話題「在庫と物流は会社の根幹」。トラスコ中山取締役で物流本部本部長兼デジタル戦略本部本部長の中山達也氏は、そう言い切る。
在庫を減らし、回転率を高める。一般的な物流では、それが効率化の定石とされてきた。しかし、プロツールの専門商社であるトラスコ中山は、「必要とされる商品を先回りして在庫する」ことを競争力としてきた。
現在63万に上る在庫アイテムを、2030年までに100万アイテム以上へ、さらにその先へ増やしていく。その大量在庫戦略を支える中核拠点として、26年5月に本稼働したのが「プラネット愛知」(愛知県北名古屋市)だ。
延床面積2万6971坪、12種類のマテハン設備を導入する大型物流センター。その主力設備が、10万ビン、ロボット100台を備えたAutoStore(オートストア)である。トラスコ中山にとって導入はこれで5拠点目となる。
AutoStoreといえば高密度保管、省人化。そのメリット自体は広く知られている。
では、なぜトラスコ中山は、5拠点にわたってAutoStoreを選び続けてきたのか。
答えは、単なる「倉庫効率」ではない。
在庫が増えても、床面積を同じように増やさない。物量が増えても、人員を同じように増やさない。そして、将来必要な物流能力を、必要になる前に確保する。
5拠点での実績を経て、AutoStoreは同社にとって“計算できる設備”になった。

▲プラネット愛知で稼働するAutoStore
在庫を増やすのに、床まで増やす必要はない
プラネット愛知では、AutoStoreで32万アイテムを保管する計画だ。同量を平棚で保管するのに比べ、必要面積はおよそ3分の1で済む。
ただ、本当の価値は「床面積を3分の1にできる」ことだけではない。
100万アイテム以上を目指す中、在庫が増えるたびに倉庫まで広げ続けるわけにはいかない。
在庫を増やすなら、床まで増やす必要はない。
高密度保管とは、省スペースであると同時に、事業成長と増床を切り離すための能力でもある。
しかも、その“先行”投資はすでに使われ始めている。
10万ビンのAutoStoreは本稼働から間もない段階ですでに8万ビンを使用。通販系顧客などから物流受託の引き合いも増え、中山氏は「ここがなければ、ことしを乗り越えられなかった」と話す。
先に確保した能力が過剰だったのではない。事業成長が、早くもその能力を追いかけている。

▲中山達也氏
物量が増えるたび、人まで増やす物流は続かない
収納効率だけなら、5拠点も選ばない。
中山氏がもう一つ評価するのが、ピッキング生産性だ。
「生産性が非常に高い。今、当社が使っているマテハンの中では、AutoStoreでのピッキングが一番速い。これはかなり大きい」
過去4拠点で、高密度保管だけでなく、高いピッキング能力を安定して得られることを確認してきた。それが5拠点目への横展開につながった。
一つの物流センターが処理する出荷件数は増え続けている。
そのたびに人を増やせばよい、という前提はもはや置きにくい。
物量が増えるたび、人まで増やす物流は続かない。
Goods-to-Person型のAutoStoreでは、人が商品を探して歩くのではなく、商品が作業者の前まで運ばれる。少人数で処理量を高められることは、単なる省人化ではなく、事業成長と必要人員の増加を切り離すことにつながる。
しかも、対象はロングテール商品だけではない。多品種少量の商品を高密度に収納しながら、高頻度出荷商品も効率よく処理できる。
中山氏は「ロングテールの商品にも、高頻度で出荷される商品にも対応できるところが大きな強み」と評価する。
建物より先に、AutoStoreを考えた

▲橋口慎太郎氏
その到達点がプラネット愛知だ。
同センターの立ち上げを5年前から担ったプラネット愛知センター長の橋口慎太郎氏は、以前、本社の物流企画部門からプラネット埼玉の立ち上げにも関わり、AutoStore導入を経験していた。
「4拠点での使用実績を見ても、AutoStoreは私の中では確実に計算ができる設備だった」
高密度に保管できる。少ない人数で大量の商品を処理できる。その実績が見えていたからこそ、「将来どれだけの物流能力を持てるか」を事前に読めた。
そこでプラネット愛知では、100万アイテム以上を在庫する将来像から逆算し、「最低でも10万ビンが必要」と判断。建屋設計の初期段階から、その能力を織り込んだ。
日本最大級となる10万ビンを1システムで実現するため、防火区画や防火シャッターの制約も建屋設計から考慮し、消防との協議を重ねた。AutoStoreを建物に入れたというより、AutoStoreを前提に建物をつくったのである。
現在、プラネット愛知の出荷量の4割をAutoStoreが担う。4拠点の実績は、単に「安定して動く」という安心材料ではない。
将来必要な物流能力を、事業計画の中で読める。それが、“計算できる設備”という意味だ。
投資額だけでは測れない、将来の物流能力
AutoStoreは小さな投資ではない。
現在の人件費との単純比較なら、人を配置する方が安く見えるケースもある。
それでもトラスコ中山は先行して投資する。
中山氏が見るのは、「何年で回収できるか」だけではない。「5年後、10年後に必要な人を確保できるのか」
人材確保は直近1、2年で厳しさを増し、とりわけ夜間や早朝の人材確保は難しいという。
投資にはリスクがある。
だが、投資を見送ることにもリスクがある。
現在の人件費だけを見て投資を先送りし、5年後に人もスペースも処理能力も足りなければ、物流コストどころか事業成長そのものを止めかねない。
設備を買うのではない。5年後の物流能力を先に持つ。
4拠点の実績から能力を読めるAutoStoreだからこそ、その先行投資を現実の事業計画へ織り込める。
一方、現場を預かる橋口氏は、設備がどこまで能力を発揮できるのか、コストが見合うのかを現場で検証する必要があるとする。
経営が先に踏み込み、現場が実績で裏付ける。先行投資を「賭け」にしないための関係だ。

AutoStore一択ではないからこそ、選び続けている
もっとも、プラネット愛知はAutoStoreだけで構成されているわけではない。
パレット自動倉庫やコンベヤ、新たな方式のロボット倉庫など、多様なマテハンが並ぶ。
トラスコ中山が扱うのは、小さなパーツや精密ドライバーから、パレット商品、机や椅子、長尺のはしごまで。すべてを一つの設備で処理することはできない。
橋口氏は「入れられるなら全て入れたい」とAutoStoreを評価しつつ、商品の特性に応じて設備を使い分ける。
新しい設備も積極的に試す。
中山氏は「やっぱり、やってみないと分からない」と語る。
AutoStoreも1拠点目では挑戦だった。使って評価した結果、5拠点へ広がった。一方、試して「ちょっと違う」と判断し、その後採用しなかった設備もある。
机上のスペックだけで選んだわけではない。試して、使って、選び続けた。
その結果、AutoStoreは「新しい設備」から「主力中の主力」になった。

5拠点分の経験を、次の改善へ
横展開の価値は、同じ設備を増やすことだけではない。
一つの拠点で得た改善知見を、次の拠点へ持っていける。その使いこなしを支えてきたのが導入パートナーのオカムラだ。
トラスコ中山の基幹WMS(倉庫管理システム)や現場運用に合わせ、画面設計やシステムロジックを作り込み、稼働後も改善を継続している。
橋口氏によれば、現場を理解している作業者なら短時間でAutoStoreの操作を覚えられ、現場から「AutoStoreを扱ってみたい」という声が出るのも、設備性能だけでなく使いやすさを磨いてきた結果だ。
プラネット愛知でも、過去拠点で得た要望を踏まえ、入庫ロジックやBINの活用方法を改善している。
設備を納めて終わりではない。使うほど、次の拠点が良くなる。5拠点導入の本当の蓄積は、設備台数ではなく、使いこなすノウハウにある。

自動化できるところで「稼ぐ」
100万アイテム以上を目指しても、すべてを自動化できるわけではない。パレット商品や長尺物など、橋口氏が「物流難品」と呼ぶ商品は残る。
だからこそ、自動化できる領域で徹底的に効率を稼ぐ。
橋口氏はそれを「貯金」と表現する。
AutoStoreで高い生産性を確保し、そこで生み出した人員や時間を、自動化しにくい商品へ振り向ける。
すべてをロボットに置き換えることが、自動化のゴールではない。
人を減らすのではなく、人でなければできない仕事に人を使う。
アイテム数が増えている。増床はしたくない。人も増やし続けられない。
そうした課題は、トラスコ中山だけのものではない。
100万アイテム以上の、その先へ
プラネット愛知は、まだ完成形ではない。
トラスコ中山は将来的に24時間365日稼働も視野に入れる。
人が得意なピッキングは人が担い、搬送や収納、夜間の入庫処理など、自動化しやすい領域を設備へ任せる。まず日曜、さらに夜間へと段階的に稼働時間を広げる構想だ。
1拠点目では「まず使ってみる」設備だったAutoStore。5拠点目では、100万アイテム以上という将来計画から逆算し、建屋そのものに10万ビンを組み込む設備となった。
在庫が増えても、床を同じだけ増やさない。
物量が増えても、人を同じだけ増やさない。
そして、将来必要な物流能力を、必要になる前に持つ。
初期投資額や短期的なROIだけを見れば、設備投資には慎重になりやすい。
だが、本当に見るべきなのは投資額だけなのか。
5年後、人が足りない。床が足りない。処理能力が足りない。
その時になって物流能力を買おうとしても、遅い。
AutoStoreが貢献できるのは、いまの省スペースや省人化だけではない。企業が成長した先でも、物流をボトルネックにしないための力を蓄えておくことなのである。

▲「プラネット愛知」
■トラスコ中山・導入事例紹介サイト■
https://www.okamura.co.jp/mhs/special_site/product/autostore/casestudy/case15/
■トラスコ中山・導入事例YouTube動画■
https://www.youtube.com/watch?v=TKF0D5jXT0U


































