EC米アマゾンは4日、出品者以外の企業にも自社物流機能を提供する新サービス「Amazon Supply Chain Services」(ASCS)を発表した。アマゾン・フレート、アマゾン・グローバル・ロジスティクス(AGL)、MCF(マルチチャネル・フルフィルメント)、アマゾン・シッピングなどの既存物流機能を中央コンソールから利用できる形に束ね直し、輸送、保管・在庫配置、フルフィルメント、小口配送を横断する企業向け統合サービスとして展開する。ASCSアカウントの作成自体には、Amazonの出品者・ベンダーアカウントは不要となる。
既存物流機能を非出品企業向けに再編
ASCSは、貨物輸送、保管・在庫配置・フルフィルメント、小口配送の3領域で構成される。これら3領域は、公式サイト上のサービス一覧では陸上貨物、越境物流(中国発米国向け)、航空貨物、MCF、Amazon向けフルフィルメント、パーセル配送、提携キャリア網、倉庫保管の8項目に細分化されている。
先行ユーザーには、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、米3M、米ランズエンド、米アメリカン・イーグル・アウトフィッターズの4社が名を連ねる。対象業種は小売、製造、ヘルスケア、自動車などに広がる。アカウント開設の要件は、米国、中国、香港のいずれかに有効な事業所所在地を持ち同地域で事業運営することで、日本国内の所在地のみで事業運営する企業は、現時点ではASCSアカウントを作成できない。
輸送分野は陸上、海上、航空、鉄道の4モードにまたがり、トレーラー8万台超、インターモーダルコンテナ2万4000個超、航空機100機超を含むアマゾンの輸送網を土台に、アマゾン・フレート、AGL、アマゾン・エア・カーゴ、アマゾン・シッピングなどの機能を束ねる。米国ネットワークへの陸上搬入を支える50社超の提携キャリア網も組み合わせる設計となっている。
保管・在庫配置・フルフィルメントは、AIによる需要予測と在庫配置の最適化を軸とする。海外物流専門メディアの取材に対し、ASCSのバイスプレジデント、ピーター・ラーセン氏は、4億超のSKUについて地域レベルで需要と配置を毎日予測していると説明している。自社サイトや外部マーケットプレースなど複数販路の出荷を1つの倉庫網で完結させる仕組みとなる。
小口配送は2〜5日配達と週7日稼働を掲げる。ASCS公式ブログでは、米国内の200カ所超のフルフィルメントセンター(FC)を含む物流網を活用すると説明しており、すべてが自社車両・自社拠点だけで完結するわけではない点には注意がいる。
専用ポータル(supplychain.amazon.com)の公式FAQによると、コンソールの登録・利用に追加費用は発生しないが、各物流サービスには個別の価格、料金、手数料が設定される。アカウント要件にはこのほか、事業用メールアドレスと決済用クレジットカードも含まれる。
ラーセン氏は発表文書で、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)がクラウドコンピューティングで実現してきたように、数十年かけて磨いてきたインフラ、知能、規模をあらゆる企業に開くと説明した。本誌が25年9月に報じたMCFのSHEIN・Shopify・Walmart対応拡大、3年前に投入した「Supply Chain by Amazon」、既存のアマゾン・フレート、AGL、アマゾン・シッピングといった機能が、いずれもASCSの前段に位置付けられる。
先行4社の活用パターンは、輸送、在庫、小口配送の3領域に分かれる。
ランズエンドのアンドリュー・マクリーンCEOは発表文書で、アマゾンは主要なECパートナーであり、ASCSで在庫を顧客の近くに配置することでより速く届けられると説明した。消費財・製造業の幹線輸送、アパレルの多販路在庫、アパレル・小売の自社サイト配送と、3PL(サードパーティー・ロジスティクス)市場の主要セグメントを横断する顔ぶれとなった。
同メディアの取材に対し、ラーセン氏は出品者からアマゾン向けと外部向けで物流業者を分けるのは煩雑であり開放してほしいとの声が寄せられたと明かしており、外部販路向け物流を一体化したい需要の存在を示している。一方で、対象業種に掲げられたヘルスケアの中でも医薬品や温度管理品、自動車部品のJIT供給では、規制対応、温度管理、部品トレーサビリティ、納入時間精度などEC物流とは異なる要件が多く、対象業種に挙げることと本格的な置き換えが進むこととは分けて見る必要がある。
ASCSの位置付けは、トラックや倉庫の単体外販ではない。従来の宅配、倉庫、幹線輸送の個別契約とは異なり、需要予測、在庫配置、販路横断出荷、配送品質データを一体で扱う切り口を前面に出している。短期的な競合相手はUPS、フェデックス、GXO、DHLサプライチェーンなどの実行型事業者だが、長期的には物流実行そのものよりも、在庫配置、注文管理、配送可視化を束ねるサプライチェーンの操作画面をアマゾンが握るかが焦点となる。契約物流のGXOやDHLサプライチェーン、フォワーダーのフレックスポート、さらにはTMS(輸配送管理)、WMS(倉庫管理)、OMS(受注管理)、在庫最適化SaaSの領域にも長期的に競争上の影響が及ぶ可能性がある。
一方で荷主側には、販売データ、在庫データ、需要予測データをアマゾンに委ねることへの警戒も残る。公式FAQではASCSコンソールとセラーセントラル、ベンダーセントラルなどのアマゾンのポータル間で在庫・注文情報が共有されると説明されており、アマゾンは販売、マーケットプレース、広告、決済、物流、クラウドを横断する事業者であることから、ASCSの普及には価格や配送品質だけでなく、データ管理と競合上の中立性をどこまで担保するかも問われる。
米物流株が急落、AWS型外販には物理制約も
発表当日のニューヨーク市場では、ASCSが既存物流大手の法人荷主市場に踏み込むとの警戒から、UPS、フェデックス、GXOなど輸送・物流関連株が広く売られた。海外メディア報道によると、UPSは前日比10%程度安、フェデックスは9%超安、契約物流のGXOは13〜18%程度の下落となり、媒体により下落率には差がある。ダウ輸送株平均も4.5〜4.8%下落したが、個別銘柄要因を含む指数の動きだけで物流業界全体の実態を読むには注意がいる。一方アマゾン株は1%程度高で推移した。
UPSは25年1月、26年6月までにアマゾン向け宅配量を半減させる方針を示し、低採算荷量からB2B・ヘルスケアなど高収益領域へのシフトを進めてきた。25年9月末までに現場職を3万4000人削減、93施設で日次稼働を終了している。26年第1四半期決算説明会では、キャロル・トメCEOがアマゾンの売上比率について、25年通期の10.6%から同四半期末時点で8.8%まで低下したと説明した。一方、アマゾンはASCSにより、UPSが収益源と位置付ける法人荷主市場で同社と競合する関係に入った。
フェデックスは19年にアマゾンとの地上配送契約を終了して以降、B2Bと高単価B2Cを重視してきたが、25年には大型荷物の住宅配送をめぐりアマゾンと一部業務で再提携したと海外メディアで報じられている。LTL部門のフェデックス・フレートについては26年6月1日のスピンオフを控え、投資家にとって警戒材料が重なる時期にASCS発表が重なった。
アナリストの見方は割れた。海外メディア報道では、警戒派はパーセル事業者や契約物流大手への直接的な競争上の影響を指摘し、契約物流のDHLサプライチェーン、マースク・ロジスティクス、GXOロジスティクスを影響を受ける候補に挙げた。一方の慎重派はASCSを既存機能の商業的拡張と位置付け、能力面の根本的な変化ではないと整理する。米モーニングスターはアマゾン株のフェアバリューを280ドルに据え置いている。
ASCSがAWSの再来となるかは別の論点として残る。AWSはデータセンター、サーバー、ネットワーク、電力を要する資本集約型事業だが、サービス提供はデジタル領域で行われるため、物理物流に比べて追加需要に対する限界費用が低く、稼働率上昇が利益率に反映されやすい。物流は倉庫スペース、人員、幹線輸送車両、ラストマイル配達、燃料費、繁閑差、返品処理といった物理的制約から逃れられない。
アマゾンの26年第1四半期決算では、AWSの営業利益率は37.7%だったのに対し、北米部門は7.9%、国際部門は3.6%にとどまる。北米・国際部門は小売、広告、サブスクなど複数事業の合算で物流単体の利益率ではないが、クラウドと物理物流の採算には相応の差があることを示す材料になる。UPSのサプライチェーン・ソリューションズ部門も同四半期の営業利益率は8.1%にとどまる。
クラウドの顧客はデータと開発資産がベンダーロックインを生むのに対し、物流ではクラウドほど深い技術的ロックインは生じにくい。ただし物流にも在庫移管、システム連携、出荷品質、返品対応などの切替コストはあり、荷主が3PLを切り替える際の制約として機能する。さらに、ASCSの大口荷主向け料金体系は現時点で十分に開示されておらず、既存3PLや宅配大手に対する価格競争力は実案件での比較を待つ必要がある。年末商戦やプライムデーなど繁忙期に、アマゾン自社注文と外部荷主の荷物が競合した場合のキャパシティ配分やSLAの設計も普及の焦点となる。
日本企業への直接的な影響は当面限定的で、すでに稼働しているMCFを通じてASCS的な機能の一部が国内でも使える状態にある。中長期的には、グローバル契約を経由した間接的な圧力が想定される。

出所:Amazon.com
ASCSの登録要件は米国、中国、香港の事業者に限られ、日本国内の所在地のみで事業運営する企業による直接利用は、現時点では想定されていない。日本では、外部EC注文をアマゾンの配送網で処理するMCFがすでに提供されている。MCFは日本を含む11カ国で展開しており、ASCSのうち外部販路向けフルフィルメントに近い機能は一部稼働済みとなっている。日本では、ASCSに相当する外販型のアマゾン・フレートやアマゾン・エア・カーゴは明示されておらず、輸送分野ではAGLがFBAセラー向けに中国発の日本向け海上輸送などを提供するにとどまる。
日本でASCS型サービスが本格展開された場合、影響は宅配、ECフルフィルメント、越境物流、契約物流、3PLの各領域に及ぶ。代表的な競合候補としては、宅配でヤマト運輸、SGホールディングス、日本郵便、契約物流・3PLでロジスティードや日本通運などが挙がる。
ただし日本展開には複数の制約がある。アマゾンジャパンの国内物流網は、同社資料でFC25か所以上、DS65か所以上とされ、25年12月の同社発表では当日配送専用拠点が16か所に広がっている。米国の200カ所超のFC網と比べれば規模は小さく、国土面積や配送距離が異なるため単純比較はできないが、外販に割り当てる余剰能力や幹線輸送機能という観点では米国とは前提が異なる。
24年問題による幹線輸送の労働力制約は、外販に割り当てる余剰能力の確保を難しくする。国内宅配市場は「宅急便」「飛脚宅配便」「ゆうパック」の上位3便がトラック宅配の95.2%を占める寡占市場(国土交通省、令和6年度)であり、日本特有の時間指定精度や再配達対応も、米国モデルをそのまま導入することを難しくする要素となる。短期的には、米国でのASCS実績がアパレル、ヘルスケア、自動車部品など特定垂直で蓄積された段階で、グローバル契約を通じて間接的に影響が及ぶ展開が想定される。
日本展開を判断する先行指標としては、(1)ASCSアカウント要件への日本追加、(2)アマゾンジャパンによる外販向け倉庫サービスの単独発表、(3)米国でのMCF既存導入企業(P&G日本法人、3M日本法人など)が日本市場で類似サービスを求める動き、(4)AGLのFBA外・非出品者向け開放、またはアマゾン・シッピングやアマゾン・フレートに相当する国内外販サービスの発表があり、次回以降のアマゾン決算説明会、ASCS公式FAQの対象地域更新、アマゾンジャパンの物流・配送網発表を見ながら判断する形となる。
この記事をより深く理解するために
アマゾン、外部EC向け物流を主要PFに拡充(25年9月19日):ASCSの前段に位置付けられるMCFの対外開放第2弾。SHEIN、Shopify、Walmartへの対応拡大を報じ、ASCSの設計思想が外部マーケットプレース統合にあることを示した。
アマゾン、西日本最大の名古屋みなとFCを公開(25年9月17日):日本のFC運用規模と機能を示す参考記事。米国200拠点に対し日本のFC・DS規模という非対称性を理解する基礎情報。
30分配送「Amazon Now」渋谷で開始(26年3月5日):日本でのラストマイル進化を示し、小口配送領域での拡張可能性を測る尺度となる。
アマゾンジャパン、物流・配送網を全国で拡充(25年):日本の配送網の現状規模を確認できる総括記事で、ASCS日本展開時の出発点を示す。
アマゾン、拠点一般公開に見る透明性と成長モデル(25年10月9日):米国26年末までの地方配送網40億ドル投資など、ASCSを支えるインフラ投資の文脈を提示。






























