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「保管料商売はやめました」第4回コラム連載

2020年12月7日 (月)

話題大昔ではないが最近でもないという数年前に、請求保管料の「本当の利益額」を精査したことがあった。数値の客観性を得るには、特定企業の単一拠点だけでの試算では偏りの可能性が否めないので不適当だ。それゆえ、相場を適用して支障ない域内に在る複数社・複数拠点を選定し、試算を実行したのだった。

ご承知のとおり、ある事象の答えは式によって導かれる。しかし、答えを認めたくない御仁たちは、その式自体の正誤について議論するのが常だ。つまり、ここに記された私の式を認めるか認めないのかは読み手次第というわけで、その答えも同様となる。異論や異議があることは承知しているので、反論や矛盾点などの指摘は喜んで拝聴・拝読する所存である。

「保管料商売はやめました」第3回コラム連載(https://www.logi-today.com/408869

第4章- 原価と手間賃

■ 保管料の原価

倉庫物件を仕入れて保管料単価を設定し、再販するのはどの物流会社でも行っている。では、保管料項目の利益率はどう計算しているのだろうか。

保管料請求金額-(仕入原価+水道光熱費按分額+マテハン償却費+雑費)=保管利益

(イメージ画像)

大多数の管理会計上の式がこのような形になっていそうだ。しかし、ここで大問題なのが、仕入原価以外の費用項目に入る数字の正確性だ。適当性・妥当性と言い換えてもよいだろう。つまり、「本当にそうなのか」が最大の焦点となる。

さらには、実請求対象の総面積と仕入総面積は、一致しないことがほとんどだ。一般的には「請求総面積 < 仕入総面積」となるのが常だが、倉庫会社によっては逆転していることもある。とある満床状態の倉庫拠点における荷主別の保管料請求面積の合計が、その総面積をはるかに超える数字になっている…というものだ。多くはないが珍しくもない話である(往々にして”主犯”は「通路」なのだが)。かように、保管料の収支の実態は非常に不明朗で、精査には厄介が付きまとう。

■ 実際にやってみたら

結論から書けば、徹底的に精査した結果、近畿圏の複数倉庫を調査対象として合計総床面積2万8000坪の平均請求単価3870円に対し、仕入原価と保管業務に必要な諸経費を差し引いた残額は93円だった。

最初に算出した時には「まさか…」「いくらなんでも…」と再計算したが、やはり同じ数字。数人で何度も検算したが、根拠となる全項目の数値は実際支払われた実費に間違いなく、導かれた解も「現実」以外の何物でもなかった。保管料にまつわる今までの苦労や交渉の摩擦や決裂の記憶が脳裏をめぐった。

「いったいどういうことだ。1万坪3870万円の請求にかかわる気苦労や手間の果実の全量は93万円だというのか」

一口すすったら終わりの果汁は、妙にすっぱくて涙が出そうだ――と呆然自失となった記憶が今も鮮明だ。

■ そもそもの原因

驚愕の事実が判明した翌日から「もし物流会社が保管料請求の改変をするとしたら…」という課題を設定し、その方策試案の作成を始めた。

まずは、収支の元になる保管料単価自体の根拠から、改めて検証することにした。いわゆる「相場」「市況」「傾向」と広報され、報道され、広く流布している情報自体を事実と思い込むことは止めて、全部疑ってみることにした。「有効使用面積の正確化」――つまり、デッドスペース比率の再認識とその歩留まりを考慮した適正な請求金額の試算。その答えはすぐに出たが、割増請求できる現実味は薄い。正解を抱えたまま立ち往生する自分の姿を俯瞰しているようで辛かった。正解は正義ではない。そんな言葉が浮かんだ。

(イメージ画像)

「数字で説明して、相手が理解して納得できる代案はこれだろう」と結論付けた中身は、試算に取り掛かる前から腹案として温めてきたものと同じだった。運賃と同じく、原価開示の上で維持費用の負担を求める。問題は営業倉庫各社が、運賃請求方式を改めたときのように、中間介在から離脱できない点だ。転貸状態の保管料請求に付きまとう条件を踏まえた新しい請求方法は、難産になりそうな気配だった。

それから数年たった今、かなりの現実味を感じているのは、「従来は業者間にとどまっていた情報の一般向け開示」という要素が加わったことにほかならないだろう。
ひょっとしたら既に実行している物流会社が存在するかもしれない。

―第5回(12月14日公開予定)に続く


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