ロジスティクス全日本トラック協会は10月27日、国土交通省からの周知依頼を受け、事業用自動車事故調査委員会の報告書を会員に案内した。対象は2024年5月に群馬県伊勢崎市で起きた大型トラックの死亡事故である。報告書は7月31日に公表され、運転手は始業点呼でアルコールが検出されなかったあと、車が動き出すまでの間に酒を飲んだと推定している。ところが、あわせて示された再発防止策には、「アルコール・インターロック」の名はない。点呼のあとの飲酒をどう防ぐのか。(編集委員・刈屋大輔)
検知器義務化後の死角
事故は24年5月6日の午後4時15分ごろ、国道17号の上武道路で起きた。大型トラックは制限60キロの道を90キロで走り、中央分離帯を乗り越えて対向の乗用車に正面から衝突した。乗っていた3人が亡くなり、後続車の運転者も軽傷を負った。トラックの運転手の血液からは、酒気帯びの基準を超えるアルコールが検出されている。
報告書によると、運転手が点呼を受けたのは午後2時52分ごろ。車が倉庫前から動き出す午後3時44分ごろまでの52分間に、アルコールを摂取したと推定されている。車内には焼酎の空容器が2個残っていた。点呼にも車載カメラにも映らない時間帯を選んだ意図的な飲酒だったと、報告書は記している。
点呼でのアルコール検知器使用が義務になったのは2011年。15年たっても、検査がみるのは受けた瞬間の呼気だけで、その先は制度の外にある。報告書は、点呼から出庫まで時間があく場合に、出庫時の再確認に努めるよう促した。
報告書が示す対策は、飲酒運転を許さない姿勢の表明、防止マニュアルの活用、事例による周知、休憩後の携帯型検知器の使用、AUDIT(アルコール使用障害スクリーニングテスト)による飲酒習慣の確認である。事業者側にも、運転者の特性をつかむ診断や指導が不十分だったとの指摘がある。人と風土を正す取り組みは欠かせない。ただ、エンジンそのものを止める手立てはこの中にない。
進まぬ導入の事情
アルコール・インターロックは、呼気を吹き込み、基準を超えればエンジンがかからない装置だ。国交省は12年4月に技術指針を示し、22年1月には先進安全自動車の導入支援の対象に加えた。報告書によると、各大型車メーカーで注文時に設定でき、全日本トラック協会の助成事業の対象にもなっている。それでも普及が進んだとは言いがたい。台数を示す公的な数字は確認できなかったが、メーカーの1社である東海電子によると、同社の出荷は直近3年、年200台以下である。他社製を含めても、国内全体で出荷は年間数百台規模にとどまるのではないか。

▲自動車搭載型のアルコール検知器(出所:東海電子)
アルコール・インターロックの壁は早くから指摘されてきた。07年1月の関係省庁の勉強会は、欧米製の装置を電気化学式で1台15万-20万円程度と見積もった。同年3月の日本自動車研究所の調査は、冷凍・冷蔵車にエンジンの力で庫内温度を保つものがあり、走らせないが始動は許すという使い方への配慮が要ると指摘している。また、他人に吹き込ませるなりすましには、本人確認が技術的に難しいとして、当時の装置に対策がなかった。
技術指針は、緊急時などのために呼気を吹き込まずに始動できるオーバーライド機能を備えるよう求める。再び吹き込まずに始動できる時間は管理者が設定でき、試験は30分以下の設定を想定している。猶予が長ければ、休憩中の飲酒は素通りしかねないためだ。
本件で装置が事故を防げたかどうかについて報告書は触れていない。自動車工業会がステアリング操作などから飲酒運転を推定する技術の検討を始めたことも報告書は記す。まだ検討段階である。
海外もアルコール・インターロックの全面義務化には進んでいない。EUは22年7月から、装置を後付けしやすくする接続口の要件を型式認証に加えたが、装着そのものは義務ではない。フランスは2015年9月から、座席乗車を前提とするバス(オートカー)すべてに義務づけ、フィンランドは11年8月、自治体や学校が手配し公的補助を受ける貸切の送迎で義務化した。
再び議論を始めるために
26年3月には、第12次交通安全基本計画と第3期アルコール健康障害対策推進基本計画が決まり、事業用自動車総合安全プラン2030もまとまった。第12次は先進安全自動車の項で後付けを含めた「普及促進」を掲げ、第3期は「普及促進を図る」とし、プラン2030は「導入を促進する」と記している。いずれも促す姿勢にとどまる。報告書が事業者に促すのも、必要とみる運転者に絞った取付けの検討である。
勉強会、検討会、技術指針と、国が正面から議論していたのは2000年代後半から2010年代前半。筆者の目には近年、その熱がややトーンダウンしているように映る。義務化の是非や、費用を誰が負うのかを詰めた場は、公開資料を見る限り見当たらない。東海電子は25年12月、飲酒運転の違反者への装着を法制度にするよう、第12次計画への明記を要望していた。
全車への義務化を求めるつもりはない。飲まない大多数にまで、費用と手間を課すことになる。飲酒の疑いがある運転者や、長い休憩後の運行など、リスクの高い場面から入る道があるのではないか。対象を誰にするか、費用を誰が持つか、再始動の猶予をどこに置くか。詰めるべき点は絞られている。
検知器の義務化から15年。点呼のあとの時間を誰が受け持つのか。再び議論が活発になることを切望する。
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