
財務・人事物流業界で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が叫ばれるようになって久しい。しかし、在庫管理や配送管理など「モノ(物流)」のデジタル化が進む一方で、「カネ(商流)」はいまだ前時代的なアナログ処理が取り残されていないだろうか。燃料費や人件費が先行して出ていく物流事業者にとって、長期化する支払いサイクルと煩雑な請求・消込業務は、資金繰りと業務効率の両面で経営を圧迫する要因となっている。
特に、陸海空の輸送サービスを提供する物流事業者や3PL、フォワーダー、EC物流受託会社など、多数の中小荷主を抱える「1対多」の取引構造を持つ企業においては、無数の請求・消込にかかる膨大な手間と、常に付きまとう債権の焦げ付きリスクが重くのしかかり、その重圧は計り知れない。
この商習慣にメスを入れる解決策として期待を集めているのが、「BtoBカード決済」だ。実際、邦船三社(川崎汽船、商船三井、日本郵船)のコンテナ船事業を統合して誕生したOcean Network Express(ONE)が、いち早くこの仕組みを自社の決済プラットフォームに導入し、業界内で大きな注目を集めている。そこで今回、ONEの決済DXをパートナーとして支えるビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)に話を聞き、バックオフィスを解放し新規顧客獲得の武器となるカード決済の真価を探った。

BtoB領域へ拡大するカード決済と、物流事業者の「3つのメリット」
「過去10年でBtoB決済におけるカード利用は、出張交際費から始まり、飲食卸や建設資材、農業などの仕入れ領域へと着実に普及が進んできました。そして、これからの開拓ジャンルとして我々が位置づけているのが、物流・サプライチェーンの領域です」
そう語るのは、Visaの法人ソリューションズディレクター、細谷淳司氏だ。物流業界において、多数の中小荷主を顧客に抱える事業者(売り手)がカード決済を受け入れることには、大きく3つのメリットがあると細谷氏は説明する。

▲ビザ・ワールドワイド・ジャパンの細谷淳司氏(法人ソリューションズディレクター)
「1つ目にして最大のメリットが『売上の増加』です。第三者の調査機関が実施したグローバル調査においても、サプライヤー(売り手)がカード決済を受け入れる最大の理由としてこれがトップに挙がりました。カード払いで支払いを繰り延べ(資金繰りを改善)したいという荷主(買い手)のニーズは極めて強く、カード決済に対応している物流事業者が選ばれやすくなります」(細谷氏)
つまり、他社に頼んでいた荷主が『カードが使えるなら』と自社へ乗り換えてくるため、新規顧客の獲得に直結するというのだ。その理由については後段で詳述する。
2つ目は、与信審査工数の削減と未回収リスクの低減だ。売り手である物流会社が買い手の新規荷主と取引を始める際、通常であれば外部機関などを利用した事前の与信審査を行い与信枠を設定するが、カード決済であればその審査工数を省略できる。さらに、万が一荷主が倒産や支払い不能に陥った場合でも、カード会社が信用リスクを負担することにより、物流会社(加盟店)の未回収リスクは軽減される。
そして3つ目が、請求・突合プロセスのデジタル化による「業務効率の改善」だ。
荷主と物流会社を救う「時間差の魔法」
最大のメリットである「売上の増加(選ばれる理由)」の背景には、荷主企業が抱える切実な資金繰りの課題がある。
商取引において、商品の仕入れや物流にかかるコストは常に先行して発生し、最終的な売上の回収は数か月先になる。このタイムラグは企業規模を問わず発生するが、特に手元資金が潤沢ではない中小の荷主企業にとって、先行する運賃の支払いは「息継ぎなしで長く泳ぐような重圧」となる。「月末締め・翌月末払い」の銀行振込が一般的な保管料や輸送料、作業料の支払いにおいて、カード決済に対応するということは、この重圧に苦しむ荷主に「さらなる息継ぎの猶予」を提供することを意味する。
他方で、売り手である物流会社も、昨今の人件費や燃料費の高騰によって手元資金が潤沢ではない企業が多い。それにもかかわらず、荷主との関係によって「月末締め・翌々月末払い」など、入金までさらに長く待たされるケースも珍しくない。
カード会社が間に入ることは、この「時間差の苦しみ」を双方から取り除くことを意味する。荷主は支払いをさらに先延ばしできる一方、物流会社へはカード会社から決まった期日に入金される。双方の資金繰りを同時に最適化するこの仕組みこそが、BtoBカード決済の真骨頂と言える。
BtoBカード決済を投資対効果で考える
カード決済の利用メリットは広く認識されている一方で、一般的に営業利益率が3〜5%程度とされる物流事業者がカード決済の導入を検討する際には、コストや運用面を含めた総合的な投資対効果の評価が求められる。直接的なコストに加え、関連する業務効率化やリスク低減効果など総合的な評価をすることが重要だ。
例えば、毎月の請求書発行や消込作業に複数の経理担当者を配置する人件費や債権の未回収リスクだ。支払い遅延や債権の焦げ付きは、1件でも発生した場合、薄利な物流事業者にとってその利益圧迫のダメージは計り知れない。
「未回収が一つでも起こると、相当利益を圧迫する状態に陥ります。与信管理にかかる負担や未回収リスク、請求・回収業務の効率化といった観点を含めて、決済プロセス全体の価値を総合的に評価される企業はまだ多くありません。私たちは、業務効率化やリスク管理、キャッシュフローの安定化など、決済がもたらす幅広い価値について理解を深めていただけるよう情報発信を続けていきたいと考えています」(細谷氏)
実際、先述の調査報告によると、BtoB取引における一般的な売り手は、平均して請求金額の4.7%にも上る「見えない請求・回収コスト」を負担している一方、カード決済を導入している売り手は「売上の増加(2.52%)」や「貸倒れの削減(1.48%)」、「外部資金サービスの利用コスト削減(0.66%)」など、合計5.71%のメリットを得ているという。
では、カード決済のシステム導入のハードルはいかほどか。細谷氏は「必ずしも大規模なシステム改修は必要ありません」と語る。「自社システムにAPI連携で組み込む方法だけでなく、オンライン環境さえあれば簡易的なメールで請求を飛ばせるオプションも提供されています。まずは特定のサービスや事業所などで小さくスタートするのも現実的な選択肢」だという。
決済DXは「選ばれる理由」になる──ONEが期待するインパクト
この「決済による顧客体験の向上と新規開拓」にいち早く着手し、業界に先駆けてカード決済を導入したのが、前述のコンテナ船社ONEだ。同社はことし4月、日本市場において中小荷主向けに提供するファイナンス関連総合ポータル「ONE Finance」にVisaのBtoBカード決済を実装した。
ONEジャパン営業本部受渡部の遠山尚部長は、カード決済導入の最大の狙いを「新規顧客の開拓と、既存取引の拡大」にあると明かす。
「今回の取り組みにおける第一の狙いは、これまでお取引がなかった中小荷主様の開拓です。クレジットカードをご利用いただくことで、事前振り込みから事後の支払いに繰り延べでき、運転資金のプレッシャーを緩和していただけます。また、既存のお客様にとっても、経理部門を介する伝票処理や確認作業を減らし、よりスムーズに手続きを進めることができます。我々としては、この決済サービス自体をお客様への付加価値とし、新規の獲得や既存シェアの上積みを期待しています」(遠山氏)

▲ONEジャパン営業本部受渡部の遠山尚部長
決済手段の多様化は、荷主に選ばれる理由となる。さらに、1日700件の銀行振込と、そのうち3割を占める複数B/L(船荷証券)の合算振込という、複数の経理スタッフが対応していた複雑な「着金紐付け作業(消込)」から社内を解放する効果も見逃せない。
こうしたONEの社内で起きていたリアルな課題と、カード決済導入から数か月を経て見えてきた確かな反響の全貌は、国際物流総合展のセミナーにて遠山氏自らの口から明かされるという。
会場:セミナーA 会場(西3ホール)
タイトル:ビザ・ワールドワイド・ジャパン「コンテナ海運大手ONEと挑むB2B決済の構造転換」
詳細:https://www.logis-tech-tokyo.gr.jp/ltt/seminar/#day3
グローバルスタンダードを選ぶ
では、数ある決済手段の中で、なぜVisaが選ばれるのか──。それは単なる決済ブランドとしての知名度にとどまらない。
例えば、海外取引に不慣れな物流会社が、突然海外の荷主から輸送や保管の依頼を受けるケースを想像してほしい。未回収リスクを防ぐため、営業担当者が慣れない言語で前受金の設定を交渉し、経理部門と連携して何とか処理を進める。その業務負担は、同額の売上機会を損失してしまうほど重いものだ。しかし、ここにグローバルで利用されるカード決済のインフラがあれば、そうした煩雑な手続きを丸ごと省くことができる。
「Visaの最大の強みは、グローバルなネットワークです。Visaの加盟店であれば、自国間決済であっても、国を越えたクロスボーダー取引であっても対応できます。海外企業との決済・与信管理負担を軽減できるのは、大きなメリットになるはずです」(細谷氏)
さらにVisaは、現在の法定通貨によるカード決済にとどまらず、ステーブルコインなど次世代の金融インフラへの投資も積極的に行っている。決済インフラをVisaに委ねることは、目先の業務改善だけでなく、未来のグローバルなサプライチェーンの変化に備える強靭な基盤を手に入れることを意味するのだ。
国際物流総合展2026で目撃する、決済DXの最前線
物流業界におけるBtoBカード決済は、まだ黎明期にある。しかし、だからこそ先行して導入する企業は、新規顧客を開拓し、競合に対する圧倒的な優位性を築くことができる。決済はもはや、経理部門の裏方作業ではなく、事業成長のための経営戦略そのものといっていい。
9月8日から東京ビッグサイトで開催される「国際物流総合展2026」において、VisaはONEジャパンと共同でブースを出展する(東7ホール「E7-ZB21」)。ブースでは、ONEの導入事例を交え、BtoBカード決済が物流経営や運営をどう変えるのかを体感できるという。
さらに、9月10日15時からは、Visaの細谷氏とONEジャパンの遠山氏が登壇する共同セミナー「コンテナ海運大手ONEと挑むB2B決済の構造転換」が開催される。なぜONEはカード決済導入に踏み切ったのか、そして実際にどのような成果が生まれているのか──。物流業界の未来を占う生の声と熱気を、ぜひ会場で直接受け取っていただきたい。(編集局・鶴岡昇平)
会場:セミナーA 会場(西3ホール)
タイトル:ビザ・ワールドワイド・ジャパン「コンテナ海運大手ONEと挑むB2B決済の構造転換」
詳細:https://www.logis-tech-tokyo.gr.jp/ltt/seminar/#day3
メール:VisaBSJapan@visa.com
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