でも、この種のガバナンス設計が参照点となる。
AI発注モデルの実装条件も未公表である。トラック台数を30%前後削減可能とする試算は、容積制約と重量制約のどちらを軸に積載効率を測ったのか、納品リードタイムや倉庫作業負荷をどこまで取り込んでいるのかが示されていない。特売波動、車両手配の実制約、現場での例外処理をどう扱うのかも、本格運用時の精度を左右する。
26年4月から、一定規模以上の特定荷主、特定連鎖化事業者には物流統括管理者の選任が義務付けられた。制度上、CLOには、リードタイム確保や発注量適正化のための社内部門連携、デジタル化と物流標準化、取引先や物流事業者との連携・調整が求められる。今回の協業は、CLOに求められる役割が企業間連携に広がる事例として読める。両社はいずれも制度本格化に先行して経営層をCLOに据えてきた。日清食品の深井CLO、三菱食品の田村CLOがそれぞれ示してきた問題意識と、今回の協業の方向性は重なる。
今回の協業の評価軸は、商流データを物流制約に接続し、製・配・販改革の入口を作れるかにある。2社間では、特売発注予定データの事前連携による在庫調整業務時間の月200時間前後削減という実証成果が示された。次に問われるのは、小売を含む3層に拡張したとき、データ共有、取引条件、便益配分をどこまで合意できるかだ。「共創型データ連携プロセス」という言葉を実体ある商習慣改革に変えられるかは、ここにかかっている。
この記事をより深く理解するために
日清食品深井CLO、改革は意志ある先行企業から(4月30日)は連載「The CLO」第1回で、着荷主起点の水平×垂直連携、便益配分、先行企業による合意形成を論じた、本協業をメーカー側から読む前提となる記事である。
三菱食品、CLO主導でトラック3100台を可視化(3月3日)は、1日7600台規模の配送を抱える三菱食品が3100台の運行状況をデータ化してきた事例で、卸側の可視化、最適化の背景を整理する。
四月一日物流改正の全体像(4月1日)はCLO選任義務、特定事業者指定、中長期計画、罰則体系を整理した制度解説で、本協業をCLO制度下で読むための背景となる。
花王・三菱食品、荷主連合で支線配送効率化(4月21日)は共同配送コンソーシアム「CODE」の事例で、三菱食品が進める横方向の荷主連携を示している。
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