M&A三菱商事は8日、連結子会社で食品卸最大手の三菱食品に対し、完全子会社化を目指して株式公開買付け(TOB)を開始すると発表した。三菱食品も同日、取締役会でこれに賛同し、株主に応募を推奨することを決議した。三菱食品を非公開化することで、両社の経営資源を一体的に活用し、特に物流事業の成長を加速させる狙い。買付価格は1株6340円、買付期間は5月9日から6月19日まで。
物流シナジーを核に成長加速、物流子会社も活用
三菱商事は現在、三菱食品の株式50.11%を保有している。今回のTOBにより、残る全株式(自己株式除く)を取得し、完全子会社化を目指す。最大の目的は、両社間の構造的な利益相反(親子上場による制約)を解消し、経営資源を迅速かつ柔軟に相互活用できる体制を整え、中長期的な企業価値向上を図ることにある。
特に注力するのが物流分野だ。三菱食品が持つ全国をカバーする「3温度帯」対応の物流網や、昨年11月に設立し本年4月から事業を開始した物流子会社「ベスト・ロジスティクス・パートナーズ」が持つ高度な3PL機能・ノウハウと、三菱商事グループが持つ物流知見(三菱商事ロジスティクスのフォワーディング機能など)や幅広い産業のベースカーゴを組み合わせる。
さらに、三菱商事グループのIT・デジタル知見を活用し、配車や倉庫運用の最適化などサプライチェーン全体の効率化を推進。三菱食品が目指す「食品卸の枠を超えた消費財デマンドチェーン」の創出を後押しする。加えて、三菱商事のグローバルネットワークを活用した海外低温物流事業への展開なども検討していく。
非公開化で業界課題に対応、中長期戦略を推進
完全子会社化を決断した背景には、食品卸・物流業界を取り巻く厳しい環境認識がある。少子高齢化による人手不足や「2024年問題」に伴う物流コスト上昇、環境対応といった課題が顕在化するなか、中長期的な視点での経営戦略と大規模な投資が不可欠と判断。
三菱商事、三菱食品ともに上場している現状では、少数株主の利益への配慮などから、大胆な経営資源の投入や効率化策の実行に制約が生じる可能性があった。非公開化によりこれらの制約を解消し、機動的な意思決定を可能にすることで、三菱食品の中期経営計画「MS Vision 2030」達成に向けた非連続的な成長を目指す。
食品卸事業の基盤強化、デジタルマーケティング事業の拡大、海外事業展開、人材育成・交流促進なども、完全子会社化によって加速させる考えだ。
TOBのプロセスと公正性は
TOB価格は1株6340円。買付予定数の下限は、完全子会社化に向けた次の手続き(株式併合など)に必要な議決権(3分の2)を確保できる710万株(所有割合16.31%)とし、上限は設けない。TOBで全株式を取得できない場合は、株式併合などの手続きにより、TOB価格と同額の金銭を交付して完全子会社化する計画で、三菱食品は上場廃止となる見込みだ。
今回の取引は支配株主による子会社買収となるため、構造的な利益相反の問題に対応し、公正性を担保する措置が講じられた。三菱食品は独立社外役員で構成する特別委員会を設置。特別委員会および三菱食品取締役会は、それぞれ独立したフィナンシャル・アドバイザーや法律事務所を起用し、助言を得ながら検討・交渉を行った。TOB価格についても、複数回の交渉を経て当初提示額から引き上げられた経緯がある。
三菱商事は、三菱食品との連携強化により、食のサプライチェーン全体の強靭化と持続可能な社会の実現に貢献していくとしている。
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