話題一口に「倉庫の見える化」といっても、その切り口は無数にある。ただ漠然とデータを集積しても、庫内作業の効率化は実現しない。どこを見える化するのか。そこからどのような問題を抽出し、解決に導くのか。物流のDX(デジタル)化を推進するメーカーに求められているのは、課題解決につなげられる「視点」だ。
WMS(倉庫管理システム)の先駆者的な存在であるシーネット(千葉市美浜区)と、倉庫内の可視化に取り組み続けてきたKURANDO(クランド、東京都品川区)は協働を進めることで何を「見ようとしている」のだろうか。
ヒトとモノを同時に見つめる、シーネットとKURANDOの協働
シーネットとKURANDOは、どちらも倉庫の「見える化」を企図する企業だ。
シーネットの「ci.Himalayas/Compass」は物流のKPI(重要達成度指標)を可視化するシステム。同システムが主に追うのは「モノ」の流れだ。倉庫内外を行き来するモノのデータを蓄積・分析することで課題を抽出し、作業の効率化をはかる。物流に関わるデータは多岐に渡り、そもそもKPIを設定すること自体が困難なのが実情だ。同社の強みは漠然となりがちな「物流の効率化」という目標を可視化できるところにある。
一方、KURANDOが開発した「ロジメーター」は「ヒト」を管理するシステム。倉庫作業員はタブレットで作業を選び、QRコードをかざす。作業終了時にも同じ手順を踏むことでその作業にかかった時間を割り出せる。作業時間の計測はアナログでも行うことができるが、デジタルと比べると人的ミスが多くなる上、集計にも時間がかかる。その点、デジタルなら即座にデータを収集でき、すぐにでも効果的な施策を練ることができる。
異なる視点を持つ両社のシステムが連携することで庫内のヒトとモノ、すなわち倉庫の全方位を視界に収めることが可能になる。まずはシーネットのci.Himalayas/Compassがモノを追い、生産性の把握や、在庫の回転期間、タッチ率などを可視化する。さらにKURANDOのロジメーターがヒトに目を向け、作業員のアイドルタイムなどの把握に努める。
モノの流れとヒトの動きには密接なつながりがある。モノの流れが理想的に見えたとしても、ヒトの動きには無駄があるかもしれない。また、ヒトの動きがよかったとしても、それが事業者目指す効率化に結び付かなければ意味がない。2つのシステムが「見える化」するのは、その倉庫が抱える「本当の課題」だ。
両社はさらなる機能の強化をはかるとともに、2つのシステムの連携を進め、誰もが簡単に利用できるツールに昇華させることを今後の目標としている。8月23日の「第2回物流DX会議」では、より詳細な目標地点が示される見通しだ。
現状、単一のシステムで倉庫全体の状況を把握することは難しい。対モノと対ヒトとでは、必要なノウハウ、ユーザーへのアプローチ方法も異なる。今回の連携は、より完全なツールをつくるためには企業同士が手を取り合う必要があることを示す、一つの好例になり得る。