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ハード知見ゼロから40日で自作、コミットの裏側にソフト開発者の執念

”スマホ系”AMRは「2枚の絵」から始まった

2026年3月17日 (火)

ロジスティクス自律走行搬送ロボット(AMR)市場において、異彩を放つ企業がある。世界で4000台、日本国内で600台の導入実績を誇るシリウスロボティクスだ。本誌でも同社の型破りな挑戦を複数紹介してきた。

25年10月、日本法人シリウスジャパンのトップにグループ創業者でありCEOのアダム・ジャン氏が就任。本誌編集長との対談において、同氏は日本市場で新たに1000台の導入を目指す戦略と、結果にコミットする新サービス「Result(リザルト) as a Service」の構想を明らかにした。だが、結果を保証するというその絶対的な自信は、どこから来るのか。源泉を探ると、一人のソフトウェアエンジニアの執念と、業界の常識を覆す創業の軌跡に行き着く。

>>【特別連載(3)】初期費用ゼロ・月額6万円、シリウスAMR新料金

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ロボットメーカーの創業者は「ハード」の知見を持っていなかった

シリウスは中国発の気鋭のロボットメーカーとして認知されているが、アダム氏のキャリアの起点は、徹底したソフトウェアとAIの研究開発にある。大学でAIと画像処理を専攻し、日本へ渡った後はNVIDIA JAPAN(エヌビディアジャパン)でソフトウェア開発に従事した。NVIDIA創業者のジェンスン・フアンCEOとは、赤坂のラーメン店で半導体やGPUの未来について議論を交わしたこともあるという。

その後、18年に独立を決意して中国に帰国。だが、当初からロボットの自社製造を企図していたわけではないという。

「AIを用いてAMRを制御し、倉庫や工場の作業効率を劇的に高める。最初はそうしたソフトウェア開発を主眼に置いていました。しかし、自社のソフトウェアを搭載し、要求するパフォーマンスとコストに見合うロボットが、当時の市場には存在しなかったのです」

▲シリウスグループ創業者で日本法人代表を兼任するアダム・ジャンCEO

AIの頭脳を最大限に活かせる「身体」がない。この市場の空白に直面したアダム氏は、自らロボットを開発する決断を下す。シリウスロボティクスの誕生である。創業メンバー4人は、驚くべきことに全員がソフトウェア開発の出身者だった。

資金の15%を投じたスーパーコンピューター「40万元」

ハードウェアの知見を持たない4人が、いかにしてロボットメーカーを立ち上げたのか。彼らの最初のアプローチは、部品を買い集めることでも、図面を引くことでもなかった。

「初期投資の300万元(当時のレートでおよそ6000万円)は私が単独で出資しました。真っ先に行ったのは、そのうち40万元を投じてスーパーコンピューターを購入すること。その名も『40万元』です(笑)。手元資金の15%以上を占める額でしたが、このスパコンを使って、シミュレーターとソフトウェアの開発に没頭しました」

▲本誌編集長(左)との対談で当時を振り返るアダム・ジャン氏(右)

今も社内に残るこのスパコンから生まれたのが、シリウスの競争力の根幹をなす「群制御」システムだ。後にAMRの完全自律走行と協調動作を可能にする「群知能」へと進化する。

「群制御とは、会社における社長と従業員の関係に似ています。社長が全体を俯瞰し、円滑に仕事を進めるためのプランを練り、コラボレーションの環境を整える。想定外の事態が起きれば、瞬時にリプランニングを行う。100台のAMRと20人の作業員が、どう連携すればピッキング効率が最大化するのか。実機を作る前に、まずはシミュレーターの仮想空間で、徹底的にこの最適化ソフトウェアを鍛え上げました」

「手描きの絵」で資金調達、わずか40日でAMRを自作

群制御ソフトウェアの基盤は固まった。だが、実機を製造する資金が圧倒的に足りない。追加の資金調達のため、アダム氏は北京から上海の投資家のもとへ向かう。その手に握られていたのは、精緻なプロトタイプでも立派な事業計画書でもなく、飛行機の中で描いた「2枚の手描きの絵」だった。

「1枚はロボットの外観イメージ、もう1枚は内部のシステム構造を描いたものでした。上海で投資家にこの絵を見せ、自分たちのソフトウェア構想を説明したところ、即座に理解を得て、その場で800万元の資金調達が決まったのです」

資金を得たチームは、常軌を逸したスピードで開発を進める。「一台ずつ作っていては間に合わない。全くの未経験でしたが、24時間体制の40日間で4台のロボットを同時に手作業で組み上げました。そこで群制御ソフトウェアの試験を行い、実用化のめどが立ったため、すぐに外部の工場へ委託して一気に40台を生産しました。私自身も工場へ出向き、製造方法を直接指導しました。結果として、調達した800万元は5か月間で全て使い切りました」

▲現在の製品組み立ての様子

ジェンスン・フアン氏への直談判

顧客ゼロの状態で調達資金を使い切り、40台を量産するという背水の陣。だが、この決断が道を切り拓く。18年末、中国EC大手のJD.comが最初の顧客となり、30台の導入が決定した。

アダム氏の行動力は止まらない。NVIDIA時代のつながりを生かし、ジェンスン・フアンCEO宛てに直接、自社ロボットのデモ動画をメールで送信。「3週間後に返信があり、NVIDIA中国チームとの協業が決定しました。創業からわずか半年後の18年11月には、JD.com、NVIDIA、シリウスの3者合同で製品発表会を開き、実機を披露するに至ったのです」

ソフトウェアから開発をスタートし、それに最適化する形で必要最小限のハードウェアを構築する。このアダム氏の徹底した「ソフトウェア至上主義」こそが、現在のシリウスAMRの最大の特徴である「アウトオブボックス(箱から出してすぐに使える)」を生み出した。

「ハードウェアの構造は極力シンプルにし、ソフトウェアが主役となるロボットを作りました。シリウスのAMRは、いわばスマートフォンのようなものです。スマホの取扱説明書を見ることはありませんよね?機体そのものは変わらないが、アプリをインストールすることで、全く新しい機能を追加できます」

この「ソフトウェア至上主義」と「アウトオブボックス(箱から出してすぐに使える)」の思想により、シリウスのAMRは同じ機体でありながら「ピッキングアシスト」「棚入れ」「定点搬送」と、現場のニーズに合わせて自在にその役割を変えられる。

さらに、機体自体も従来の小型(FlexSwift)に加えて、可搬重量の異なる中型・大型のラインアップが展開される。つまり、「小型・中型・大型」の3つのハードウェアと、「ピッキング・棚入れ・定点搬送」の3つのアプリ(機能)を組み合わせることで、実に9通りもの使い分けがひとつのプラットフォーム上で可能になるのだ。

「40万元」のスパコンと、2枚の手描きの絵。ソフトウェアエンジニアたちの泥臭い執念から産声を上げたシリウスのAMRは、日本国内で急成長を遂げるEC物流事業者や人手不足に悩む地方部の物流現場に不可欠なインフラになりつつある。ハードウェアの売り切りではなく、ソフトウェアの継続的なアップデートによって現場の価値を最大化する。アダムCEOが掲げる「成果コミット型」のビジネスモデルは、この強靭なソフトウェア基盤があるからこそ成立する。

1000台キャンペーンの行方、常識破りの新料金プラン

シリウスが提示する「自動化の民主化」は、単なるキャッチフレーズではない。確かな技術的裏付けを持った挑戦だ。では、この強力な「スマホ系AMR」を武器に、シリウスジャパンは日本の物流現場にどのようなインパクトをもたらすのか。

読者の記憶に新しい「月額5万円RaaSキャンペーン」。日本国内で800台近くのニーズを集めながらも目標の1000台に惜しくも届かなかったこのプロジェクトは、実は東南アジアにおける数百台規模の大量導入というグローバルでの大躍進によって、劇的な結末を迎えていた。

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