
話題自律走行搬送ロボット(AMR)の導入ハードルを極限まで下げる「自動化の民主化」。シリウスジャパン(東京都中央区)が掲げるこのビジョンは、創業者であるアダム・ジャンCEOの代表就任により、いよいよ現実のフェーズへと突入した。
連載最終章となる本稿では、シリウスジャパンの最前線でAMR導入プロジェクトを担当する川崎慎吾氏のインタビューを掲載。業界で大きな注目を集めた「月額5万円RaaSキャンペーン」の結末と、他社の追随を許さない新料金プラン、そして最新の実装知見に基づく「投資対効果(ROI)を最大化する人員配置の最適解」を明らかにする。
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国内800台の反響と、グローバル量産効果が実現した新価格体系
「もし日本市場に1000台の導入ニーズが集まれば、AMRを月額5万円という破格で提供する」。シリウスが昨秋の展示会で打ち出した「共創1000台プロジェクト」は、初期投資の壁に悩む多くの物流関係者の関心を集めた。
その最終的な結果について、川崎氏はこう明かす。
「大変多くの反響をいただき、最終的に日本国内だけで800台近くの引き合いをいただくことができました。目標の1000台には惜しくも届きませんでしたが、このキャンペーンは別の形で大きな成果を収めることになったのです」

▲シリウスジャパン営業部の川崎慎吾氏
その要因は、グローバルでの事業拡大にあった。同じタイミングで、タイの物流倉庫において数百台規模というAMRの一括導入案件が決まったのだ。中国大手EC事業者の物流を担う現場への導入で、使われる機体は日本の主力機と同じ「FlexSwift」(フレックススウィフト)。使い方も、日本のEC物流における先進事例であるSTOCKCREW(ストッククルー、東京都中央区)の現場と全く同じピッキング支援だという。
「日本国内でいただいた800台に迫る確かな需要と、タイでの数百台規模の大型案件。これらが合わさったことで、シリウスの製造ラインは一気に量産体制へとシフトしました。その結果、日本単独で1000台に達せずとも、大幅なコストダウンを実現できる強固な地盤が完成したのです」(川崎氏)

これまでシリウスのAMR(RaaSモデル)の標準価格は、2年契約・15台以上の導入で1台あたり月額8万円、5〜6台の小規模導入で月額10万円だった。しかし今回の量産効果により、シリウスは新たな価格基準を提示する。
「新プランでは、『2年契約・15台以上の導入』という条件で、月額6万円からのご提供が可能になりました。案件の条件次第では月額5万円という下限価格も見えています。さらに、小規模利用のお客様に対してもリース会社と連携し、同価格帯で提供できるスキームを現在構築中です」(川崎氏)
他社の追随を許さない「初期費用ほぼゼロ」の背景
月額6万円というランニングコストもさることながら、シリウスと他社との決定的な違いは「初期費用」にある。
「他社のピッキングアシスト用AMRの場合、ランニングコストが月額7.5万円程度かかる上に、事前のマッピングやシステム導入、設定、インフラ工事といった初期費用で数百万から1000万円近いコストが発生するのが一般的です。しかし、シリウスのAMRはインターネット環境さえあれば稼働できるため、初期費用はほぼゼロに抑えることができます。ここは他社には容易に追随できない領域に入ってきていると自負しています」(川崎氏)
なぜ、これほど大幅な導入コストの削減が可能なのか。その理由は、前回の連載でアダムCEOが語った「ソフトウェア至上主義(アウトオブボックス思想)」にある。
「現地でのエンジニアのセットアップ工数が、他社の20分の1から50分の1で済むのです。他社なら2週間以上かかる導入作業が、シリウスなら1日で完了します」(川崎氏)

▲シリウスジャパンのエンジニアによる倉庫内マッピングの様子
事実、本誌でも以前報じたSTOCKCREWの現場では、急激な拠点拡張にネット回線の敷設が間に合わず、「ポケットWi-FiやスマートフォンのテザリングでAMRを動かした」という異例のエピソードがある。常時通信に依存せず、現場ですぐに自律走行を始められるソフトウェアの構築力こそが、結果的に「初期費用ほぼゼロ」という圧倒的なコスト競争力を生み出しているのだ。
ROIを最大化する「黄金比率」、ピッカー1人に対しAMR3台の時代へ
では、この機体をどのような現場に投入すれば、最もROIが高まるのか。川崎氏は「すでに人員が充足し、オペレーションが円滑に回っている現場には、実は費用対効果が出づらい」と率直に語る。
シリウスのAMRが真価を発揮するのは、四国の地方倉庫事例で本誌が報じたような「ピッキング作業者が少なく高齢化が進み、新規採用が困難な現場」や、「ピッカーが15〜20人ほどおり、日々の波動をスポット人材でなんとか補っている現場」だ。
「そうした人手不足の現場において、私たちが現在推奨している最適な人とロボットのバランスがあります。これまでは『ピッカー1人に対してAMR2台』が標準でしたが、システムと運用の進化により、最近は『ピッカー1人に対してAMR2.5〜3台』の割合が最も高いROIをもたらしています」(川崎氏)

例えば、ピッカー20人を投入して人海戦術に頼っていた現場があるとする。ここにシリウスの新プランを適用すれば、「ピッカー10人+AMR20〜30台」という体制に切り替えることができる。AMRが「歩く」作業を完全に代替し、半数の人員で従来以上の生産性を実現するのだ。一人当たりの生産性が倍増すれば、浮いたコストで既存スタッフの時給を上げ、定着率を高めるという好循環(STOCKCREW社が実践しているモデル)も生まれる。
「現場に使ってもらわなければ、どんなに素晴らしい技術も意味がありません。AMRを導入して、人手不足や人件費高騰のリスクを回避できる強靭な倉庫オペレーションを構築してほしい。その一心で、私たちはこの価格帯とサービスを実現しました」と川崎氏は力を込める。
ハード知見ゼロのソフトウェアエンジニアが、40万元のスパコンから生み出した完全自律走行型AMR。それは今、グローバルの量産効果と現場での地道な実装経験を経て、月額6万円・初期費用ほぼゼロという圧倒的なソリューションへと進化した。シリウスジャパンが仕掛ける「自動化の民主化」は、日本の物流現場の景色を確実に塗り替えようとしている。
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