ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

関西の港湾は食品物流の中枢拠点になれるか

「天下の台所」復権のカギ握る長距離フェリー

2022年5月18日 (水)

話題江戸時代から物流の中心地として栄えた大阪。海沿いには蔵屋敷がずらりと並び、全国各地から船で運ばれた物資が取引される商業の街は、まさに「天下の台所」として国内のロジスティクスセンターの機能を果たしてきた。日本海海運で活躍した北国廻船「北前船」は、こうした活気ある商人の街を象徴する存在として今にその名を伝えている。

そして現代。再び大阪を海上物流の結節点として再定義する動きが加速している。ここで北前船の役目を演じるのが、長距離フェリーだ。全国有数の長距離フェリー発着回数を誇る大阪湾岸。大型トラックやトレーラーが港に横付けされたフェリーに次々と乗り込む姿は、まさに現代版の「天下の台所」を彷彿とさせる。思い起こせば、1968年に国内で初めて就航した長距離フェリーは、阪九フェリーが運航する神戸・北九州間の「フェリー阪九」だった。

こうして関西に根付いている長距離フェリーによる貨物輸送ビジネス。物流ビジネスの変革期を迎えて、これまでにないほどの高い注目を集めている。長距離フェリーは物流のあり方をどう変えるのか。新日本海フェリーの能戸昇志・常務取締役に聞いた。(編集部・清水直樹)

フェリー貨物輸送で花開く関西の港湾機能

関西経済の栄枯盛衰を語るうえで切り離せないのが、海上輸送だ。「天下の台所」としての発展はもちろん、その礎を築いたのは海運だった。同時に、奈良時代の「大輪田泊」をルーツとする神戸は、明治以降の通商の表舞台に君臨。その両港はそれぞれ独自の歴史を生み出してきた。

その両港は今、奇しくも同じビジネスの拠点として発展を続けている。長距離フェリーターミナルだ。関西は長距離フェリーのメッカとして、揺るぎない存在感を誇る。

――関西は長距離フェリーの要衝として発展してきた。

能戸 3つの要因がある。まずは、関西圏が首都圏と九州のちょうど中間地点に位置すること。瀬戸内海や太平洋に近く、海運の交差点として大阪や神戸の港が機能していること。最後に、関西圏に独自の産業があるということだ。

――関西圏の独自産業とは。

能戸 農産物では灘の清酒や和歌山のミカンが代表例だ。特色ある付加価値の高い食品や加工品が、関西では盛んに取引されてきた。さらに、近代以降に関西で発展したのが電機産業だ。家庭やオフィスなどに普及する電気機器は、関西のメーカーが発祥であるものも少なくない。さらに、原料輸入に適した港を背景に関西で発展した製鉄業も、こうした海上輸送の需要をもたらした。こうした品目の共通点は、重量がある貨物てあること。モータリゼーションが進展しても、こうした貨物の輸送は長距離フェリーをはじめとする船舶が最適であることに変わりはない。

――関西発着の長距離フェリーと言えば、花形はやはり九州航路だ。

能戸 関西と九州、特に北部九州は経済的なつながりが非常に強い。関西から九州への貨物、さらに九州から関西への荷物。相互に一定の貨物量を確保できて初めて、フェリーによる貨物輸送ビジネスが成立する。瀬戸内海航路は長距離フェリーの発展を考えるうえで、重要な実績を創出してきたと言える。

関西・北海道のフェリー輸送はEC時代だからこそ本領を発揮する

関西における長距離フェリー事業のターゲットは、瀬戸内海を経由した北部九州が定番だ。それに加えて、近年は新たなエリアを対象としたフェリー貨物ビジネスを模索する動きが強まっているという。その目的地は、まさに北前船の再来とも言うべき北海道だ。

――九州のほかに、関西を起点とした長距離フェリー貨物輸送のビジネスが注目されている。

能戸 日本海側の各都市と北海道を結ぶ航路だ。かつての北前船にように関西から直接北海道へ航行するわけではないが、舞鶴(京都府)や敦賀(福井県)から北海道の小樽や苫小牧へフェリーでアクセスできる。関西からは、京都縦貫自動車道や舞鶴若狭自動車道を経由して舞鶴まで早ければ2時間だ。しかも、本州は弓状に東へ張り出した形をしているため、北海道へは陸路よりも航路の方が大幅に距離を短縮できる。そのため、本州を高速道路で縦断するのとほとんど遜色ない時間で輸送できるのが特徴だ。

――モーダルシフトの観点からも、長距離フェリーの優位性は高そうだ。

能戸 フェリー貨物輸送ビジネスにとって追い風になっているのが、こうした環境対応の機運の高まりだ。北海道への貨物輸送モードとして日本海フェリー航路という選択肢を荷主企業などに認知してもらえれば、高速道路と組み合わせてモーダルシフトを意識した輸送が実現する。フェリーの活用方法を広げる契機になればよい。

――関西と北海道との輸送に長距離フェリーを活用するメリットは。

能戸 北海道発の貨物には、輸入で代替しにくい品目が多いのが特徴だ。その代表例が生乳だ。加工前の生乳は鮮度が命であることから、定時性の高い輸送モードが欠かせない。さらに非常に重量があるため、船舶での輸送が最適だ。北海道の農産品は国内市場でも非常に競争力があり、輸送ニーズも高い。こうした観点でみると、九州発の農産品を輸送する瀬戸内海航路とは事情が異なり、路線ごとに特色があるということだ。

――関西から北海道への貨物も増えているようだ。

能戸 EC(電子商取引)による消費スタイルの多様化は、あらゆる輸送モードの「前提条件」を変えている。関西発の長距離フェリーも例外ではない。北海道への幹線輸送は、消費のECシフトで物量が急増している。なかでも、関西発の貨物は食品の比率が高いのが特徴だ。「ふるさと納税」の返礼品も含めて、食品輸送は関西における長距離フェリービジネスに大きな追い風となっている。

食品輸送に強い長距離フェリーの発展が「天下の台所」を復権させる

長距離フェリーが運んでいる貨物の種類は、社会の動きを反映して変遷を遂げていることがわかる。関西の港を出発する長距離フェリーに求められる機能は、今や食品物流の幹線輸送機能なのだ。ここで、あるフレーズが頭によみがえって来ないだろうか。そう、江戸期の「天下の台所」の復権だ。

――関西に長距離フェリーの拠点が集まるメリットは、まさに今の時代だからこそ最高潮に達している。

能戸 北海道産の食品も、もちろんこうしたEC需要で伸びていることを考えれば、もはや九州航路を含めた全国的な傾向にあると言えるだろう。北海道や九州から、全国の食材が関西に集まり、それがさまざまな形を経て再び全国へ運ばれていく。こうした全国規模での幹線輸送を担うメインプレーヤーとして長距離フェリーが位置付けられることにより、ビジネス機会は今後さらに高まっていくと考えられる。

――こうした食品を軸とした長距離フェリー輸送ビジネスのさらなる展開にあたっての課題は。

能戸 航路を開設しても、それを利用する運送事業者を開拓しなければならない。いわゆる大手の輸送企業をはじめとする事業者には、ドライバー就労環境の実効的な改善効果やトレーラーだけを甲板で輸送する「無人航送」の優位性、さらにはEC市場の拡大による物量増への柔軟な対応力など、長距離フェリーが他の輸送モードよりも卓越したサービスを提供できる強みを丁寧に訴求していくことが大切だ。それが関西を含めた長距離フェリービジネスの発展と、幹線輸送全体の最適化につながる。

■物流施設特集 -大阪湾岸編-