
話題首都圏エリアの巨大商圏を配送ターゲットとする神奈川県は、EC(電子商取引)の隆盛による物流需要で、都心から郊外への立地拠点エリア拡大の受け皿となってきた。横浜市や川崎市などの政令指定都市を擁する巨大消費地として、また都心へのアクセス利便性から、首都圏配送の戦略拠点に位置付けられ、神奈川エリアの圏央道周辺では、2008年から物流施設開発が本格的に始まり、各エリアのインターチェンジ(IC)を基点とした、厚木市など新たな物流要衝が誕生している。22年には21棟、139万4600平方メートル、23年には23棟、153万7500平方メートルと施設供給のピークを迎え、ことし以降も年間50万平方メートル前後と、ややスケールが縮小するとはいえ市場を拡大し続けている。
神奈川県第3の政令都市・相模原市の物流ポテンシャル
今回特集する相模原市は人口72万人以上、神奈川県第3の政令指定都市である。県下の物流要衝として知られる厚木市の23万人や、東京都下の近接する八王子市(56万人)、町田市(43万人)と比べても突出して人口が多く、消費に直結する小売業にとって魅力的な物流立地であるとともに、労働力確保での優位性がある都市だ。
コロナ禍以降は都心回帰の影響で昼間人口の減少が課題になっているとはいえ、神奈川県北部から横浜・川崎へと接続できる物流地としての利便性での評価が揺らぐことはない。相模原市の道路網は、国道16号線と国道129号線が南北に通っており、南北の移動には便利だが東西(都心へのアクセス)移動での利便性や、国道16号線の渋滞などは道路利用の課題とされていたが、1998年に橋本五差路の立体化、そして2013年に圏央道の相模原愛川IC-海老名ジャンクション(JCT)(東名高速道路)、14年に相模原愛川IC-高尾山ICの開通で東名自動車道、中央自動車道、そして関越自動車道が接続されたことが、相模原の物流立地としての価値を大きく高めることとなった。
東西へのアクセス、都心方面への機動力も高まり、神奈川を中心とする狭域から、関東広域、中部・関西方面への首都圏の玄関口としての機能が再評価されることになった。相模原市を中心とした20キロ圏内は厚木市や平塚市、海老名市、さらに開発中の昭島市での大型開発なども含めて施設物件数は166棟、847万平方メートル、うち募集中物件数は44棟259万5000平方メートルという巨大市場であり、この1年だけでも123万平方メートル近い成約面積など、相模原市を中心とした神奈川県下の物流不動産市場の活況は続く。
物流地としての揺るぎない評価で、テナント獲得競争も激化
相模原市内での大手デベロッパーによる賃貸型物流施設の供給本格化は、ロジポート相模原(13年竣工)とDPL相模原(13年)などから本格化し、その後ロジポート橋本(15年)完成の後は、GLP ALFALINK(アルファリンク)相模原の供給でピークを迎えた。総延床面積67万平方メートルを誇る同施設は昨年6月に複数棟からなるプロジェクトの最終棟を完成させ、地域共生やテナント企業間の共創を支えるアルファリンクブランドの第1弾として、新たな物流施設のあり方を打ち出している。
▲(左から)「DPL相模原」、「GLP ALFALINK相模原1」
最近の開発では、国道129号線(JR相模線)沿線、国道16号線(JR横浜線)沿線を中心に開発されており、キャピタランドと三井物産都市開発の共同開発によるCPL相模原南橋本ロジスティクスセンター(22年)やヒューリックロジスティクス橋本(24年)など南橋本駅から徒歩圏内での開発、都市型物件の供給が相次いでいるのも相模原市の物流不動産市場の特色である。5階建て、延床面積9万4000平方メートルにおよぶ東京建物の(仮称)T-LOGI相模原も、相模線の原当麻駅から徒歩でのアクセスが可能で、25年の竣工を目指して開発が進められている。

▲「(仮称)T-LOGI相模原」建設現場
物流適地として積極的な施設供給による競争も激しい。特に相模原市緑区、中央区、南区エリアの物流施設の8月26日時点での募集面積は新規供給などで47万7400平方メートルを超え、現時点での空室率は27.6%と高い数値である。募集賃料は坪あたり5000円を超える物件が増えている一方、成約賃料では4800円を下回るなど、シビアなテナント獲得競争もうかがわれる。
相模原市を舞台にした物流の地域貢献、物流革新の取り組み
相模原市では1980年代中盤から平成にかけて工業団地の造成に取り組むなど、組み立て型加工業などを中心とする全国有数の内陸工業都市としての地位を確立し、バブル経済崩壊後は空洞化に対応した産業振興策に取り組んできた。05年10月には将来にわたる持続的な市内産業の発展を目指して産業集積促進条例を制定し、積極的な企業誘致の促進、工業用地の保全・活用に取り組んでいる。
こうした企業立地の促進を後押しとして物流事業も活性化し、相模原市に本社機能を置く総合物流事業のギオンなど、物流事業を通して地元経済に貢献する企業の成長も促している。
ギオンは昨年、日本GLPとともに、市内の麻溝台・新磯野第一整備地区の土地区画整理事業を実施する共同企業体として市と協定を締結した。14年からスタートした同事業は、大量の地中障害物が発出したことで土地区画整理事業の見直し、障害物の処理に追われて19年から停滞していたもの。25年からの事業再開に向けた、圏央道・相模原愛川ICにも近い産業系用地の企業誘致に、ギオン、日本GLPによる共同企業体として参画し、延床面積10万平方メートル規模の物流施設開発を目指す。市と2社による基本協定締結式でギオン代表取締役会長の祇園義久氏は、「相模原市で創業し、ここまで育ててもらった」と、この事業推進によって地元貢献を果たす意向を示し、29年を予定する工事完了時には、商業施設や住宅の整備と合わせた「まち開き」を実現する予定である。

▲相模原ギオンスタジアム
ギオンは近隣の相模原麻溝公園内の「相模原ギオンスタジアム」「相模原ギオンフィールド」「相模原ギオンスポーツスクエア」などのネーミングライツを取得するほか、地元Jリーグチーム・相模原SCのメインスポンサーを務めるなど、スポーツ振興を通した地域貢献にも積極的に取り組んでいる。相模原市に桜の植樹費用の寄付を行うなどの社会貢献にも積極的で、17年にはその功績が認められ紺綬褒章を受賞している。相模原で成長した事業者として、その成果を地元に還元する姿勢は、地域と物流事業のより良い関係性を高めることにも貢献している。

▲ギオンはNLJとの協働でダブル連結トラックによる運行を開始
また、連結トラックによる幹線輸送スキームの構築などで、運送の省人化・効率化とともに混載、積載効率向上に取り組むNEXT Logistics Japan(NLJ、東京都新宿区)のクロスドック拠点が設けられているのも相模原市であり、取り組みに賛同する荷主企業や、ギオンなどの物流事業者などパートナー企業が協力して、次世代の幹線輸送のあり方を検証、社会実装を進めている場となっている。NLJが進める次世代幹線輸送スキームは、この相模原の拠点が首都圏の玄関口となっており、相模原市の立地が次世代物流構築の基盤として活用されている。巨大消費地を背景にした狭域と広域の配送利便性を兼ね備えたエリア特性は、今後もこうした先進的物流、革新を育む場となるのではないだろうか。
「物流」と地域の良好な関係、先進化後押しが高める物流地の価値
近年相模原市では、リーディング産業に該当する企業の新規投資を促進し、ロボット産業へのインセンティブを強化している。さらに、人口減少社会における労働力不足に対応し、企業の産業用ロボット導入を支援する「さがみはらロボット導入支援センター」を設置して、地域産業の次自動化・効率化を後押ししている。

▲さがみはらロボット導入支援センターがある、さがみはら産業想像センター
さがみはらロボット導入支援センターは15年の開設以来、これまでセミナーなどへの参加者含め延べ7700人以上が来所、400件以上の相談に対応してきた。さがみはら産業創造センター事業創造部イノベーション推進課の樽川裕紀氏は、「地域の中小製造業から相談を受けて自動化支援、製造業向けに研修やセミナーの開催などの活動をメインとしている」と語るが、現状は物流関連よりも、構内物流・工場内物流に関する相談が多い状況だという。
市では物流施設の集積が進む状況などを捉えて、物流領域の自動化も推進したい意向であり、先進的な物流自動化施設を整備したオリンパス相模原物流センター(相模原市南区)の見学会を開催するなど、物流関連への活用を積極的に促している。樽川氏は、自動化を進めないといずれ事業の継続が難しくなるなどの危機感、自動化への関心の高まりは感じるというが、まだまだ普及への課題も山積する状況だと指摘。「社内の体制や環境が整わないままロボットを導入した結果、その後の受注減や仕様変更、担当者退職などに対応できず、結局手作業に戻ってしまったケースも散見される。経営計画や戦略に基づく自動化の推進を前提に、現場改善を積み重ねながら自動化・ロボット導入へとつなげることが重要」(樽川氏)と訴える。同センターでも、自動化の意義や課題の普及のみならず、人材育成、資金調達、企業探索などその支援内容を多様化しながら、きめ細かい対応で顕在化する課題への対応を支援する姿勢を明らかにする。中小企業やスタートアップにこそ、自動化が求められる時代の到来に向けて、こうした公的な支援体制もまた、相模原の強みとなっていくのではないだろうか。

▲アルファリンク相模原の共用棟で楽しめる日替わりランチ
ギオンの名前を冠したスポーツ施設周辺には、ジョギングなどを楽しむ人々の姿が見られる。また、開かれた物流施設のコンセプトを打ち出したGLPアルファリンク相模原には、施設内の共用コートでバスケットの練習に励む利用者や、カフェで雑談する学生たちの姿などもあり、物流と地域との良好な関係性がうかがえる。さらに、新たな物流のあり方、自動化のあり方など、地域の後押しや、拠点が集中するからこその連携など、これからのあるべき物流への革新へ取り組む土壌のあるまちとして、相模原市を評価することもできるだろう。
各物流拠点の鉄道駅の入り口ともなっている橋本駅前では、リニア中央新幹線の神奈川県下唯一の駅である「神奈川県駅」(仮称)の建設も続くなど、首都圏南西の広域交流拠点都市としての評価が高まることで、物流戦略再編の拠点としての重要性もますます高まるのではないだろうか。