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LT Special Contents/物流施設特集・東京ベイエリア編(下)

利用者が許容できる賃料明らかに-東京/横浜/川崎/千葉

2021年6月8日 (火)

話題LOGISTICS TODAY編集部が4月13日から5月17日にかけて、物流企業や荷主企業を中心とする読者から3970人をランダムに選定して実施した「東京湾岸地区の物流施設ニーズに関する実態調査」(有効回答数1205件、回答率30.4%)の結果、32.9%が東京湾などのベイエリアに物流施設を設ける可能性があると回答、その半数以上が3000坪以上の大規模スペースを求めていることがわかった。

この記事では、東京湾岸エリアの物流施設に求められる機能や、東京港・横浜港・川崎港・千葉港それぞれの「許容できる賃料」について掘り下げる。(編集部特別取材班)

物流施設特集・東京ベイエリア編(上)のトピック
・東京湾岸エリア、関心度1位はTRC物流ビルA棟
・開設検討企業に限定すると順位に変動
物流施設特集・東京ベイエリア編(中)のトピック
・労働者確保が最大のテーマ-港湾エリアの物流施設
・「港湾」特有の制度が心理的ハードルに

東京湾岸エリアの物流施設には少なくないネガティブな要素があるとはいえ「今後、港湾地区に物流拠点の開設を検討する可能性がある」と答えた32.3%のうち、実に半数以上(53.1%)が「3000坪以上の広い面積」を必要としていることが判明した。さらにいえば、1万坪以上を必要とした回答者も15.6%存在しており、これらの調査結果は、港湾エリアにおける大規模な物流施設の需要の強さを裏付けるものだろう。

■ 道路幅や待機スペースなど、トラックへの配慮に高い支持集まる

「東京湾岸に物流施設を開設する可能性がある」とした回答者は、具体的にどのような機能を重視し、また不要だと考えているのだろうか。多くの回答者が「不可欠」もしくは「重視する」と答えたのは、「周辺道路の幅」「車両待機スペース」「駐車スペース」「事務所スペース」「5メートル以上の天井高」などで、ここに挙げた項目はいずれも8割程度の高い「支持率」を獲得した。

「不可欠」が目立ったのは「耐荷重1.5トン」や「40フィートトレーラー対応」で、「45フィートコンテナトレーラー」についても半数が「不可欠」もしくは「重視する」と回答し、港湾物流施設ニーズの特性を表す結果となった。

逆に「託児所」「築年数」「バス停からの距離」といった項目で「不要」や「重視しない」が比較的多かったのは意外だったが、「クレーン」「冷凍・冷蔵設備」「くん蒸設備」「平屋構造」「低床」「高床」「低床+高床」などの個別のニーズに対応する機能群で要不要がわかれたのは、当然ともいえる。

<物流施設の機能別支持率>

■ 許容できる賃料はいくら?-東京湾岸物流施設ニーズを深掘り

物流施設の選定に際して「賃料」ほど、貸し手と借り手の思惑が激しくぶつかり合う要因はない。貸し手は土地の仕入れ、建築費、資金調達先からのプレッシャー、周辺物件の賃料相場、自社の経営戦略や財務状況との兼ね合いなど、多岐にわたる要素を考慮しながら賃借希望者との交渉に臨み、借り手も荷主の意向、自社の営業力、人員確保はもちろんのこと、将来のフトコロ事情も考え合わせる必要がある。

こうした物流施設の賃貸借にかかわる「つばぜり合い」に臨むためには相場情報の事前チェックが欠かせないのはいうまでもないが、多くは「募集時賃料」と呼ばれる貸し手が提示する金額の相場を示すものとなっている。倉庫の賃貸借にはさまざまな条件交渉があり、これらの個別の事情を加味して実際の賃料が決まるため、妥結相場の実態を把握するのは難しい。

そこで今回の調査では、東京、横浜、川崎、千葉の各港エリアに物流施設を設ける場合に「許容できる賃料」を調べ、集計した。手元の相場表をチェックする際の参考にしてほしい。

■ 実態との金額差大きく-東京港エリアの許容賃料

東京港エリアでは、坪単価4000円台が31.2%で最多となり、5000円台が24.9%、4000円未満が19%と続くものの、4000円未満から6000円台まで比較的、満遍なく分散している印象が得られた。

ところが、エリアごとの相場情報に通じている回答者が比較的多いと思われる「東京湾岸エリアに物流施設を開設している」層(回答者の47.1%)に限定した場合、4000円台は37.5%へと増加し、5000円台もわずかに増えた一方、4000円未満は大幅に減少する結果となり、実態に通じている分、許容賃料の範囲が狭まったと考えられる。

ただ、編集部が今回の調査とは別に主要な物流企業にヒアリングしたところ、東京港エリアの実質的な賃料水準は「6000円台から7000円台」という回答が多かった。このことから、調査結果は利用者(借り手)の願望が強く反映され、低めに振れたものと捉えるのが適しているだろう。

「港湾地区に物流施設を開設する可能性がある」と答えた層の許容賃料帯をみると、4000円台が35.9%で最も多いのは同じ傾向だが、全体の回答に比べて5000円台の回答が減少し、6000円以上の回答が増加。賃料は高くても求める機能が高度化していたり、需給のひっ迫状況を踏まえて回答したりといったケースがあるとみられる。

■ 実態との金額差大きく-横浜・川崎・千葉港エリアの許容賃料

横浜港エリアでは4000円台が35.1%で最多となったが、3000円台が25.9%、3000円未満が13.2%と、東京港エリアに比べて大幅に水準が下がった。編集部のヒアリング結果を総合すると「まれに3000円台後半も存在するが、多くは4000円台半ばであり、機能の高さによっては5000円台も十分あり得る」といったところだ。

東京港と横浜港に挟まれた川崎港エリアは、全体として横浜港と同様の傾向を示しつつ、どちらかといえば下振れた印象だ。3000円台と4000円台が同率の30.7%で最多となったほか、3000円未満も15.1%と横浜港エリアより増加している。ただ、羽田空港に近い東扇島や浮島地区で東京都心部へのアクセス向上が進むことへの期待が高まっているためか、5000円台の回答が横浜港エリアと同水準になっており、このエリアの動向を把握する上でカギとなりそうだ。

千葉港エリアでは、3000円未満、3000円台、4000円台が29%前後で同水準となった。浦安や船橋などで高機能な物流施設の開発が進んだため、5000円台も7%近い回答があったものの、やはり横浜から東京にかけての京浜エリアに比べると、許容賃料帯はやや低めに振れた。

■ 編集後記-東京湾岸エリアの物流施設

今回は、東京ベイエリアの物流施設ニーズにフォーカスした企画で編集しましたが、回答者からは「港湾倉庫の老朽化が進んでいると思われるが、今後どのように再開発されるのか興味がある。たとえば、倉庫会社が共同して大型物流倉庫に建て替えるなどの動きはないのか」といった、秀逸なアイデアのようにも受け取ることができる問い合わせがみられました。

また「退去する際の修復営繕が異常に高い」「湿度が異常に高くなる」「〇〇コンテナターミナル周辺の車両混雑がすさまじい」「税関の管轄エリアによって見解や対応に異なる点が多い」など、港湾エリアならではの課題を指摘する声も多く寄せられました。掲載しきれなかった調査結果や、クロス集計による編集部の分析結果についてもまとめ、協力していただいた回答者に詳細版のフィードバックとして提供することにしています。

次回はバース管理(トラック予約)システムに焦点を当てた調査企画を進め、その後も「物流業界の関心事」を深掘りする特集を続々とお届けする計画です。LOGISTICS TODAYでは今後も読者の力を借りながら、その結果を還元することで、物流業界の発展に寄与していきたいと考えています。

LOGISTICS TODAY編集部一同