
話題中部圏の物流施設開発で、愛知県東海市の存在感が高まっている。昨年2月に本誌が特集した「名古屋港」エリアでは、名古屋市港区や東海市を含む湾岸部が、内陸部の小牧エリアに続く新たな物流適地として台頭していることを示した。そこから1年余りを経て、焦点はさらに絞られつつある。名古屋港を中心に語られてきた湾岸物流の広がりは、東海市という具体的な結節点で、より実装段階に入り始めている。
東海市は、名古屋市中心部に近接しながら、名古屋港、中部国際空港、伊勢湾岸自動車道、知多半島・三河方面を結ぶ位置にある。単に「港に近い」だけではない。自動車、鉄鋼、機械、化学など、愛知県南部から三河エリアに広がる製造業集積と、名古屋都市圏の消費地配送の双方を視野に入れられる点が特長だ。

「港に近い」「列島の中心」だけではない東海市の優位性
名古屋港は、名古屋市、東海市、知多市、弥富市、飛島村にまたがる国際拠点港湾である。2024年の総取扱貨物量は1億5671万トンで23年連続日本一となり、輸出貨物では完成自動車・自動車部品が輸出量の63%を占める。輸入貨物ではLNG(液化天然ガス)、鉄鉱石、原油、石炭などの原料が輸入量の53%を占め、外貿コンテナ取扱個数は259万TEUで国内3位に位置する。中部のものづくりを支える港湾であると同時に、原料、部品、完成品、コンテナ貨物が重層的に集まる巨大な物流基盤でもある。
その名古屋港湾エリアは、一括りにはできない。名港トリトンの東側に位置する東海市、大府市、知多市は「名古屋港湾東部」として、港湾荷役そのものよりも製造業の後背地としての性格が強い。一方、名古屋市港区、南区の「中央」は、港湾部の工業専用地域と都市部への配送を併せ持つ中間拠点。飛島村、弥富市の「西部」は、飛島ふ頭や鍋田ふ頭を抱え、コンテナヤード直結の港湾物流を担う最前線に位置付けられる。東海市の特長は、西部のような港湾直結型ではなく、製造業集積、名古屋消費圏、広域道路網の接点に位置することにある。東京・関西間の中心であるとともに、名古屋の製造拠点と消費圏の中心でもある。
これまで中部圏の物流施設市場は、小牧など内陸部の名神高速沿線が、東西を結ぶ広域配送拠点の軸とされてきた。愛知県と滋賀県を結ぶ幹線ルートが名神高速に限られ、東京―大阪間の往来も小牧ジャンクション(JCT)経由が基本だったためだ。しかし、19年に伊勢湾岸自動車道と新名神高速道路が接続したことで、愛知―滋賀間の基幹道路は複線化した。これにより、東西輸送のルート選択に新たな余地が生まれている。
東海市はまさに、湾岸、空港、製造業、都市配送、広域配送を重ね合わせる新たな選択肢となった。東西広域配送では、名神高速・小牧JCTを経由するルートに対し、新東名高速道路、伊勢湾岸自動車道、新名神高速道路を利用する東海JCT経由のルートが、走行距離を短縮する選択肢として浮上した。名古屋市中心部への近接性も踏まえれば、広域配送と近距離配送の双方に対応できる、中部圏の新たな物流要衝といえる。
東海市の強みは、労働力の面からも見える。東海市に大府市、知多市を加えた名古屋港湾東部の総人口は28万9383人、労働人口は18万540人で、中央(名古屋市港区・南区)の16万6137人、西部(飛鳥村・弥富市)の2万9756人を上回る。労働人口比率も62.4%と3エリア中で最も高い。一方、2キロ圏の平均時給相場は東部が1256円で、西部の1368円を下回る。東部は製造業との人材獲得競争はあるものの、港湾西部に比べれば労働力の母数が厚く、物流施設にとって人材確保の余地があるエリアといえる。
保管費の面では、東部の募集賃料は4967円/坪と、中央の4300円/坪、西部の4050円/坪を上回る。空室率は32.9%で西部の32.0%と同水準に高く、新規大型物件供給の影響も見られる。それでも、労働力の厚み、製造業集積への近さ、東西広域輸送と都市配送の両立を考えれば、東部エリアは単純な賃料水準だけでは測れない選択理由を持つ。今後は、表面賃料だけでなく、雇用、配送距離、BCP、施設機能を含めた総合的な拠点評価が重要になる。
汎用倉庫から、付加価値生む物流拠点の開発進むエリアに
背景にあるのは、物流拠点に求められる機能の変化である。24年問題を契機に、長距離輸送の見直し、中継輸送、共同配送、積載効率向上への関心が高まり、荷主企業は拠点配置そのものを再点検している。中部圏は日本列島の中央に位置し、東西輸送の中間点としての性格を持つが、それだけでは十分ではない。今後は、幹線輸送と地域配送、港湾物流と空港物流、製造業の部品・原材料物流と消費財物流をどう接続するかが問われる。東海市は、その複数の要請を一つのエリアで受け止められる可能性を持つ。
東海市が受け止める物流需要は、単なる保管や通過型の広域配送に限られない。名古屋港を背後に持ち、鉄鋼・自動車・化学などの産業集積に近く、さらに名古屋都市圏や知多・三河方面への配送にも対応しやすい立地では、扱う貨物や求められる機能も幅広くなる。部品や原材料、完成品、輸出入貨物、消費財に加え、危険物、温度管理品、加工・検品・保守を伴う貨物など、物流施設にも従来の汎用倉庫を超えた対応力が求められる。

▲「Landport東海大府I」
その一例が、野村不動産の「Landport東海大府I」(25年10月竣工)だ。同施設は危険物倉庫を備え、法令や建築基準への対応が必要な貨物にも対応する施設として計画された。一般的なドライ倉庫だけでは受け止めにくい物流需要に対応する動きは、東海市周辺の物流施設開発が、単なる床面積の供給から、貨物特性や事業課題に応じた機能提供へ移り始めていることを示す。

▲「プロロジスパーク東海1」完成イメージ(出所:プロロジス)
プロロジスが東海太田川駅西土地区画整理事業区域で計画する「プロロジスパーク東海1」(27年5月竣工予定)と開発計画中の「同2」も、こうした機能分化の流れに位置付けられる。プロロジスパーク東海1では、空調を施設計画の段階から取り入れ、小区画利用にも対応することで、保管だけでなく、加工、検証、保守、事務を組み合わせた都市型の使い方を見込む。危険物、空調、小区画、作業併設といった多様な施設機能が広がれば、東海市は「港に近い物流適地」から、企業の付加価値創出を受け止める物流拠点群へと性格を変えていく。
もう一つの変化は、物流施設が街づくりと接続し始めていることだ。東海市内では、東海名和駅西土地区画整理事業や東海太田川駅西土地区画整理事業を通じ、市と連携しながら新たな都市機能を整える動きが進む。太田川駅西地区では前述のプロロジスパーク東海1、同2東海が開発され、名和駅西地区では「Marq東海名和」(28年10月竣工予定)が計画されている。いずれも、従来のように街から切り離された倉庫ではなく、道路、商業、住宅、教育、雇用など周辺機能との関係のなかで位置付けられる物流施設だ。

▲ことしの夏休みに開催された「東海市ものづくり道場」の様子(出所:プロロジス)
とりわけ太田川駅西側では、駅徒歩圏に大型物流施設が立地し、周辺では商業施設や大学、ホテル、住宅の整備も進む。働く人、地域住民、来訪者が交差する街のなかに物流施設が組み込まれることで、物流施設は閉ざされた保管空間ではなく、雇用や防災、にぎわい、産業支援を担う都市機能の一部となる。この夏休みに市教育委員会が主催したイベント「東海市ものづくり道場」には、プロロジスもペーパークラフト製作体験ブースを設け、積極的な地域交流を進めている。東海市と大府市にまたがるLandport東海Iでは、両市と防災協定を締結して災害時の受援施設として機能するとともに、地域農産品の販売などで地域との連携を深める。東海市で進む開発は、物流施設を「街の外側に置くもの」から、「街の中心を構成する施設」へと捉え直す動きともいえる。
この視点は、今後の物流施設選定において重要になる。大規模な倉庫スペックや高速道路への距離だけでなく、従業員の通勤利便性、休憩環境、庫内作業環境、災害時の地域連携、周辺住民との共存が、施設の競争力を左右するためだ。人手不足が深刻化するなか、物流施設は「荷物を置く場所」から「人が働き続けられる場所」へと評価軸を広げている。駅徒歩圏での開発や、商業・居住機能との近接は、物流施設の人材確保という観点からも意味を持つ。
陸海空と鉄道を結び、BCPにも備える
道路インフラの更新も、東海市の評価を押し上げる。伊勢湾岸自動車道を通じた東西広域輸送に加え、西知多道路の整備が進めば、中部国際空港方面へのアクセスはさらに向上する。東海市は、名古屋港、中部国際空港、中部ゲートウェイベースを線で結んだ「中部圏物流インフラトライアングル」の内側に位置する。陸海空の輸送を組み合わせやすく、豊田市、岡崎市、刈谷市など、愛知県東部の製造業集積から生まれる物流ニーズも吸収しやすい。
さらに、東海市には名古屋臨海鉄道の名古屋南貨物駅がある。同駅は、トヨタ自動車の部品輸送専用コンテナ列車「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」の起点の一つで、中京圏の工場で生産された部品を岩手県金ケ崎町の工場へ運ぶ幹線輸送を担う。名古屋南貨物駅と盛岡貨物ターミナル駅間を1日1-2往復し、同工場への部品輸送量の8割を担うとされる。道路、港湾、空港に加え、鉄道貨物との近接性も、モーダルシフトを含む物流設計の選択肢を広げる基盤がある。
一方で、東海市の物流施設開発においては災害リスクを無視することはできない。湾岸部に近い以上、南海トラフ地震による強い揺れ、伊勢湾からの津波や高潮、沿岸・埋立地での液状化、庄内川などの洪水や集中豪雨による内水氾濫への備えは不可欠である。物流施設には、耐震性や非常用電源、浸水対策、事業継続計画(BCP)対応だけでなく、災害時に地域や行政とどのように連携するかという視点も求められる。
ただし、名古屋港湾3エリアのなかで見ると、津波、高潮、洪水のハザードマップ被害予測は、東部より中央、中央より西部という順に危険度が高まる傾向が示されている。港湾西部はコンテナ物流の中核である一方、地形・地理的要因から甚大な被害が懸念されるエリアでもある。東海市を含む東部は、湾岸部としてのリスクを抱えながらも、港湾機能、製造業集積、都市機能、道路網との距離感を保てる立地として、BCPの観点からも相対的な評価余地を持つ。

東海市周辺は自動車・素材・製造業の集積地であるがゆえに、物流需要も一様ではない。部品や原材料、完成品、輸出入貨物、一般消費財、電子商取引(EC)、冷凍冷蔵、危険品など、求められる施設仕様や運用は多様化する。今後は、標準的なマルチテナント型施設に加え、BTS型や温度帯対応、特殊荷役、共同利用、自動化設備を組み合わせた柔軟な施設設計が問われる。東海市が真に物流拠点として成長するには、単なる床面積の供給ではなく、地域産業の物流課題に応える運用力が必要になる。
名古屋港を中心に広がってきた湾岸物流の視点は、いま東海市で新たな段階に入っている。港湾に近いこと、空港に近いこと、高速道路に接続しやすいこと、製造業集積に近いこと、都市圏配送にも対応できること。さらに、労働力、賃料、BCP、鉄道貨物、街づくりとの接続まで含めて見ると、東海市の物流施設開発は、名古屋港エリアの延長ではなく、中部圏のサプライチェーンを再設計するための新たな拠点形成と捉えるべきだ。
中部圏の物流施設市場は、内陸部から湾岸部へ、さらに湾岸部の中でも具体的な結節点へと視点を移している。東海市はその象徴だ。名古屋港が中部のものづくりを支えてきた「海の玄関口」だとすれば、東海市は港湾、空港、道路、鉄道、地域産業、都市生活をつなぎ直す「次の物流結節点」となる可能性を秘めている。
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