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ホルムズ危機で供給網に限界、製造業リスクが現実に

2026年5月8日 (金)

イベント本年2月28日に発生したホルムズ海峡危機は、発生から70日が経過した。事態は物理的な物流網の混乱から深刻な材料不足へと変質し、実体経済全体へ衝撃が及ぶ段階に入っている。5月8日に開催された緊急イベント「ホルムズ危機、日本企業はどこで詰まるか」では、専門家らが現場の数字を基に、日本企業が直面する限界点と、有事を前提とした新たな供給網の姿を提示した。

Nexgen Japan(横浜市西区)CEO・物流AIアーキテクト/東京海上ホールディングス(東京都千代田区)プリンシパルの大野有生氏は、危機発生から実際のビジネスインパクトが出るまでの日数を算出するシミュレーション式を提示した。輸送リードタイムの遅延、港湾・船腹の追加遅延、代替サプライヤーの認定期間を合計し、そこから在庫カバー日数を差し引く計算だ。

▲Nexgen Japan  CEO・物流AIアーキテクト/東京海上ホールディングスプリンシパルの大野有生氏

自動車業界の事例では、この計算に基づき6月上旬から在庫が底をつき、深刻な影響が出ると予測されている。影響は段階的に伝わり、1か月から1.5か月で樹脂やアルミなどのクリティカルな部材が枯渇し、2か月で部品の生産調整が始まり、3か月で補修部品の不足や物価上昇など生活全体を直撃する。

大野氏は「全社在庫が100日分あっても、代替不能な特定の樹脂が10日分しかなければ、その時点で操業は停止する」と、総在庫金額に惑わされない「多段階在庫の可視化」の重要性を説いた。国家備蓄の放出も、あくまで供給網の構造変更を行うための「時間稼ぎ」に過ぎない。今後は、効率性重視のジャスト・イン・タイムから、冗長性と備えを重視する「ジャスト・イン・ケース」へのシフトが不可欠だ。

原材料の供給制約と物流コスト増の2面からの深刻な影響について、ローランド・ベルガー(港区)の小野塚征志パートナーは、次のように分析した。

「原油輸入の95%、ナフサの4割がホルムズ海峡を経由しており、石油化学産業への打撃が最も大きい。海上輸送はスエズ運河ルートを回避し、喜望峰ルートへ迂回しているため、リードタイムが10日から14日程度延長している。」

▲講演をするローランド・ベルガーの小野塚征志パートナー

小野塚氏は、企業が対応すべきリスクを経済、環境、地政学、社会、技術の5つに分類した。これらを特定部門に任せるのではなく、経営課題として「リスクアセスメント(見える化)」「対応」「モニタリング」のサイクルを回すべきだと主張する。想定外の事態を最小化する包括的な視点と、経済合理性に基づく最適な投資判断の両立が、不確実な時代に企業価値を持続的に向上させる鍵となる。

貿易実務を「手配屋」からSCM全体の判断を左右する「戦略的拠点」へ転換すべきだと語ったのは、双日テックイノベーション(千代田区)の木村悦治副部長である。

▲双日テックイノベーションの木村悦司副部長

現状、貿易実務者の7割が40歳以上で、属人的な経験と勘に支えられている。業務が標準化されずブラックボックス化しているため、担当者が不在になると港での超過保管料発生などのリスクを露呈する。木村氏は、特定のタスクからデジタル化を進める「スモールスタート」によるデータの資産化を推奨した。

Zenport(ゼンポート、千代田区)の太田文行社長とSpectee(スペクティ、千代田区)の村上建治郎CEOは、可視化の実装論を議論した。

▲Zenportの太田文行社長

太田氏は、直線的な構造から多極化・網の目状の「メッシュ型」構造への転換を指摘。村上氏は、生成AIを用いてSNSやセンサーデータからリスク情報をリアルタイムに解析し、サプライヤーの深層まで見える化する重要性を強調した。

Specteeの村上建治郎CEO

政治的な停戦と海運の正常化は同時には起きないと、最後に断言したのはShippio(シッピオ、港区)の川嶋章義エバンジェリストである。物理的な封鎖解除以上に「制裁リスク」「金融の遮断」「保険の厳格化」という三重の制約が海運の足かせとなっているからだ。船主、運航会社、船長の3者が「100%安全だ」と判断するまで、商業航行は再開されない。

▲(左から)本誌・赤澤裕介編集長、Shippioの川嶋章義エバンジェリスト

川嶋氏は、日本の物流業界へ向けたメッセージとして、サプライチェーンに関わる人々に課せられた新たな使命を説いた。「船会社のホームページを個別に見に行ったり、属人的な伝言ゲームに終始したりすることは、仕事をした気にはなるが、本来の役割ではない。こうした実務はデジタルで自動化すべきだ」と断じる。

その上で、安定供給を支えるには、物流の知見を持つ経営幹部であるCSCO(最高サプライチェーン責任者)の存在が不可欠だと主張する。「CSCOが、プラットフォームを通じて遅延や欠品リスクを早期に把握し、一次情報をリアルタイムに経営層へ集約・共有する体制を作らなければならない」と訴えた。

「経営陣に対して、単なる事象の報告ではなく、経営判断を後押しする戦略的な情報を提供すること。これこそが、サプライチェーンに関わる人間に課せられた使命だ」という川嶋氏の言葉は重い。専門的な知見を武器に、自らの手で「途切れないサプライチェーン」を構築することこそが、日本企業が不透明な時代を生き残り、確かな未来を掴み取るための唯一の道だ。

>>特集「ホルムズ海峡封鎖〜試されるサプライチェーン」トップページへ

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