
話題「今の段階でCLOが6割も選定が済んでいることは素晴らしいのではないか」――2026年4月の改正物流効率化法施行で、特定荷主等の3200社規模に選任が義務付けられたCLO(チーフロジスティクスオフィサー)について、日清食品の深井雅裕専務取締役・CLOは、改革の成否を左右するのは人数ではなく、意志ある先行企業が実効成果を出せるかにかかると語る。
本誌の連続インタビュー「The CLO サプライチェーンの変革者たち」第一回として同氏に取材し、CLO職能の実像、便益配分の制度化、着荷主起点の共同物流を聞いた。(編集長・赤澤裕介)
深井氏は入社時に低温事業部の営業職としてキャリアを始め、即席めん営業で地方を歴任した後、19年7月に日清食品 事業構造改革推進部長 兼 ホールディングス物流構造改革プロジェクトリーダーへ就いた。25年6月にCLOへ正式就任、就任前の物流関連業務は6年ほどで、それまでに物流実務の経験はなかった。「物流をやったことがないと言っていたが、気づけば7年経っていた」と振り返る。
26年4月には業務変革推進部を新設し、深井氏が同部を所管する。今期から営業・販売の最終決裁は所管外となり、代わって生産部門を管轄することになった。最終決裁権は組織体制、業務プロセス、AI導入、物流会社や倉庫との契約見直し、人材育成、生産部門全般に及ぶ。直属上司は日清食品の安藤徳隆社長で、指揮命令系統上の上位はほかにない。中長期計画は10月末の提出期限を控え、ドラフトが完成済みで、各部門合意の取得作業を進めている。

形式選任より実効成果重視
民間調査では対象企業の見方が割れている。船井総研グループのコンサルティング会社が25年12月に公表したセミナー参加者調査では、特定荷主118社のうち42%が「CLOに任命されることはない」と回答した。一方、Hacobuが26年2月に公表した特定荷主自認企業101社の調査では、選任済みと選任見通しの合計が76%に達した。この受け止めの差について、深井氏は「6割もいる」と評する。任命されただけのCLOが3200社並ぶよりも、ビジョンを持つCLOが少数でも先行的に動く方が早い。「最初に動いたメンバーがコアとなり、広がっていく」流れが要点だと位置づける。
CLOは「チーム機能」だというのが深井氏の整理だ。深井氏のチームには物流の専門家もいれば、財務、IT、調達、生産の専門家も加わる。それを束ねて「何をやりたいか」を語るのがCLOで、誰が代表としてビジョンを語るかという話にすぎない。物流出身者でも他の部門の出身者でも、コストセンターとしての物流費比率を全ての基準にしてきた思考のままCLOになれば、「根本的な解決に進まない」懸念はあるという。物流統括管理者とCLOの異同についても、深井氏は名称議論に深入りしない。「役職名がCLOであれCSCOであれ物流部長であれ、サプライチェーンを通じて価値を提供することを目指す、それが要点」だと述べた。
CLO選任義務違反や届出懈怠、勧告不履行には罰則や公表措置が設けられているが、深井氏は罰則の機能について明言を避けた。9万トン以上という対象基準についても「9万トンの数字自体に意味はない」とし、線引き自体に過大な意味は置かない。同基準は、日本全体の貨物量の相当部分を対象にする線引きとして設定された。「合理的か非合理かでいえば、どちらでもない」と整理する深井氏が重視するのは「まず始めてみる」姿勢だ。CLO選任義務化そのものについては変革を進めてきた事業者にとって「やりやすくなった」と評価する。行政のサポートも必要だが、まず事業者が新たな仕組みづくりに動き、それがデファクトになった段階で、法制化によって更なる波及効果が狙えるというのが深井氏の見方だ。

便益配分なければ前進せず
行政に最も期待する制度設計上の支援として深井氏が挙げたのが、便益配分(ゲインシェア)のルールメイキングである。サプライチェーン全体の効率化や持続可能性を高める改革では、最初に動いた企業がコスト負担を引き受け、便益が他のプレーヤーに流れる場面が起きやすい。深井氏はこれを「やったもん負け」「ファーストペンギンが損をする」と表現する。コスト上昇側と低下側の間で配分を仕組み化する余地はあるが、「取引関係の中だけでは難しい」。行政が主導でルールを示すことが事業者にとっての有力な支援になるとした。
自社単独の効率化ではなく、サプライチェーン全体の便益配分を制度論として問う点に、深井氏のCLO観が表れている。深井氏は、部分最適による効率化やコスト削減は長続きしないとし、取引先に「日清食品と取引したい」「日清食品の商品を売ってみたい」と思ってもらえる仕組みを作るのがCLOの役割だと位置づけた。
経団連(日本経済団体連合会)は25年10月の提言で、共同物流におけるカルテル懸念の整理、CLO制度運用の見直し、荷待ち時間を含むKPI設計の再検討を政府に求めた。これに対し深井氏は、日清食品としては荷待ち時間を義務対象外にすべきだとは「全く思っていない」と明言した。荷待ち時間の現在の測り方が本当にサプライチェーンの効率化に資しているかについては、もう少し丁寧な議論が必要だとの留保を付けた。

共同物流、着荷主起点で再設計
共同物流の実装例として、20年9月にはアサヒ飲料、日本通運と関東~九州間で海上輸送を組み合わせた共同輸送を始め、トラック使用台数を約20%削減した。一方で深井氏が頓挫案件として挙げたのが、金属板との混載試行だ。
容積率は満車だが重量は軽い即席めん製品を、重量物と組み合わせれば、トラックの重量と容積の両方を埋められる。金属板はその想定にちょうど当てはまる組み合わせで、試走まで進んだ。だが定期化には至らなかった。理由は匂いだった。金属板はその後加工される素材で、加工後の製品に匂い移りが許容できない用途だった。深井氏は「重量と容積で考えれば、十分に成り立つ組み合わせだった」が、「匂いは私たちの切り口に出ていなかった」と振り返り、「ちょっとした驚きだった」と語った。
匂い移り対策については、後に別の業界の企業から関連技術の存在を知ったという。この経験から深井氏は、重量や容積だけでなく、さまざまな商品特性を体系的にデータベース化する必要性を見出した。
異業種間の水平連携(ヨコ)には、データ粒度や名称、商品コードの違い、商習慣の違いがある。日清食品もこれまでヨコ軸で進めてきたが、「決め打ち」のコース設計にとどまり、フレキシビリティを欠いた状態だった。ここから方針を変え、着荷主(卸店、小売店)を起点に、その配下にいる複数メーカーをつなぐ「水平連携(ヨコ)×垂直連携(タテ)」の形に進めている。着荷主は複数メーカーへの発注情報を持つ。メーカー同士が横で組むより、着荷主がオーダーを束ねる方が、組み合わせ設計や納品条件の調整を進めやすい。「直近1~2年はこの方向で動いている」とし、商習慣やオペレーションを着荷主と共に変える形が、最も実効性があるとの考えを示した。
26年4月のCLO義務化を後から振り返った時に「画期的」と呼べる状態に至るための1年間の到達点として、深井氏は現状の可視化と合意形成を挙げる。発注側:発荷主、受注側:着荷主が現場のオーダー頻度、ロット、付帯作業等、全ての業務プロセスとそれに紐づくコストを把握すること。各業務プロセスを最終消費者の価値に因果で結び付け、不要や非効率を特定すること。可視化の結果に基づく改善テーマの優先順位付けと、着荷主を含む合意でパイロットを始めること。3点を順序立てて挙げた。
「皆が現状をきちんと把握する。それがスタートとして最も重要なポイント」と深井氏は語る。参画社数の多寡には意味を見出していない。意志ある先行企業が実効成果を作ることに重きを置く。「まずは先行企業が実際にどこまでできるか」を見据え、意志のあるメンバーが先行的に動けば、横と縦のつながりで波及するとの見方を示す。
5年後のサプライチェーン像について深井氏は、営業、資材、生産、SCMが部署単位で分担してきた役割が、システムでつながり、組織も横断できる形に動くと述べた。「過去の伝統的な部署の役割をこなしているだけでは、もう追いつかない」。一方で「5年先を固定的に予測する意味は薄い」とし、為替、地政学リスクなど想定外の連続を前提に、環境変化に応じてゴールを更新する姿勢を重視した。
中長期計画の初回提出期限は10月末に迫る。深井氏の発言が示す焦点は、計画書がそろうかどうかではない。意志ある先行企業が現場の可視化、合意形成、パイロット実装まで進め、波及の起点を作れるかどうかだ。CLO義務化の初年度は、人数ではなく成果で問われる。

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◆ この記事をより深く理解するために ◆
・特定荷主4割が「CLO選任の予定なし」と回答(2025年12月18日)──「6割いれば十分」発言の背景となった調査。
・四月一日物流改正の全体像(2026年4月1日)──CLO選任義務、特定事業者指定、罰則体系を網羅した解説記事。
・CLOの「罰ゲーム化」を防ぐには(2026年2月17日)──形式対応への警鐘を鳴らす本誌社説。
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