ロジスティクス東京大学先端科学技術研究センター先端物流科学寄付研究部門は18日、東京大学本郷キャンパスでシンポジウム「サプライチェーン最適化に向けたネットワーク構造──協調はなぜ進まないのか、どこから始めるか」を開催した。
物流の持続可能性が大きな課題となるなか、協調、共同は必須との意識は共有されつつある。積載率向上、共同配送、拠点再編、データ連携など、サプライチェーン全体での最適化が求められる一方、実際の現場では企業間・部門間の協調が容易に進まない。今回のシンポジウムでは、物流システムを「垂直・水平協調のネットワーク」として捉え直し、協調を阻む構造的要因と、実装に向けた出発点を探った。開会挨拶では、経済産業省経済産業政策局地方創生担当政策統括調整官の中野剛志氏が、2026年を物流政策の転換点と位置づけ、改正物流効率化法の全面施行、CLO(物流統括管理者)設置義務化、フィジカルインターネットの「離陸期」入り、産業競争力強化法等の一部改正によるエッセンシャルサービスとしての物流支援などを踏まえ、協調体制の実装加速を訴えた。また、本シンポジウムを通じて、実務家とアカデミズム間における議論がさらに深められることに期待を寄せた。
基調講演では、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授の江崎貴裕氏が「垂直・水平協調のネットワークで物流システムを考える」と題して講演した。物流ネットワークの設計最適化(垂直協調・水平協調)に関する研究と実装視点の最新状況を、ネットワーク科学の枠組みから整理・報告。2社間協調における最適ネットワークのシミュレーションや出現条件、フィジカルインターネットの展望と課題を総合的に共有した。協調によるメリットを可視化し、極端な条件を除き一貫してコスト・サービス両面で有利と結論づけて、その意義を強調するとともに、今後は、共同配送、共同拠点、幹線・ラストマイルの分担などを、コストだけでなく安定性やサービス水準も含めてネットワーク設計する視点が重要になると指摘した。
同センターのプロジェクトリサーチフェロー井村直人氏は、「サプライチェーン協調はなぜ進まないのか」をテーマに、障壁を「制度・利得・情報」の3点から整理した。24年問題、地政学・災害リスク、サステナビリティ要請を背景に協調の必要性は高まる一方、現状は倉庫共有、輸送共同化、共同配送などの部分的接続にとどまり、全体最適には至っていないとした。
井村氏は、制度面では取引慣行や契約、責任分界の硬直性、納品条件の固定化、業界横断の標準化不足を指摘。利得面では、投資主体と便益享受者のずれ、費用・便益・リスクの配分ルール不在、中立的運営主体の欠如を挙げた。情報面では、メーカー・物流側と、卸・小売・消費者側との情報断絶が大きく、開示範囲やデータ粒度の設計が課題になることなどを示し、変化するサプライチェーン構造ごとの課題を、続くパネルディスカッションの議題として提示した。

後半のパネルディスカッションでは、東京大学大学院工学研究科の西成活裕教授がモデレーターを務め、「協調の可能性と制約」をテーマに議論した。パネリストには、江崎氏に加え、鈴与総合研究所課長の瀧良太氏、三井物産戦略研究所シニアエコノミストの高島勝秀氏、霞ヶ関キャピタルインフライノベーション事業本部新規事業部長堀内丈治氏が登壇した。研究、物流実務、商社系シンクタンク、不動産・新規事業の視点から、協調を進めるための条件や、現場で直面する制約について意見を交わした。
物流現場からは倉庫・港湾・共同配送の実務課題、商社側からは小売、物流、消費を川上から川下まで俯瞰した協調設計の論点、デベロッパーからは冷凍冷蔵倉庫や賃貸工場と物流を一体化する施設開発の可能性が示された。大学側からは、水平協業の海外事例やAI・数理最適化の活用を踏まえ、協調を進めるには中立的な調整主体、データ標準化、コストの可視化、費用・便益配分の設計が不可欠との論点を示した。需要起点の連携の仕組み作り、同一エリア、時間帯、温度帯、荷姿など条件が合う領域から連携を始め、成功事例を横展開する方向性など、協調具体化への道筋が議論されるとともに、個社利益にこだわらず、業界、日本、世界へと視点を広げた最適化への意識転換も呼びかけられた。
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