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ホルムズ通航、申告段階に制裁リスク

2026年6月25日 (木)

国際ホルムズ海峡では、通航のためにイラン側へ船舶情報を提出する行為そのものが、米国の制裁リスクに接近し始めた。イランのペルシャ湾海峡当局(PGSA)は、通航前の申請と航路指定を求める。米財務省外国資産管理局(OFAC)は、米国人や米国金融機関などが関わる取引について、イラン政府やイスラム革命防衛隊(IRGC)への安全通航に関わる支払い、保証取得、サービス受領を認めない立場を示している。船社や荷主にとっては、費用の多寡よりも、申請、支払い、保証取得のいずれかが付保、決済、用船契約を止める要因になり得る点が焦点になる。(編集長・赤澤裕介)

OFACは5月27日、ホルムズ通航船への課金に関与するPGSAを、IRGCと結びつく主体として大統領令13224に基づき特別指定国民(SDN)に指定した。これにより、米国人による取引は原則として禁じられ、米国内または米国人の支配下にある財産・財産上の利益はブロックされる。ブロック対象者が単独または合算で、直接または間接に50%以上を所有する事業体も、原則として同様に扱われる。関与する外国の金融機関には二次制裁のリスクが及ぶ。

OFACのFAQ1249は、支払いに加えてサービスの受領も対象としている。イラン政府やIRGCへの安全通航のための支払い、安全通航に関するこれらの主体からの保証取得は、米国人、米国の金融機関、米国が支配する外国法人には認められない。支払いの有無に関わらず、安全通航の保証を含むサービスを受けること自体が禁じられる。関連するアラートでは、対象となる支払いが法定通貨のほかデジタル資産、相殺、非公式なスワップ、名目上の寄付などの現物まで含むとされる。機微な船舶情報の提出も、制裁リスクとして挙げられている。非米国人であっても、イラン政府やIRGC、PGSAが関わる取引に関与すれば、二次制裁、ドル決済、保険、再保険、取引先の制裁スクリーニングを通じて、取引上の制約を受ける可能性がある。

情報提出と付保への影響

PGSAの通航手続きについて、海外の海事報道は次のように伝える。PGSAは6月19日、ホルムズ海峡を通る全船舶に少なくとも48時間前の通航申請を求めると発表した。申請はPGSAが示す様式で行い、有効期間は5日間とされる。船舶はイラン領海内のラーラク島寄りの北側航路を通り、PGSAが発行する通航許可なしには通航できないとされる。申請様式では、船舶、寄港地、所有・管理、貨物、保険に関する情報の提出が求められるとされる。PGSAが承認する保険の付保を条件に含めたとの報道もある。

▲いずれかの段階で確認が取れなければ、通航判断は止まる(本誌作成。米財務省文書、海外の海事報道に基づく)

費用の支払いは手続きの最終段階にあたる。その前に、SDNに指定されたPGSAへ、船舶や寄港地、所有・管理、貨物、保険に関する情報を提出する。申告で出すこの情報こそ、OFACが提供を避けよと警告する機微な船舶情報にあたる。通航許可を得る手続きは、IRGCと連携する指定主体から安全通航に必要な許可や調整を受ける行為として評価される可能性がある。リスクは費用の支払い時点に限られない。通航許可を得るために情報を提出する段階で、制裁、付保、契約上の確認が必要になる。

止まり方も具体的だ。申告した情報が銀行の制裁スクリーニングにかかれば、付保の確認が取れず、船を出す判断が止まる。

費用についても、報道されている60日間の無償措置は、満了後の正式な費用設定を残した暫定対応にとどまる。当初の60日間はサービス費用や保険関連費用を徴収しないとされ、満了後に警備、安全、環境、保険などの名目で正式な費用の枠組みが導入されるとの見方が出ている。

国際法上の評価は、通航そのものへの課金か、船舶に提供された特定サービスの対価かで分かれる。UNCLOS(国連海洋法条約)は、国際航行に使用される海峡で通過通航を認め、沿岸国がこれを妨げられないと定める。米国とイランはいずれもUNCLOSの締約国ではないため、通過通航が慣習国際法として両国を拘束するかが論点になる。領海の通航についても、単なる通航を理由とする課金は認められず、課金できるのは船舶に提供された特定サービスの対価に限られる。制裁、保険、契約の審査では、費用の名称よりも、相手方、目的、保証の内容、情報提供の有無が問われる。

立場別の確認事項

海運の現場では、保険者が付保対象外と判断し、制裁免責や追加条件を示しうる時点で、通航判断は変わる。費用の支払い、安全通航保証の取得、PGSAへの情報提出があれば、P&I(船主責任相互保険)や戦争危険保険の制裁条項、再保険、保険金支払いの可否に影響する可能性がある。費用を支払う前に、保険者がその通航を付保の対象と認め、制裁免責条項を発動しないかを確認する必要がある。確認できなければ、船主・船長が航海指示の受け入れを留保し、用船者が遅延、離路、サーチャージを巡る紛争を抱える可能性がある。OFACの直接の適用がなくとも、ドル決済や再保険の段階で取引が止まりうる。

ドル決済、米国コルレス銀行、米国再保険、P&Iの再保険網、米国向け・米国由来の貨物、米国制裁条項を含む契約、米国人役職員や米国拠点による承認関与があれば、日本企業でも制裁スクリーニングの対象になりうる。立場ごとに、まず確認する相手と項目は異なる。

海峡の再開後も、戦争危険保険料の低下、通常航路の回復、決済や付保の安定には時間がかかる。通航量の回復は、通常化を判断する十分条件にならない。60日間の無償通航の期限が近づけば、PGSAの申請手続きと費用の徴収を巡る扱いが、付保や決済の可否を左右する。米財務省はPGSAへの協力に制裁リスクが伴うとの立場を維持している。無償期間の起点が署名の日か掃海の完了かも明らかになっていない。満了後の費用や保険の扱いが固まるまで、船社や荷主は、申告、保証、支払いの各段階で制裁、付保、決済の確認が必要になる。海峡が通れる状態に戻っても、通常の費用と付保の条件で使える状態に戻ったとはいえない。

◆ この記事をより深く理解するために ◆

「ホルムズ再開の罠、焦点は通航料・保険・ナフサ」(6月18日)/米イラン覚書による再開と60日間の無償通航を整理し、海峡が開いても保険・決済・船腹が戻らない通常化の条件を示した。本稿の前提にあたる。
「ホルムズ通行に200万ドル、イランが制度化」(3月28日)/通行料の制度化と人民元決済、戦争保険料の急騰を報じた。本稿の費用論点の前段にあたる。
「原油90ドル突破、ホルムズ封鎖で湾岸各国が減産」(3月7日)/原油・ナフサ・LNG・石化原料への波及と、日本のエネルギー調達への影響を整理した。費用転嫁の波及先を押さえられる。
「海と空の代替ルート、すでに限界」(3月14日)/迂回の限界、港湾混雑、ナフサ備蓄の制約など、国内物流への波及を報じた。

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