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ナフサ急落、ソハール積み替えで供給に動き

2026年6月4日 (木)

荷主アジアのナフサ指標価格が急落している。ロイター通信は6月2日、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が4月に停止していたルワイス製油所由来のナフサ輸出について、オマーンのソハール港での船から船への積み替え(STS)を使い、一部を再開したと報じた。確認されたのはタンカー2隻の動きにとどまるが、アジア指標価格は3月の過去最高値からおよそ4割下落した。ただ、この下落は供給不安の後退だけでなく、アジアの石油化学需要そのものが弱っていることも映しており、UAEへの依存度が高い日本にとっては調達不安を和らげる材料となる一方、原料調達や川下への供給が直ちに正常化するとは言い切れない。(編集長・赤澤裕介)

停止の背景には、米国とイスラエルによる対イラン戦争でホルムズ海峡周辺の航行が制約されたことがある。湾内の積み地に買い手側の本船を入れる通常の輸出形態に代わり、ADNOC側が貨物をオマーン湾側のソハールへ移し、買い手側は同港で本船に積む。買い手側の本船が湾内まで入る負担を抑え、ホルムズ海峡周辺の航行リスクを売り手側と買い手側で分担し直す手法だ。もっとも、これはトレーダー筋と船舶データに基づく報道で、ADNOC自身は船舶の動向にコメントしない方針を示し、肯定も否定もしていない。現時点で言えるのは、停止していた分の一部が動き始めた可能性がある、というところまでにとどまる。

月100万トン規模の停止は、アジアの石油化学原料市場にとって無視できない供給喪失だった。ADNOCは4月、ルワイス製油所からのナフサ輸出を停止していた。今回伝えられたのは、その生産能力が回復したという話ではない。湾内に滞留していた貨物をアジアまで運ぶ経路が、部分的に復旧した可能性があるという話だ。確認された例として、タンカー2隻が5月30日ごろにソハールで積み込み、アジアへ向かったとされる。

ソハールはオマーン湾側に位置する深水港で、湾内の積み地に買い手側の本船を入れにくい局面では、STSや積み替えの受け皿になり得る。ただし、ソハール経由は海峡周辺のリスクを買い手から一部切り離すにとどまり、オマーン沖や同国港湾が安全圏になるわけではない。保険や船員の安全、港湾運用をめぐる負担は残る。

需要破壊も重なり、正常化とは言えず

6月2日は7月後半渡しのアジア指標価格。

供給ルートの一部復旧は、急騰していた価格にも表れた。アジアの指標価格は6月2日に7月後半渡しで1トン788ドルと、3月初旬以来の安値をつけた。3月には過去最高の1トン1300ドルまで急騰し、ブレント原油に対する精製マージンも過去最高の1トン467ドルを記録していたが、足元では1トン84ドルほどまで縮小した。

ただし、この下落を一つの要因で説明することはできない。少なくとも三つの要因が重なっている。第一に、ADNOCのルワイス由来貨物が長期に出てこないという極端な供給不安のプレミアムが剥落した。第二に、需要そのものが傷んでいる。価格が下がったのは、貨物が戻ったからだけではない。高すぎる原料価格と不安定な調達が、アジアの石油化学プラントの稼働を落とし、ナフサを買う側の体力を先に削った。シンガポールやインドネシア、韓国、台湾の石油化学コンプレックスでは減産や不可抗力の宣言が相次ぎ、国際エネルギー機関(IEA)も2026年の世界のナフサ需要が日量8万バレル減少すると見込む。第三に、3月の1トン1300ドルが危機のプレミアムを含んだ異常値だった反動もある。

つまり、今回の価格下落は、供給網が正常化した結果というより、危機下で代替物流が一部機能し始めたことと、原料高でアジアの需要が細ったことが同時に表れたものとみるべきだろう。すでに需要が弱く、湾岸のさらなる供給削減も想定されていないため、価格が3月の高値まで戻る可能性は低いとの見方も市場にある。足元の安値は、供給網が平時に戻ったことを意味しない。

UAE依存の日本、川下の停滞なお残る

石油化学工業協会(原データ:財務省貿易統計)をもとに本誌作成。暦年2024年、輸入ナフサのみの比率。

中東の物流に動きが出れば、日本の調達環境にも波及する。石油化学工業協会の統計(原データは財務省貿易統計)によると、日本のナフサ輸入に占める中東の比率は2024年に73.6%に達し、国別ではUAEが30.4%で最大の供給元となっている。原油の大半もホルムズ海峡経由で運ばれており、今回のADNOCの動きは、日本にとって単なる海外市況ではなく、最大の供給元の物流制約が一部動いた可能性を意味する。湾岸からの主要な供給源が止まっていた4月以降、その逼迫が国内の調達不安を強めてきた。

国内では、別ルートからの調達も進められている。経済産業省によると、中東以外からの輸入ナフサは5月に大幅な増加が見込まれ、国内精製分や中間段階の化学製品の在庫活用、川中・川下製品の輸入増などと合わせ、ナフサ由来製品全体の供給量は平年並みに維持される見通しだという。ADNOCの再開可能性は、この見通しを補強する材料となりうる。

ただし、政府が説明する総量の維持と、現場で必要な規格品が必要な地域と時期に届くかどうかは別問題だ。ADNOCの貨物が一部動いても、シンナーや塗料、接着剤、包装材といった現場で続く供給の滞りが、直ちに解けるわけではない。政府が5月21日の第8回中東情勢に関する関係閣僚会議で「目詰まり」と呼んで取り上げた流通の停滞も、建設や自動車整備、パン・菓子の製造といった現場で、規格や納期の合う資材が届きにくくなる事態だった。価格や原料が川下に届くまでには、原料調達からプラント稼働、誘導品の生産、加工、在庫、物流という各段階を通る時間差もある。日本にとって問われるのは、ADNOCの貨物が動いたかどうかだけでなく、UAEへの依存度が高い調達構造のまま、港湾や保険、船舶手配の制約をどこまで吸収できるかという点だ。

ソハール経由の継続性はなお不透明

残るのは、この積み替えルートが続くのかという問いだ。確認されたのはタンカー2隻が5月末に積み込んだという事実にとどまり、それが一度きりのスポットで終わるのか、恒常的な供給ルートとして定着していくのかは、現時点では判断材料が限られる。積み替え方式はコストも手間もかかるため、海峡が正常化すれば役割を終える公算が大きく、逆に海峡周辺の緊張が再び高まれば、ソハール経由そのものが揺らぐ。保険や運賃、品質管理の負担、港湾の安全といった要素も、継続性を左右する。

UAE依存を下げることも、簡単ではない。中東以外のナフサを増やせば、価格や品質、船腹、リードタイムの制約が出る。国内精製や川中製品の在庫で時間を稼げても、調達構造そのものは短期には変わらない。今回の価格急落は、安心材料ではあっても、危機の終わりを示すものではない。日本にとって必要なのは、価格の落ち着きを前提に発注や在庫を戻すことではなく、UAEに偏った原料調達、代替ナフサの品質差、船腹や保険の制約を織り込んだ供給計画へ切り替えることだ。

この記事をより深く理解するために

中東情勢関係閣僚会議が第8回会合、石油・医療物資の安定供給を議論(2026年5月22日)/政府は供給量の維持を説明する一方、川下では資材が届きにくい状態が続いている。その全体像を押さえるための記事。

日本の石油化学、ナフサ調達難で減産広がる(2026年3月19日)/価格が下落しても、国内ではすでに減産や在庫調整が進んでいる。その経緯を知るための記事。

ホルムズ海峡封鎖、世界の海上輸送に影響(2026年3月5日)/今回のソハール経由の意味を理解する前提として、海峡封鎖の発端と影響を整理した記事。