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待機時間削減のカギ握る、バース予約システムの今

2023年9月25日 (月)
 

話題待機時間、荷役時間の削減は、「物流革新に向けた政策パッケージ」でもまず最初に提示されていることから、国策として対応が急がれる課題であることがわかる。

トラックドライバーの本来業務である運転時間を確保するには、発荷主企業、物流事業者、着荷主企業が連携して改善を図ること、その取り組みが不十分な事業者に対しては規制的措置の導入もあるとしたことで、待機時間削減に貢献する「トラックバース予約システム」への需要は高まるに違いない。「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」において「荷主は荷待ち・荷役時間を原則2時間以内に収めること」を定め、2時間ルール順守を明示したことも、システム導入への追い風となることが予想される。

導入の必要性上がるバース予約システムの現在地

矢野経済研究所は2022年10月、バース予約・受付システムの市場動向をレポートしており、それによると、コロナ禍で減退した同システムへの投資意欲が21年度から回復傾向にあるとした上で、24年に向けて導入拠点数は伸長し、23年度に2000拠点、24年度に2500拠点へと市場拡大を予想している。

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一方で、グリーン物流パートナーシップ協議会による21年度の参加企業を対象としたアンケートでは、物流効率化へ向けてバース予約システムを導入しているのは7%程度という結果。他の効率化対策として「輸送ルートの工夫・輸送手段の工夫」といった項目では48%、「共同輸配送」では51.9%がすでに取り組んでいるとしているのに比べて、まだまだ今後の検討事項として傍(はた)に置かれている感も否めない。今後取り組みたいとする企業も同様に7.4%となっていることから考えると、まだまだサービスの一般化までには至っていないが、それだけにベンダーにとっては開拓の余地があるソリューションとも言えよう。当編集部による21年のアンケートでは、「滞留問題が発生している拠点がない」と回答した事業者は7.1%にすぎないという結果も出ており、まだまだ多くの拠点で解決すべき課題を抱えていることは間違いないのだから。

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あるサービスベンダーに話を聞くと、システム自体の認知度がまだまだ足りないことを、今後の導入促進に向けた課題に挙げており、まだまだ歴史が浅いことが、他のDX(デジタルトランスフォーメーション)ツールとの比較検討においての弱みとなっているのではないかとする。また、DXツール全般に共通することではあるが、デジタルそのものへの苦手意識も導入を妨げる原因になっているのではと言う。さらに、導入における重大な判断基準を「コスト」とする事業者が多く、2024年問題を前にして、バース予約・受付システムだけではなく、その他あらゆる「効率化サービス」が競合となり、改革へのコストが高騰していることもハードルとなっている。

現場課題を洗い出し対応する協力関係構築が、バース予約導入のカギ

バース予約・受付システムがもたらす待機時間削減効果については、数々の導入事例を見る限りでは、もはや実証済みとしても良いだろう。1拠点の導入実績から複数事業所での導入へと横展開する傾向が、導入実績数の拡大につなっがていると見られるのも、「使ってみて良かった」という具体的な成果の表れだと思われる。期待したほどの効果がないとする現場報告もあるが、そもそも拠点状況に合わない、システム運用のルール作りにおいて連携ができていない事に起因する事例も多く、あるベンダーは、関係者間の入念な「事前協議」「事前準備」の大切さを強調する。

言い換えれば、待機時間削減への意識が高い発荷主、着荷主、運送会社、施設にとっての、改革へ向けた協議を促す基盤となるのがバース予約システムであり、川上から川下までの協力体制を醸成するツールであるとも言える。物流各工程での問題点を、各事業者が認識し、それぞれの領域での改善を経てバース予約システム導入につなげるのが、後悔しないシステム選びの秘訣と言えるのではないだろうか。


▲自社の運用体制に合わせたバース予約システムを自社開発した福岡運輸。(左から)福岡支店、東京支店。(出所:福岡運輸)

まず、車両台数、受け入れ貨物量、バース数などを踏まえて、それぞれの事情に合わせた予約システムを組み上げていくことが基本である。そこから、バース予約機能はいらない、受付機能だけあれば良いという判断も十分あり得るし、あえて予約全面自動化ではなく、一部手動での受付と併用することでバース効率を上げるシステムを自社開発した福岡運輸の事例もある。まずは稼働状況を適切に把握し、データから課題を可視化すること。そのデータを基に、一日のオーダー数量の制限、付帯作業の料金化など、荷主企業、運送事業者、荷受け企業が協議すること、荷役現場での綿密なルールやコンセンサスなどを組み立てていくことが、何より先決であろう。

バース予約に限らず、増やすべきは川上から川下までの協議の場

バース予約システムを導入しただけで直ちに待機時間が半減するわけではなく、前段階の出荷工程、後段階での荷役時間も合わせて見直すこと、川上から川下まで、物流改革に積極的に関与するという姿勢こそが、システムの機能を最大化する要素となる。

例えば、出荷段階の効率化においては、加工食品業界が早い段階から業界特有の課題を洗い出して対策を進めてきた。発注条件とリードタイムの見直しや、ANS(事前出荷情報)の活用による検品レス、さらには伝票レスへの標準化など、荷主が主導し、業界内の協働でしか変革できなかった事項においての改革を実現。バースでの作業時間を削減する、さらには業界内での共同配送で稼働車両数も効率化するなど、待機時間削減における先行した取り組みとして参考にすべき事例である。もちろん一朝一夕では実現しないことではあるが、問題点の可視化と、その対策に取り組もうとする意識づけ、業界内での関係者協議という、まずは「スタート位置」に立つことは可能ではないだろうか。

出荷からバース荷役までの一貫したパレチゼーションや、さらには外装標準化など、上流から下流までの協調のなかで、改めてバース予約システムとともに具体的な運用に向けての協議を進めるべきことは多い。先導役としての荷主の役割もますます大きくなり、長期的な事業計画として物流改革に取り組む局面である。

さらにその先「標準化」で求められる、「競争と協調」でのサービス開発

荷役現場の効率化に関してのサービス、ツールに関しては数え上げたらキリがない。バース予約システムのベンダーも、待機の前後工程についてもさらに効率化できるように、トラックの運行管理システムや配車システムとの連携、バース到着後のトラック車両をカメラで管理するバース車両管理との連携、荷役作業に直結するパレット管理システムとの連携、さらに荷役自動化倉庫でのWES(倉庫運用管理システム)連動システムを提供するなど、さらに最適化を目指す技術が多数登場している。

トラックが倉庫に近づくだけで入退場受付登録できるシステムなど、付加価値を加えたソリューションでの「競争」が、業界内の価格競争や成長が後押ししているのは間違いない。しかし、その一方でシステムの乱立が導入を迷わせているとの指摘もあり、「標準化」も課題に挙げられている。先述の加工食品業界では、日本加工食品卸協会が独自のバース予約システムを開発・運用し、関係者が利用しやすい業界内標準を構築した例もある。国が主導する形で、物流情報標準化に向けた各ベンダーへの働きかけも行われており、競争領域での成長とともに、標準化を主導することによる企業価値創出、例えば「トラック予約情報集約データベース」のような共同プラットフォームの構築を先導することにも、ユーザーとしては期待したいところだ。

さらに、「バース予約」「倉庫管理」「庫内作業」「車両手配」「運行管理」など、物流の各段階の貴重なデータ、ノウハウが、その前後やサプライチェーン全体でスムーズに連携するためにも、将来的には各工程ごとの共有データを、さらに大きな「協調領域」としてオープンに活用できる物流プラットフォーム形成の動きも加速していくだろう。システム提供事業者としては、まずは業界を主導できるプレゼンスを高め、連携できるパートナー作りも視野に入れた「競争と協調」両輪での物流改革を進めてもらいたい。