ロジスティクスセイノーホールディングス(HD)とAZ-COM丸和HDは6月18日、東京都内で記者会見し、4月22日に基本合意した業務提携を実装段階へ進めると発表した。資本提携も合弁も置かないまま、提携相手であるAZ-COM丸和の和佐見勝社長を、セイノー中核の西濃運輸の非常勤会長に迎える。取締役ではない会長職で、7月中の就任に向けて調整しているという。資本でも取締役会でもなく、トップの存在感を起点に現場の統合を進める枠組みだ。焦点は、これを具体的な事業へどこまで落とし込めるかに移る。

セイノーホールディングスの田口義隆社長(左)とAZ-COM丸和ホールディングスの和佐見勝社長(右)
取締役ではない会長という設計
注目は「取締役ではない」会長という点だ。両社はともに東証プライム上場で、特積みなど一部で競合領域を持つ。一般に、競合領域を持つ上場企業同士が相手方のトップを取締役に迎えれば、善管注意義務や利益相反、競業、情報管理が論点になる。取締役会に入らない非常勤の会長とすることで、こうした論点を避けつつ、提携推進の旗印として機能させる構図とみられる。
神谷敏郎セイノーHD専務執行役員は「取締役ではない会長として就任いただく。お互いに上場企業であることを踏まえ、利益相反や競業の問題は専門家にも確認し、しっかりとルールメイクしたうえで進める」と述べた。利益相反管理を前提に、資本関係を置かないまま統合を進める設計であることは、会社側の説明からもうかがえる。
ただし、この枠組みの推進力は制度ではなく、関係性に依存する属人的な構図だ。取締役会の決定権を持たない会長である以上、原動力は和佐見・田口両氏の信頼に求められる。田口義隆セイノーHD社長は就任を求めた狙いを「別々の場所にいるのではなく、同じ船に乗っているという一体感を現場に持たせる意味が大きい」と説明した。和佐見氏自身も「明日のことは見えても2〜3年先は見えない。人間関係がものを言う」と述べており、時間の経過やトップ交代に対する設計の頑健性は、現時点では見えない。和佐見氏はAZ-COM丸和の社長を継続する。実務の総責任者は両社がそれぞれ置き、現場レベルで連携の具体化を進める。
接続するのは幹線網と3PL運用
提携の実体は、セイノーの全国幹線網・特積み輸送と、AZ-COM丸和の下流(小売・店舗向け)3PL運用の接続にある。セイノーは貨物を集めて運ぶ機能に強く、その先の在庫管理や店舗納品といった運用は、丸和が小売・医薬・低温食品で蓄積してきた領域だ。両社はこの境界を越え、上流から下流までを一気通貫でつなぐ。
神谷専務は、メーカー物流など上流に強い領域と、下流に強い丸和、上流から下流までを担う特積みを組み合わせ、全体最適を図ると説明した。幹線輸送そのものでの連携は「限定的な部分もある」としつつ、貸し切りなど多様な輸送と、両社の求貨・求車プラットフォームを融合させ、多重下請け構造を是正しながら輸送の器を広げるとした。実装はすでに動いており、3PLは5月26日、ラストワンマイルは6月2日、ミドルマイルは6月15日に分科会のキックオフ会合を開いた。調達や幹線輸送の分科会も今後検討する。

セイノーホールディングスの田口義隆社長
丸和の「在庫ゼロ・納品率100%・ノー検品」とは
下流3PLの高度化を象徴するのが、丸和の「在庫ゼロ・納品率100%・ノー検品」だ。これをセイノーの顧客基盤へ広げる。和佐見氏は会見で、ドラッグストア大手マツモトキヨシ(運営はマツキヨココカラ&カンパニー)向けに同方式を導入した事例を説明した。
ただし「在庫ゼロ」が何を指すかは、会見では定義されなかった。店舗側の在庫・検品負担を極小化し、丸和側の在庫管理と納品精度で支える運用を指すとみられる。数字も出どころを明確にしておく必要がある。和佐見氏によると、検品は1件あたり10〜20分を要し、店舗側で1店舗あたり約1.7人が従事していたという。「500店舗換算で約850人」という削減規模は、店舗数に1.7人を乗じた換算値で、報告された実績そのものではない。試験を前倒しして全国適用が決まったとする経緯も、会見での説明に基づく。和佐見氏はこれを「商流は顧客、物流は当社」という商物分離型の形態と位置づけた。セイノーはこの運用を下流領域の強化に生かす考えで、田口社長は丸和を選んだ理由に、創業者同士の縁による親和性と、アマゾンからの受託に表れる運用力を挙げた。
4月合意からの進捗 資本・合弁は実装を優先
両社は4月22日、物流ネットワーク連携を目的とした業務提携の基本合意書を締結し、同月に提携を開始した。かねて一部エリアで小口貨物の集荷・配達による特積み輸送で協業しており、これを土台に拡大する。基本合意の柱は、車両と全国ネットワークを活用した顧客支援、相互補完型3PLの戦略的協働、ラストワンマイルの新事業モデル検討、必要に応じた合弁設立・共同M&Aの検討の4点。提携開始後、5月14日に全体会合を開いた。共同サービスは商品化と価格設計が最終調整段階にあり、早期投入を目指す。価格は田口社長が「両社の責任者間で一致しているものはある」としつつ、現時点では非開示とした。
資本・合弁への姿勢も、今回の設計と整合する。4月の基本合意では「必要に応じた合弁設立や共同M&Aの検討」を挙げていたが、会見で田口社長は「現時点では全く考えていない。まず中身を詰める。必要があれば将来検討するかもしれない」と述べた。方針転換ではなく、資本より実装を優先し、合弁・M&Aは当面先送りする姿勢の明確化といえる。和佐見氏も「一心同体で成果を出し続ける。資本関係はまだ答えが出ない」と同調した。

AZ-COM丸和ホールディングスの和佐見勝社長
もう一つの柱であるBCP(事業継続)物流は、今回の「輸送の器を広げる」という発想と直結する。AZ-COM丸和は阪神・東日本・熊本・北海道の各震災対応で実地経験を積み、自治体との災害時物流協定を全国で結んできた。和佐見氏によると、協定は都道府県で残り3府県、東京23区で残り4区となり、8月までの全国完了を見込む。平時から共同利用できるネットワークを広げておくことが、有事の車両動員力に直結する。同社は若手社員を東京大学(3年)と東北大学(2年)の研究機関に交代で派遣し、災害対応の知見を深めている。両社は積載効率を高める「空気を運ばない」輸送も共同構築する方針で、セイノーの「オープン・パブリック・プラットフォーム」と丸和の「3PL&プラットフォーム」戦略を融合し、連携する輸送事業者を広げる。
背景には、ドライバー不足とそれに伴う車両不足、多重下請け構造といった構造課題がある。改正物流効率化法によるCLO(物流統括管理者)の設置など、荷主に全体最適を求める制度も整いつつある。田口社長は、人口減少で各社が個別に築いた輸送網が過剰になっていると指摘し、AZ-COM丸和の藤田進取締役専務執行役員(経営戦略担当)は「物流におけるコアリション(連携体)を築く」と述べた。資本に踏み込まず、相手社トップを非取締役の会長に迎えるこの枠組みは、競争から共創への転換を、資本関係を置かないまま実装に移す試みだ。問われるのは、和佐見氏の存在感を起点にしたこの提携を、分科会、共同サービスの商品設計、現場運用、顧客提案へどこまで落とし込めるか、だ。
主な一問一答
――数ある3PL事業者の中で、なぜ丸和に声を掛けたのか。
田口社長 創業者同士が同じ時代を築いてきた縁があり、文化的な親和性が非常に高い。加えて「在庫ゼロ・納品率100%・ノー検品」のノウハウを実際に持ち、アマゾンからも信頼を受けている。比類なきノウハウと親和性が理由だ。
――会長は常勤か。丸和の社長は続けるのか。
和佐見社長 非常勤だ。私は丸和の代表権を持つ社長を続ける。毎日常勤と言われれば対応できないが、成果を出すには一定のコミュニケーションが要る。常勤ではないからこそ受けた。
――丸和は小売り・食品が中心だった。提携で3PLの対象を広げるのか。
和佐見社長 当社の3PLは小売りが中心だが、セイノーはメーカーの仕事も大きい。新たな挑戦になる。セイノーの顧客も含め、新たな顧客を対象に3PL事業を伸ばしたい。
神谷専務 幹線輸送との連携は限定的な部分もあるが、特積みは貸し切りなど多様な輸送を担う。両社のプラットフォームを融合して器を大きくし、いざというときの車両提供力を高めたい。
――将来、提携の枠組みを拡大する考えは。国際輸送なども含むのか。
田口社長 人手不足が進む中、業種・業態を超えて連携する動きはすでに出始めている。新会社設立や別業種との提携の可能性は広がるが、だからこそ今は「これをやる」とは言えない。まずは本提携を実のあるものにすることに集中する。
――法改正でトータルな物流サービスの需要が高まっていることが背景にあるのか。成果のスケジュールは。
神谷専務 荷主が物流をどう設計するかに悩んでいる。1社の提案でなく、連携の中で業界としてのベスト解を出す。定量目標は現時点で未公表だが、まず成果を出すことを最優先に、速く進める。
■ 両社の概要
セイノーHDは1930年創業、岐阜県大垣市に本社。「カンガルー便」の西濃運輸を中核とするBtoB物流大手で、幹線輸送ネットワークと「オープン・パブリック・プラットフォーム」を強みとする。AZ-COM丸和HDは1970年創業(丸和運輸機関が前身、2022年に持株会社へ移行)、本社は埼玉県吉川市。「3PL&プラットフォームカンパニー」を掲げ、EC物流、低温・食品物流、医薬・医療物流を核に、BCP物流を強化している。
■分科会のキックオフ
全体会合=5月14日/3PL=5月26日/ラストワンマイル=6月2日/ミドルマイル=6月15日。今後、調達・幹線輸送などの分科会も検討。
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