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震災直後に能登へ支援物資輸送、ピーアール

2024年2月16日 (金)

環境・CSR1月1日に発生した能登半島地震。陸路が各所で寸断されているなか、発電機をはじめとする支援物資を30時間かけて輸送した、さいたま市岩槻区の運送業者、ピーアール。物資輸送の経緯とともに、同社の取り組みについて同社代表取締役の野口知司氏に聞いた。

▲代表取締役の野口知司氏(出所:ピーアール)

崖崩れの横をすり抜け、能登に発電機を輸送

能登半島地震が起きた直後、会社の顧問から野口氏に電話があった。「能登の被害に対して会社で何か行動を起こさないのかと問われたが、元日で会社も動いていないこともあり、その日は特に動き出すことができなかった」という野口氏。「仕事始めの1月4日にメンバーと顔を合わせると、自然と話題は能登の震災のことに。話し合った結果、何か支援の動きがあるかもしれない」と考え、春日部市役所を訪ねたという。

すると、被災地に発電機を送りたいという企業がいたので、二つ返事で輸送を引き受け、2トン車で運ぶことにした。しかし、念のためにと地元企業の団体に被災地に運ぶ荷物を募ったところ、瞬く間に18社から手が上がったため、当初はトラック1台で運ぶ予定だったが、2トン車、3トン車の2台で能登に向かうことにした。1台は野口氏が、もう1台は同社専務の塚田高志氏がハンドルを握った。

春日部を夜に出て輪島を目指したものの、高岡、氷見当たりまでは道路状況もそれほど悪くなかったが、能登半島に入るとそこここに震災の激しい爪痕を目にすることになる。

▲崖崩れの様子

「山崩れや地滑りで2車線の道路が無くなってしまっている場所などを目にしながら進んだ。続く余震で今さっき山が崩れてできたばかりといった感じの崖などもあった」(野口氏)なか、無事に輪島にたどり着いたのは翌日の13時。「目的地にたどり着いて、現地に発電機などの物資を届けることはできたが、現地の惨状や困り果てた人たちの表情を見ていると、とても達成感を感じている余裕はなかった」(野口氏)という。荷物を下ろして帰路につき、会社に戻ってくると、出発から実に30時間が経過していた。

周囲には、数十万円という運賃で被災地への物資輸送を請け負っている業者もいたが、「ピーアールは無償輸送になったが、営利企業なのだから、それで利益を上げる企業があってもいい」(野口氏)と言う。野口氏も無償では何度も引き受けることは難しいと考えているというが、もしもまた同じ状況で同じように荷物を運んでほしいという依頼があったらどうするか、という問いには「また同じことがあれば、やはり引き受けるでしょう」と答えた。

野口氏の考える物流とは「衣食住の全てに関わる仕事であり、社会の血液」だ。「コロナ禍では荷主の事業が止まって運送の仕事も減って苦労した」そうだが、そんな時でも誰かが必要とする食品や生活物資を運び続けるのが物流、運送の仕事だと考えている。「社会に不可欠で重要な運送という仕事やトラックドライバーであることに、誇りを持てる社会にしていきたい」と力を込めて語った。

変化の時代にDX化で対応

▲5台の中古トラックからスタート

5台の中古トラックからスタートし、ことしで創業14年を迎えるピーアール。24年問題で変化を求められる時代を乗り切り、野口氏はこれからもますます会社を発展させていく強い意欲を持っている。

そんな野口氏が今の状況下で重視しているのは「ルールを守ることと、DX化を推し進めていくこと」だという。ことし4月からはトラックドライバーの超過労働時間が960時間に制限されるが、「変化に対応できないという業者もいるが、ルールなのだから対応していくしかない。対応できれば生き残っていけるが、対応できなければ事業が継続できなくなったり、身売りするしかなくなるのではないか」とし、「ピーアールは新しいルールと変化に対応することで確実に生き残っていく」と意気込みを語った。

こうした変化への対応のためにも、同社は精力的にDX化を推し進めているが、その1つがX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)が提供するノンデスクワーク向けクラウドサービス「ロジポケ」だ。ロジポケは労務管理や運行管理、出退勤などがオールインワンされているクラウドソリューションで、管理側はパソコンで、各ドライバーはスマートフォンやパソコン、紙の書類など、リテラシーに応じた手段で利用可能だ。野口氏自身は「ITへの理解はほとんどなかった」というが、4年前に入社し、能登への支援物資輸送にも同行した塚田氏の存在が大きいという。他の企業での業務管理の経験を生かし、業務の効率化や、同社にとって新事業となる倉庫業の仕組み作りなどを手掛け、ITソリューションの導入にも手腕を発揮している。

野口氏は「使ってみればわかるけれど、DXは省人化に有効なことは確かだが、導入してみなければわからない部分も大きい」と真情を吐露する。また「しかし、いざ人が足りないとなったときに検討を始めたのでは遅い。労働人口が減少するということがわかっているのであれば、すぐに導入するべき」と強調した。

生き残れるのはルールを守れる会社

貯金もないなか、政策金融公庫で借りたなけなしの300万円で購入した5台の中古トラックからスタートした同社も、現在では47台のトラックが稼働し、50人の従業員を抱えるまでに成長した。

倒産した運送会社のトラックと従業員、そして利益の出ない配送ルートを引き受けたこともあったが、「同じルートでの配送を継続していくために必要な運賃や業務のプロセスの改善を荷主に交渉して、改善してきた」(野口氏)こともあったという。「24年問題に対応するために荷主との交渉が必要になったが、こうした経験が生きた」と振り返る。交渉の甲斐があり、23年中にそれぞれの荷主と運賃や業務の内容について協議した結果、「ほぼすべての荷主が運賃の値上げを承諾」した。値上げを承諾しなかった企業の中には名だたる有名メーカーもあるというが、そうした企業の仕事は「23年いっぱいで、受託を終了」したという。

多くの運送業者にとっては乗り越えるべき課題も多く、業務の改善に苦しむところも多いが「24年問題はチャンス」という野口氏。現状、国内には6万社を超える運送業者が存在するが、野口氏は「車数が多くなりすぎたが故に、ダンピングが生まれ、運賃が低水準にとどまってしまっている」とした上で、「新制度に対応できない業者は倒産、合併、事業譲渡などで数が減っていくはず」と見る。また、そうした状況下で勝ち残るのは「ルールに沿って経営できる企業だろう」と語った。

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LOGISTICS TODAY編集部
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