ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

成約率“99%”達成した、東京建物の対話力

2024年12月18日 (水)

話題今、神奈川が運送事業者の注目を集めている。2022年に21棟(139万4641平方メートル)、23年には23棟(153万7471平方メートル)もの物流施設が建設され、同県への供給量は2年連続でピークを迎えた。

18年から物流業界に参入した大手不動産デベロッパーの東京建物も、神奈川への物流施設建設を積極的に進めている。すでに横浜青葉(22年1月完成)、綾瀬(22年7月完成)、寒川(24年9月完成)には施設を展開済みだ。さらに同社は25年末には「(仮称)T-LOGI(ティーロジ)相模原」を、27年には「(仮称)T-LOGI厚木」を完成させる。不動産デベロッパーが神奈川に注力する理由は何なのか。東京建物ロジスティクス事業部リーシンググループ兼事業グループ課長代理アレン・マイケル氏、同部用地取得グループ兼リーシンググループ勝呂亘氏の両氏から、物流用地としての神奈川の魅力や、同社のスタンスなどを聞いた。

▲(仮称)T-LOGI相模原の完成予定図

大手デベロッパーの注目集める、相模原の魅力

東京建物は25年12月、神奈川の相模原に新たな物流施設(仮称)T-LOGI相模原をオープンする。同社が相模原での開発を決めた最大の理由は交通利便性の高さにある。相模原は関東一円へのアクセスに優れた圏央道や、東西の大動脈である東名高速道路へのアクセスが良く、首都圏はもちろん、北関東や西日本への広域配送も可能だ。そのため高度経済成長期以降、継続して物流施設が多く建設されている。27年には新東名高速も全線開通し、ますます利便性が高くなる予定だ。大手デベロッパーが注目するのも無理はない。

▲狭域図(クリックで拡大)

さらに(仮称)T-LOGI相模原は圏央道・相模原愛川インターチェンジ(IC)からわずか2キロのところに位置しており、高速道路からのアクセスも非常に良い。中部・関西エリアから、首都圏につながる西の玄関口としても十分に機能する。

周辺は人口集積地なため、市内配送も十分な需要が見込めるほか、従業員の確保にも優位性がある。相模原市は73万人の人口を有し、近隣の八王子市(56万人)や町田市(43万人)、大和市(24万人)などと比べても突出して人口が多い。車での通勤を後押しするため、同施設には200台程度の駐車場も用意される予定だ。また、JR相模線・原当麻駅からも徒歩18分と、生活圏と密着した都市型物流施設としての一面も備える。

(仮称)T-LOGI相模原は5層スロープ構造、敷地面積は3万8600平方メートル、予定延床面積は9万5000平方メートルを超える。さらに全フロア合計で125台分のバースを用意した。この収容力と立地の良さの組み合わせは強力な武器になる。

▲東京建物のアレン・マイケル氏

小分けのニーズにも応える方針だ。同施設は1階部分が平屋で、2階以上は2-4階、3-5階のメゾネット方式での貸し出しになる。「このエリアはまとまったニーズだけでなく、3000平方メートル台からの比較的小規模なニーズもあると考えている。小規模ニーズにも対応できる大規模物件を開発することで、幅広い物流事業者のニーズに応えられるはず。現段階では平屋部分は出入りの多い配送メインの事業者、メゾネット部分には荷物の一時在庫保管や仕分など、荷役作業の多い事業者を想定している」(アレン氏)。

環境に配慮された施設に入居することは、テナントにとってバリューになる。T-LOGIはすべての物件で太陽光発電を導入し、施設で使う電力の一部を自力で賄う形をとっている。また、発電した電力が余ったときは、同社の近隣施設へ供給する。災害に備えて24時間稼働できる非常用発電機を完備するなど、BCP(事業継続性)対策も万全だ。

東京建物が誇る「対話」の力も施設の魅力を引き上げている。(仮称)T-LOGI相模原には同社として初めて、休憩などに利用できるテラスが従業員ラウンジに併設される。また、テナントから「トラックバースで車庫証明が取れないか」との問い合わせが多かったことから、同施設には車庫証明を取得できるバースを設置する予定だ。物流施設で不足しがちな駐車場を補うことにもつながるため、テナントからは好感触を得ているという。

「テナント企業が物流施設を評価するポイントは、立地を含めた荷物の運びやすさや使い勝手の良さにある。また、従業員からすれば休憩時間にどれだけリフレッシュできるかが重要。その両者にとって快適な施設をつくりたい」とアレン氏。こうした物流施設のあり方は、施設に関わるあらゆる人々との対話を続けたからこそ、見えてきたものだ。

東京建物の強みは即応力

東京建物が手掛けるT-LOGIシリーズはすでに15棟が始動しているほか、開発が公表済みの物件も15棟ある。同社が物流分野に参入してから6年しか経っていないことを考えると、すさまじいスピード感だ。

事業展開が早いと、顧客対応がおろそかになることもめずらしくない。そういった事態を防ぐため、東京建物は「とどける人の力になる」というブランドコンセプトを掲げている。同社はその実現のため「対話を重ねること」「利便性の高い立地を選ぶこと」「最適な施設を提供すること」「環境に配慮すること」を大切にしてきた。なかでも最も重視しているのは対話だ。「われわれは物流業界に参入してまだ日が浅く、施設数も少ない。だからこそテナントの信頼を得るためには、その言葉に耳を傾け、意見を取り入れる必要がある」とアレン氏は語る。

物流施設運営にあたっては、想定外のトラブルも少なくなかった。例えばシートシャッターやオーバースライダーからの侵入を不安視する声が多かったため、センサーで開閉を感知する仕組みを導入した。インターフォンがエントランスのみに設置されているのは不便だという意見を受けて、館内の事務室に同様のものを設置したこともある。また、開発中の(仮称)T-LOGI相模原では、「休憩スペースの席数に余裕がない」という既存施設からの声を受け、休憩用のラウンジを急遽1フロアから2フロアに拡張した。同社にはただ話を聞くだけではなく、吸い上げた意見を即時実行に移せるだけのスピード感がある。「弊社のロジスティクス事業部は、用地取得、開発、リーシング、管理運営、売却まで、すべて1つの部署で完結している。テナントからの声はすぐに全チームに共有される」(アレン氏)。こうした即応力の高さが評価されたのか、「既存施設の成約率は99パーセント」(アレン氏)だという。

地方展開、冷凍冷蔵・危険物倉庫が今後の物流施設のトレンドか

これまで東京建物は首都圏やその近県で物流施設の開発を進めてきた。開発中の相模原・厚木を入れれば、神奈川県だけでも4棟の物流施設を建てたことになる。しかし、24年問題を踏まえ、今後は地方展開も積極的に行う考えだ。同社はすでに福岡(T-LOGI福岡アイランドシティ)、京都(T-LOGI京都伏見)、愛知(T-LOGI一宮)などに物流施設を展開している。今後はさらに中継拠点の需要が増すことを見越し、大阪((仮称)T-LOGI大阪弁天町)や愛知(江南小牧物流施設プロジェクト)などへの展開も進める。

さらに27年完成予定の(仮称)T-LOGI厚木には、1万4700平方メートルの敷地内に、一般貨物倉庫と併設する形で危険物倉庫2棟を完成させる予定だ。厚木はリチウムイオンバッテリーを多く扱う自動車製造の現場も近く、堅調な需要が見込めるという。同社は今後、物流施設の地方展開、危険物倉庫をはじめとした特殊倉庫の需要が高まると考えている。

▲東京建物の勝呂亘氏

こうした開発の背景について、勝呂氏は「危険物倉庫や冷凍・冷蔵倉庫の賃貸型倉庫は、以前からニーズがあった。施設の汎用性を損なわないよう配慮しつつ、テナント企業が欲しいと思うものをつくるのがわれわれの使命。T-LOGIシリーズは、運用上のかゆいところに手が届く物流施設にしたい」と話した。 さらに、対話の重要性を強調し「われわれ(東京建物)は住宅、商業施設、宿泊施設、オフィスなどさまざまな物件を取り扱うが、そのなかで唯一、自分たちが使用者になれないのが物流施設。そのため、ほかの物件以上に事業者の声にしっかり耳を傾ける必要がある」(勝呂氏)とする。

これからの不動産デベロッパーには、物流事業者のトレンドに敏感に反応し、即応する力が求められる。業界が30年に一度とも言われる変革に見舞われるなか、状況は日々刻々と変わっていくだろう。そのようななかで物流事業者に選ばれる大手デベロッパーに求められるのは、ニーズを的確に引き出す「対話力」ではないだろうか。

「(仮称)T-LOGI相模原」概要

所在地:神奈川県相模原市中央区田名字花ヶ谷戸12004他(地番)
交通アクセス:圏央道・相模原愛川ICから2キロ、JR相模線・原当麻駅から徒歩18分
敷地面積:3万8600平方メートル
延床面積:9万5000平方メートル(予定)
構造・規模:S造、5層スロープ(1階平屋、2-4階・3-5階メゾネット)
完成:2025年12月

https://www.t-logi.jp/property-portfolio/detail/467/